65 秘宝・水のタラリア
65 秘宝・水のタラリア
レスベラは全力で走りながら刀を振り回し、
カチカチに凍りついたヒトデ、シャコ、エビを
粉砕した。
立ち止まったレスベラが、
ドヤ顔で自慢げに言い放つ。
レスベラ「酒乱一刀流【ランプ・オブ・アイス】」
ドヤ顔のレスベラに、
クルムが辛口のツッコミを入れる。
クルム「……クラッシュアイスに
なってるじゃないのよ。
このパワーバカゴリラ。」
クルムは畳んだ扇を振り上げ、
まるでお笑い芸人が
ハリセンでツッコミを入れるように、
凍りついたカニをドツキ、粉砕した。
割れた海が元に戻り、レスベラを抱き抱えた
(だきかかえた)アッチが砂浜に戻る。
アッチ「こちらのお嬢さんが
敵を倒した後に倒れた!
早く治療を頼む!」
アッチが叫ぶ。
かなり緊迫し、焦燥した表情だ。
レスベラは頭から血を流し、
足からも大量の血を流していた。
そして気を失っているようだ。
カニを粉砕したクルムが倒れた。
ヌルはクルムに駆け寄り、抱き起こす。
クルムは顔や手足に重度の火傷を負っていた。
ヌルは、必死にクルムに回復魔法を施す。
ヌル「ごめん、ごめんよ!
俺が単独行動をとったばかりに!」
ヌルは涙を流しながら、クルムに治癒を施す。
ヨーリー「しかし、そなたの行動のおかげで
人魚族の赤子が救われたのだ。
どうか悔やまないで欲しい。
ヌル殿の仲間の3人娘は、
傷跡一つ残らず
元に戻すことを保障する。」
ヨーリーが笛を吹くと、ヌル、クルム、
レスベラ、うまーる、アッチが突如
大きな泡に包まれた。
ヌル「これは……ヨーリー様のスキル。
新生児を包んだ泡か。
温かい……。
まるで風呂に入っているようだ。」
ヌルの傷は軽症だったため、
みるみる治癒されていく。
うまーる「ふわあああ。
気持ちいいんだよ、これ。
ずっと入っていたいんだよ!」
シャコのパンチを何度も受け止めたレスベラと、
エビの砲撃の余熱を受け続けたクルムは
重症だった。
2人はヨーリーが一晩預かることとなった。
ヌルは、倒した敵からスキルを獲得していた。
『水ブレス』
『デバフA』
『砲撃S』
『打撃S』
『ヴェノムA』
『トキシン生成A』
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ーー沖合・巨大ブルーホールサイドーー
リヴァイアサンが血を流し、
仰向けで浮いている。
顔に複数の切創がある。
長い角は無く、折れている。
リヴァイ「たいした武力だ。
このワシに傷をつけるとは。
よかろう。貴様はワシに何を望む?」
マハル「我配下の軍と船を襲わぬ事。
そして人魚族の根絶やしだ。
先ずは傷を癒やすと良いだろう。
ギリー、応急処置を。」
ギリーが頷き、
リヴァイアサンに治癒の魔法をかける。
マハルは配下を率いて引き上げた。
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浜辺の激闘から1夜。
ヌルと、うまーるはヨーリーの計らいで、
人魚国の高級リゾートホテルで朝を迎えた。
あんみつを抱いた、
うまーるが朝からゲッソリしている。
ヌル(眠れてるのか? 捨てればいいのに……
うまーるは、頑固なトコあるからなぁ。)
朝食を済ませたあと、ヌルはホテルの厨房を
借り、トマトソースを作りながら、
うまーると共に
マヨネーズの製作にも取り掛かった。
うまーるが卵と酢を泡立て器で混ぜる。
ヌルが、様子を見ながら油と塩を加える。
徐々にトロみが強くなり、
乳化反応で白くなっていく。
出来上がったマヨネーズを瓶に詰める。
うまーるは、
ボウルに残ったマヨネーズを指に取り、舐めた。
クリーミーで滑らか、程よい酸味と塩味。
そして油と卵の旨み。
うまーるは目を丸くし、
初めてのマヨネーズに感動していた。
ヌル「早くレスベラとクルムに、
美味いもの食わせてあげたいな!
もしかしたら、王宮で俺が作るより
美味いもん食ってるかもしれないけど。」
うまーる「そんなことないんだよ!
きっと、喜ぶと思うんだよ!
この、まゆねーず?
すっごい、おいしいんだよ!
