66 観光地に寄り道。行き先を間違え、第二の人魚族の里へ。ワガママ令嬢と沈黙のメイド。からの衝撃の事実。
66 観光地に寄り道。行き先を間違え、第二の人魚族の里へ。ワガママ令嬢と沈黙のメイド。からの衝撃の事実。
ヌルは、船を自動運転にしつつ、
ヨーリーから貰った新しい防具を装備した。
自身の装備と、
三人娘がもらった装備を鑑定した。
ヌルが貰ったのは、白亜の鎧と、白亜の小盾。
素材はセラミックに近く、
全属性耐性と斬撃に強いようだ。
反面、打撃には弱いのかもしれない。
軽くて丈夫なようだ。
レスベラがもらったのは、白亜の鎧の女性版と、
水のタラリア。
水のタラリアは水上を歩ける、
という説明だったが、
そんなものは人魚族にとってメリットは無い。
本命は足珠の、『身体能力強化【特級】』
であろう。
そして、レスベラの足にフィットし、
運動能力の高さによる負担を吸収できるという、
唯一無二の靴であるのも、ありがたい。
クルムが貰ったのは、『常夜の帳』
という防具だ。
敵から狙われにくい、隠れやすいという
性能を持つ魔法具だ。
暗殺者が好みそうである。
クルムは聖女なんだけど、
使う武器が暗器だから、
ヨーリーから見たクルムは、暗殺者なんだろう。
うまーるが貰ったのは、『ミラージュ・ピニー』
という防具だ。
移動した時に、敵に残像を見せるという魔法具だ。
うまーるは他にも、白亜の小盾を貰っていた。
ヌル(すげえ装備ばっかり。
どれも国宝級の魔法具なんじゃないだろうか?
ヨーリー様とは、こまめに連絡をとり、
リヴァイアサン討伐の際は
協力しないとかなぁ?
まさか、それが狙いだったり……?)
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人魚国を出発してから2日ほど経過した。
レスベラの提案で、近くにあるという
観光名所『勇気の柱』を見に行くことに。
しばらく進むと、周辺に何もない海から
一本の岩が伸びていた。
クルムの説明によると、直径2メートル、
高さ70メートルらしい。
この細い岩が、先代の魔王『災厄の魔王ラギ』
の領地であった、ラギ大陸らしい。
勇者ザトマルの攻撃でラギ大陸は
海に沈み、ザトマルが立っていた"足場"しか
残らなかったというのだ。
それが"勇気の柱"という名の由来らしい。
ヌル(そんなことある!?
1人の人間がそんなことできる?
まぁ、こんな不自然な人工物、
他に説明つかないか?)
4人はお祈りし、旅を続ける。
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さらに1日が経過した。
陸地が見えてきた。久々の陸地である。
どこまでも砂が見える。砂漠だろうか?
ポツポツと、バオバブのような木が見える。
一旦、船を降りて食事を摂ることにした。
船の中では本格的な料理ができなかったので、久々の豪華な食事になりそうだ。
幸い、この辺りの海は資源が豊富で、
磯でたくさんの食材が獲れた。
また曳航中に仕掛けた網の中にも、
たくさんの食材が獲れていた。
ヌル「今日こそは! 海鮮パエリアと、
ブイヤベースと、
アクアパッツァ行くぞおおおお!!」
レスベラ「待ってたゼ!」
うまーる「わーい!!」
クルム「待たせ過ぎよ。」
ヌルの指示で
レスベラは鯛、イカ、タコを捌く。
さすがの包丁捌きだ。
瞬く間に鯛を三枚おろしにし、
イカは中骨と目とカラス口を取り除く。
鯛の身には塩をふる。
タコのヌメリに手を焼いているようだ。
ヌルは、タコの捌き方の見本を見せる。
大量の塩で揉みヌメリを取り、
その後は洗濯物を洗うように海水で洗う。
小型のタコなので、
ほぼ捨てるところが無かった。
軽く茹でてから、ぶつ切りにする。
頭を取ると、中には卵がビッシリ詰まっていた。
コレは大当たりだ。
鯛の頭と中骨は焼いて臭みを落とす。
うまーるは、貝類を貝殻を擦り合わせるように
洗い、綺麗な海水だけが入ったバケツに入れ、
砂抜きをする。
その後、エビの腰に串を入れ、背腸を取り除く。
ヌルは魔法で貝類を活性化させ、
砂抜きを促進させた。
クルムはタマネギ、セロリ、ニンジン、
ニンニクを微塵切りにする。
ヌルは、焼いた鯛の頭を水から炊き出す。
フライパンには、ぶつ切りのイカタコと
微塵切りにした野菜を入れ、炒める。
ここに、水と焼いた鯛の中骨、エビの頭、
イカのワタとスミを入れる。
エビのミソとイカのワタとスミを溶かしながら
加熱し、エビの頭と鯛の中骨をとりだす。
トマトソースと水、塩、サフラン、
ムール貝を加えて、極上の海鮮スープを作る。
ここで、海の幸とスープを別にし、
スープに生米を入れ炊き上げる。
このとき、蓋はせず、水分を飛ばすように炊く。
米が割れると味と食感が落ちるので、
米は炒めず生のまま入れた。
スープが沸々と湧き始めたら、
鯛の身の切れ端とタコの卵を加え、
中火で放置する。
別の鍋には、鯛のお頭が炊かれていた。
十分に出汁を取ったところで、
殻付きのアサリとエビと白ワインを加えて
煮立てる。
貝とエビの殻からも旨味が染み出す。
ぶつ切りのイカとタコを加え、
一煮立ちしたら火を止める。
フライパンでニンニクの香りを移した油でタマネギと鯛の切り身を焼く。塩胡椒で軽く味を付ける。
海鮮の炊き合わせを半分ずつ2つの鍋に分ける。
Aの鍋は塩味に、
Bの鍋にはトマトソースを加える。
それぞれに焼いたタマネギと切り身を加える。
Bの鍋には隠し味にマヨネーズを加える。
パエリアの方も、良い感じで水分が飛び、
米がふっくら炊き上がっていた。
ヌル「できたあああ!! 海鮮パエリア!
