72 不死身の仇敵に挑む
72 不死身の仇敵に挑む
クルム「雷が効いてない。
ヌル、落ち着いて聞きなさい。
アレは生物じゃない。
アレは、ギリーの死体を魔法で操ってる。
ゴーレムみたいなモノよ。」
ヌル「なんだって!?
ギリーは既に死んでいた!?」
(そんな。ギリーは裏切っていないのか?
ギリーはずっと、
魔王の配下に操られていた!?
いや、それじゃ説明がつかない。
そうだとしたら銀竜戦の最後、
地面への衝突を避けられない状況で
俺たちを助ける理由がない。
考えても仕方ない。
とにかく目の前のギリーを倒すんだ!)
クルムは倒れたうまーるに駆け寄った。
幸い、うまーるは生きていた。
全身を強打したが、
砂地が衝撃を和らげてくれたようだ。
うまーるを殴り飛ばしたギリーの左腕が折れ、
骨が飛び出していた。
ギリー「魔術師の体は脆くていかんな。」
ヌルは再び、ギリーに斬りかかる。
ヌルには気掛かりなコトがあった。
ギリーにダメージを与えれば与えるほど、
ギリーの魔力が高まっているような
気配がするのである。
ヌル(魔術師の体? 何を言ってる?
なんだ? この感じは?
これだけダメージを受けてるのに、
余裕すら感じる……。)
レスベラは勝利のツルギ相手に苦戦していた。
致命傷を、かろうじて避けている状況だ。
レスベラ(1本じゃ受け切るの厳しいな。
なんて正確な剣術だよっ!
サブの刀で受けたら折れるな。
だけど一撃だけなら耐えられる。
コイツが見たことない剣術で
コイツをぶっ壊す!)
レスベラは左手でサブの刀を抜き、
右手のミヅハノメを投げ出し、
両手でサブの刀を握りしめ、
勝利のツルギの一撃を受け止めた。
レスベラが右足にチカラを込めると、
水のタラリアは爪先部分の露出が大きくなり、
足の指がフリーになった。
レスベラは右足を振り上げ、
足の親指と人差し指でミヅハノメを掴み
蹴り上げ、その勢いでバク宙をキメる。
レスベラ「酒乱一刀流・酒様!!
足を使った剣技、見たことあるかい?
ごちそうしてやるよ!!」
レスベラの一撃を受けた勝利のツルギが砕けた。
レスベラは折れたサブの刀を投げ捨て、
蹴り上げたミヅハノメを右手で掴み、
ギリー目がけて走る。
ヌルとギリーの激しい攻防に
レスベラも加わった。
相変わらず2人の攻撃は
ギリーの剣に吸い寄せられる。
うまーるの応急処置を終えたクルムも走り出す。
クルム「そいつの攻略法が見えた!
私に任せなさい!」
ヌルは少し距離を取り、自分が持つ剣を投げた。
それは、とてもギリーには当たらない方向に
飛んでいく。
ヌルは魔法を撃つ素振りを、ギリーに見せる。
ギリーはヌルの魔法を迎え撃つ態勢を取る。
レスベラが斬りかかるのを見たヌルは、
魔法をキャンセルし、ギリーに向かい踏み込む。
レスベラが大きくジャンプし、
ヌルが投げた剣を掴み、ギリーに斬りかかる。
レスベラ「ずいぶん久しぶりじゃないのか?
やれんのかヨ?」
ギリー(この女、何を言っている?)
クルム「アンタに劣るのは筋力だけ。
技を習得したのは私の方が早いのよ。」
ギリーは
絶望のツルギでレスベラの剣を受ける。
ギリーはレスベラを見て、驚いた。
ギリー(この大女が持っていた、
長い刀はどこだ!?)
ヌル「ギリィイイイイイイイイイイ!!」
ヌルがギリーに向けて、武器を振り下ろす。
ギリーはヌルの攻撃を受け止める。
ギリー「剣を投げたコイツが、何故武器を!?
大女の刀をコイツが?
いつの間に交換を!?
いや、コレは……フライパン!?」
ヌルが握っていたのは、フライパンであった。
クルムは目を閉じ、集中していた。
クルム(斬るのは敵じゃない。
空間を、座標を斬るイメージ。
殺意を、悪意を消せ。
心を無にする。
無我の境地の剣技。)
クルムはミヅハノメを握り、集中し
構えていた。
レスベラはギリーがヌルを見ている間に
ミヅハノメをクルムに投げ、渡していた。
クルムが地を蹴り、ミヅハノメを振った。
その煌めく青い軌跡はまるで、
濡れたタオルを振ったときに出る水飛沫のようだ。
太陽の光を受けた水飛沫のような煌めきが、
ギリーの体を通り抜ける。
絶望のツルギを握る、
ギリーの右腕が斬り飛ばされ地に堕ちた。
クルム「タカキタ流剣技『其流麗・如清流
〈ソノリュウレイ・
セイリュウノゴトシ〉』」
左腕が折れ、右腕を失い、
絶望のツルギも動かなくなったギリー。
レスベラ「カッコよくキメてこいよ!」
クルム「過去は乗り越えるためにあるのよ。
ソレ、
ちょうどいい踏み台なんじゃない?」
ヌルは包丁を握り、精神統一した。
ヌル(1人では勝てなかったかもしれない。
みんなに引き上げてもらう形になるけど
今日、俺はあの日の絶望を乗り越えたんだ!
ヌルは足から地面へ魔力を伝え、
地を蹴り包丁を振った。
ヌル「地属性魔法『縮地』+居合道・
順刀〈介錯〉」
ギリーの首が斬られ、地に落ちた。
そして首を失ったギリーは倒れた。
いつのまにか雨が上がり、空は晴れ渡っていた。