コレかけたら、その辺の草でも
おいしくなるんだよ!」
ヌル「草……。」
(うまーるは、食い物で苦労したんだもんな。
うまーるが好きな、
海の幸を食わせてやりたいな。)
ヌルはトマトソースの半分を瓶詰めにし、
残りはケチャップに加工した。
午後からは食材の店が並ぶ市場へと出掛け、
必要な物資を買い揃えた。
買い物が終わる頃、ヌルの目の前に光の文字が
飛んできた。
それは、ヨーリーからの伝言で、
間もなくレスベラとクルムの治療が完了する
という内容であった。
ヌルと、うまーるは王宮へと向かった。
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王宮へ着いたヌル。
玉座に向かう途中、
聴き覚えのある声が聴こえた。
そして、その声の主による謎の歌が聴こえる。
「♪パーラー パッパラパ〜
♪おまーえのーあーたまー ハッピーセット〜」
「♪ポポッ ポッポッポ〜」
間違いない。レスベラと"ずんだ"だ。
ヌル(おいおい、なんちゅう歌を……。
赤と黄色のピエロに暗殺されるぞ!?
それに、ずんだのやつ
見かけないと思ったら、
ちゃっかり王宮の美味いもんを
負傷英雄と相伴してやがる。)
ヌルと、うまーるが食堂に入ると、
真っ赤になった料理と、酒を嗜む2人の姿。
ずんだ用と見られる小皿の料理は赤くない。
麦粥のようなモノを喜んで啄む、ずんだ。
美味そうだ。
テーブルには、空の皿が山積みになっている。
その奥には、昔流行った『猿の反省』
のように、無人の壁に壁ドンして項垂れている
シェフの姿が。
クルムとレスベラは、ヌルと
うまーるに気づく。
レスベラ「おー!もう飯食ったのか?
美味いぞ!ここのメシ!
食ってみろよ!」
ヌル(赤くなる前のなら、食いたかったわ。)
ヌルはシェフの気持ちを察し、
シェフに話しかける。
ヌル「自信を失くさないでください。
美味しいってのは本当の気持ちです。
あの子たちは、
刺激を求めているだけです。」
シェフ「丹精込めて作ったのですが……
まだまだ修行が足りないようです。」
ヌルとシェフは涙を流しながら握手をした。
ヌル「酔い潰れる前に、ヨーリー様のトコに
行こうか。
旅を急がなきゃだし。」
4人は、ヨーリーの元へと歩き出す。
ヌルは、レスベラとクルムの顔を見る。
ヌル(よかった。傷跡が無い。
ヨーリー様がキレイに治してくれたんだ。
ただ、楽観はできない。
今回は本当に危なかった。
今後、この危険な旅に皆を巻き込んで
良いものなのだろうか……。)
ヌルが、ホッと胸を撫で下ろす。
しかし表情は明るくない。
懸念は尽きない。
クルムは、その様子を察していた。
クルム「いやー大変だったわ。今回は。
誰かさんがPOC(風俗店)
してる間に、死にかけたわー(棒)」
ヌル(ぐあっ!耳が痛い!)
クルム「勘違いしないでよね。
負けて死んだとしたって、
アンタの責任とかじゃないから。
死ぬまで戦う方が悪い。
戦う?逃げる?の判断ができないのは、
ただのバカよ。
わかった?」
クルムが扇でヌルのケツを叩く。
ヌル「はい。でも、死なれたら悲しいから、
死なないでね。」
クルム「アタシが負けるワケないでしょ。
もちろんゴリラも。」
レスベラ「心配すんなって!
敵が強けりゃ、
アタシも強くなるって!」
レスベラが、ヌルの背中を叩く。
なかなか強烈だ。
ヌル「ゲホッゲホッ!」
咳き込み、足元の視界が目に入ったヌル。
レスベラが裸足であることに気付く。
ヌル「あれ? レスベラ、靴は? どしたの?」
レスベラ「ん? あー、珊瑚の上で戦ってたら、
壊れちまった……。」
ヌル「そっか。買いに行かないとな。」
レスベラ「んーー……あー……」
クルム「売ってないのよ。」
ヌル「え?」
クルム「コイツの足、42センチ。
特注じゃないと、まず無いわね。」
レスベラ「言うなよ!!