アクアパッツァ!!
ブイヤベース!!!
久々のご馳走だああああ!!
召し上がれ!!」
うまーる「わーい!!
海の幸は大好きなんだよ!!」
レスベラ「これは酒に合いそうだぜ!」
クルム「ずいぶん手間がかかったわね。だ
けどカレーに負けないくらい、
美味しそうじゃない。」
クルムが赤い粉が入った瓶を取り出す。
ヌル「と、とりあえずさ、
先ずはそのまま、食べてみない?」
ヌルは慌てて、クルムを制止する。
うまーるは、アクアパッツァを一口、口に含む。
海の幸の旨味が、シンプルに脳を直撃する。
目を丸くした、うまーるは故郷の海を思い出し、
涙が頬を伝う。
うまーる「海! このお鍋……、海なんだよ!!」
レスベラは、パエリアを頬張る。
米は、濃厚な海の幸の味わいと、
トマトの旨味を吸い込み、含んでいた。
スポンジに水と洗剤をつけて握ると、
泡が噴き出しシンクは泡まみれになる。
この米は、噛むと旨味を噴き出し、
脳を幸せで満たした。
米に混じった、米とほぼ同じ大きさの
タコの卵がプチプチ弾け、
食感にアクセントを加え、
また旨味の追撃をレスベラに食らわせる。
レスベラ「こ、こめ!? こめえええええええ!!
お前、米なのか!?」
レスベラは妄想の世界にトリップし、
米と会話を始める。
クルムが、ブイヤベースを口にする。
海鮮のイノシン酸と、
トマトのグルタミン酸が今、立ち上がり手をとる。
禁断の連携技でクルムをハメ殺しにかかる。
旨味の相乗効果だ。
そこに、隠されたマヨネーズのコクが加わる。
いつもクレバーなクルムが、
恍惚の表情を浮かべる。
クルム「こ、こんなの!
我慢できるワケないじゃないのっ!!」
クルムが瓶から赤い粉を大量に投下する。
ヌル(負けたああああああああ!!
シェフ!!
やっぱりダメでしたああああああorz)
ずんだは、嬉しそうにパエリアを啄む。
ヌルは、笑顔の3人を眺めていた。
ヌル(ずっと。ずっと、
こんな時間が続いたらいいのにな。
3人には、戦いなんて関係ない世界で楽しく、
安全に生きていて欲しい。
早く、そんな世界になるといいな……。
他力本願な考えだな。
俺が、いや、みんなで、
そんな世界を作っていくんだ。
日本の、ティーンのギャルみたいな生活を、
3人にも送ってもらいたい。)
4人は海鮮のご馳走に舌鼓を打った後、
人里を探すため、船に乗り込み走り出した。
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ヌル「この大陸?が目指してたトコなのかな?」
クルム「わからないわね。
方向を間違ってなければ、
そうじゃないかしら?」
海岸線に添い走ると、
やがて小さな港町が見えた。
ヌル「とりあえず、人に訊いてみよう。」
4人は船から降りた。
歩いていると、とある店の前のテラス席に座る、
金髪の高貴な装いの女性が
ピンク髪三つ編みのメイドを
恫喝する場面に遭遇した。
令嬢「この役立たず!
私はミルクティーって言ったのよ!!
これ、カフェラテじゃないのよ!!
もういいわ! 帰る!
アンタは帰ってこなくていいわよ!
クビよ!
もう顔も見たくない!!」
令嬢は、メイドにドリンクを投げつける。
メイド少女の白いエプロンは、茶色に染まる。
令嬢は立ち去った。
どこかで隠れて見ていたのか、
青髪ロングの大人のメイドが駆け付け、
少女メイドを介抱する。
メイド「お嬢様には、私から話すから。
さあ、帰りましょう。」
大人のメイドが少女メイドの手を取り
歩き出そうとする。
大人メイドが、
見ていたヌルたちの存在に気付く。
メイド「そんな……。」
大人メイドが固まり、絶句する。
メイド「ソナ。悪いけど、一人で先に帰ってて。
私は旅人様に話があるから。」
ソナと呼ばれた少女メイドは黙って頷き、
歩き出した。
大人メイドがヌルたちに詰め寄り、
突然、土下座をする。
メイド「旅人様! 娘を助けて下さい!
相応の謝礼はいたします。」
ヌル(うおっ!? いきなり、どうしたんだ?
この人は!?)
「娘さんですか?
先程、高貴な女性から叱られていた、
メイドのお嬢さんですか?」
メイド「いいえ、違うのです。
私の娘は、この街の領主である
先程、メイドを叱りつけていた方の
女でございます。」
ヌル(妾の子か……?)
メイド「ここだけの話なのですが、
メイドのソナ……。
いや、ソナ様は、
本来ならこの街の領主様なのです。」
ヌル(メイドが領主!?
ど、どういう事おおオオオオーー!?)