女王様にお願いしたから、
大丈夫だよ。」
レスベラは少し恥ずかしそうだ。
大きな女の子はオシャレで悩む子が多い。
モデル並の身長があっても、
一般に売ってる服とかだと、サイズが無いらしい。
ヌル(そうか。レスベラが水の上を走れるのは、
体重に対する足の大きさか。
そして足の回転力。
水の上を走るトカゲも同じ原理だな。)
そんな話をしながら歩いていると、
ヨーリーが座る玉座が見えてきた。
その両隣には、アッチと、ともっちょが佇む。
ヌルたちとヨーリーを結ぶ線上には
レッドカーペットが敷かれており、
レッドカーペットの両脇に並行して
兵士が並び敬礼する。
まさしく、英雄の凱旋といった雰囲気だ。
ヨーリーの前に跪く4人。
ヨーリー「楽にしてちょうだい。
もう私達、友達だと思うのよネ。」
ヌル「そんな、畏れ多いですよ。」
ヨーリー「ヌルちゃんの裸も見ちゃったしね♡
いいじゃない♪
堅いコト言わないでヨ。
肝心なトキに硬くなればいいのヨ♡」
ヨーリーが微笑む。
ヌルは顔を真っ赤にして俯く。
海竜のブレスでマッパになったあと、
激闘が続き、そして意識を無くした
レスベラとクルムの事もあり、
しばらくヌルはマッパで動いていたのだ。
クルム「まぁ、いつもの事だしね。」
レスベラ「そうだな。見慣れたな。」
うまーるは眉毛を寄せ、複雑な顔をしている。
ヨーリー「お待たせしたわね。
船の速度を上げるモノ、
用意できたわよ。
乗り捨ててあった
エルフの船に取り付けて、
人魚国まで移動しといたから。
あと、
ベラちんの靴ね、相談があるの。」
レスベラ「やっぱり、作るの時間かかるかな?」
ヨーリー「そうね。それもあるんだけどね。
あげるわけにはいかなくて、
貸し出しになっちゃうんだけどね、
いいのがあるの。」
ヨーリーが合図をすると、ともっちょが
ガラスで出来たミュールのような靴を
宝箱から取り出した。
それは、透き通ったガラス細工のようで、
靴の形をしていた。
くるぶしのあたりには綺麗な青い宝石が
埋め込まれ、翼のような飾りがある。
色は、虹のようにグラデーションした極彩色だ。
ヨーリー「これはね、古の人魚の女王が使っていた
魔法具『水のタラリア』なの。
魔法の力を込めた水で出来てるの。
中の宝石は、
十至珍宝【足珠】よ。
色が付いてるのは、練り込まれた
宝石の粉の色なんだって。
水の上を歩くチカラが込められてるわ。
人魚族の秘宝よ。
これを
ベラちんに使ってもらおうかなって。
ちなみに水のタラリアを作り、
使いこなしたのは、歴代の人魚族最強
の剣士であり、
最高の彫刻家でもあった女王様。
先日破壊された封印の守護像も、
その女王が作ったものよ。」
ヨーリーはレスベラに水のタラリアを手渡す。
レスベラ「あー……。ちょっと小さいカナ……。
え?」
レスベラが水のタラリアを手に取ると、
水のタラリアは大きくなった。
ヨーリー「やっぱりネ。
水のタラリアは、
ベラちんを認めたようネ。
履いてみて。」
レスベラは、水のタラリアを履いた。
履く直前に、
水のタラリアはさらに大きくなり、
レスベラが足を入れると縮小し、
ピッタリのサイズになった。
レスベラ「うおお! フィット感すげえ!!
こんな靴、初めてだ!!
身体の一部みたいだよ!!」
ヨーリー「私たちはこれから、リヴァイアサン
対策を急がなきゃいけないの。
それが終わったら、一緒に魔王ちゃん
にオシオキしようね?」
ヌル「一緒に……戦ってくれるんですか?」
ヨーリー「もちろんじゃない。
こまちゅとレイカも、そのつもりよ。
とりあえず、ヌルちゃんたちは旅を
続けるんでしょ?
たまには会いに来てネ♡
もう行っちゃうの?」
ヌル「はい。急がなきゃいけませんので。」
ヨーリー「15分くらい時間もらえないかな?
使命があるとはいえ、あなた達、
少し装備が貧弱だと思うの。
それに、年頃の女の子3人とも、
服がボロボロじゃない。
私からプレゼントがあるのよ。
着替えてる時間に、
ヌルちゃんと話したい事もあるし。」
ヌルは3人を見た。
たしかに、ヨーリーが言う通り、
長旅の過酷さが服装に滲み出ている。
ヌル「わかりました。お願いします。」
3人は、侍女に連れられて行った。
ヌル「ヨーリー様、話とは?」
ヨーリー「レイカから聞いたわ。
ヌルちゃんは環境問題に詳しいって。
最近、近海が元気ないのよネ。
この辺りなんて、
珊瑚が白くなっちゃったのヨ。
それとね、昨日見たような、
おっきいヒトデが珊瑚を
食べちゃうのよ。
いっぱいいて、キモいし。
珊瑚礁に棲む生き物も
減ってしまったのよ。
なんだかわかる?」
ヌル「それは、珊瑚の白化現象ですね。
海水の温度が上がるのが原因です。
珊瑚と共生する藻類は
低い温度の海水を好みます。
珊瑚は自分で食事もします。ですが、
主に共生する藻類が光合成をして、
それで得た栄養を珊瑚に渡します。
水温が高くなると藻類が死んだり
逃げたりして、珊瑚は藻類から栄養を
受け取れなくなり、餓死します。
ヒトデに関しては、
海藻を増やすのが1番です。
海藻は珊瑚の天敵ですが、
それ以上の天敵である、
ヒトデを遠ざけます。
ヒトデは海藻を嫌うのです。」
ヨーリー「対策はある?」
ヌル「1番良いのは、高い温度の海水を好む
藻類を珊瑚に定着させることです。
海藻に関しては、
ウニを増やし過ぎないことでしょうか。」
ヨーリー「なるほどネ。
人魚族の海に詳しい学者に
相談してみるわ。」
ヌル(これは、地球でもかなり深刻な問題だ。
珊瑚礁は、森林以上に二酸化炭素を吸収する
能力がある。
珊瑚の死滅は温暖化を加速させる。
一見、災害にしか見えない台風も、
海水の温度を下げる働きがある。
沖縄に一度も台風が来ない年は、
珊瑚が大量死したりする。)
ヨーリー「あとネ、船の改造の話なんだけど。
説明しておくネ。
エルフの船に取り付けたのは、
イカちゃんなのよ。
『ジェット・スクイッド』ていう、
大型で速く泳げる種の、イカちゃん。
それを魅了して
船を引かせるの。
船の舵のトコに、イカちゃんに
声を届ける魔法具を取り付けたから、
話しかけるだけで速度や進行方向を
調整できるわ。
もちろん、イカちゃんに通じるように、
翻訳機能付きよ。
イカちゃんは、餌とか自分で
獲って食べるから世話とかは大丈夫。
ただ、過労にならないようにだけ
気をつけてあげてネ。
名前は『ヤラナ』よ。
大事に、可愛がってあげてネ。」
ヌル「ありがとうございます!」
3人が戻ってきた。
見違えるような外見になっていた。
レスベラは、白い鎧を着ていた。
鎧というよりは、インドの民族衣装【サリー】を
ミニスカにしたような感じだ。
サリーに胸当てや肩当て、草摺などが
付いている感じで、アシンメトリーな感じが
オシャレを醸し出す。
左側が守備力強めで、
動き易さを追求したのか、右は露出が多い。
鎧部分は、金属とは違う、白っぽい貝殻のような
素材だ。
布部分は薄い青色だ。
胸元が少し開きつつ、短めのスカートが、
レスベラによく似合う。
クルムは、ベトナムの民族衣装【アオザイ】の
ような衣装に身を包んでいた。
細身で長身のクルムによく似合っている。
色は、どこまでも吸い込まれそうな漆黒だ。
うまーるは、フィンランドの民族衣装【コルト】
のような衣装だ。
短めのスカートに、フリル。メイドっぽい。
赤と青の明るい色合いとカワイイ感じのデザイン
が小さな身体の、うまーるによく似合っている。
わかりやすく例えると、アニメで有名な
『アルプ●の少女・廃次』が着ている
服の白い部分が、濃い青になってる感じだ。
ヨーリー「ヌルちゃんの新しい鎧は、
船に積んでおいたから、
あとで着替えてね。」
ヌル「こんなにたくさん、
ありがとうございます!」
4人は、ヨーリーに感謝をし、王宮を後にした。
王宮の外には、たくさんの人魚の民が
見送りに駆け付けた。
ヌルが助けた赤子の父親の男性は、涙を流しながら敬礼をしている。
船を見ると、
船の下に赤くて巨大なイカが泳いでいる。
船に乗り込み、ヤラナに話しかける。
ヌル「ヤラナ!前進お願い!」
ヌルが舵に向かい話しかけると、船が急加速し、
舵を掴む手に慣性のGを感じた。
ヌル「うおお! 速えええええええ!」
レスベラ「いいね! ガンガン飛ばせ!
ヤラナー!!」
うまーる「すごいんだよ!人魚国が、
どんどん小さくなるんだよ!」
クルム「頑張りなさい。
泳げなくなったら、スルメよ。」
レスベラの言葉なのか、はたまた
クルムの言葉が効いたのか、船は更に加速した。
次の目的地は南の大陸にある、
オーリヤマ人間国だ。




