64 人魚族の底力
64 人魚族の底力
ヌル「さあ、反撃だ!
(とはいえ、
この不快な音をなんとかしないと!)
ヌルはヒッポキャンパスの脚に斬りかかるも
鱗は硬く、傷は付かない。
ヌル「氷魔法『アイスアロー』!」
ヌルはスカディ達が使っていた魔法を参考に、
氷柱を飛ばし、海竜の胴を攻撃した。
しかし、ヒッポキャンパスの皮膚は厚く
効果が無い。
ヌルはヒッポキャンパスの踏みつけを
回避しながら、海面スレスレを飛行した。
ヌルは海水をジェット噴射させ、
ヒッポキャンパスの顎をめがけて、
ボクシングのアッパーカットのように、
盾を構えタックルをした。
下から顎を打ち上げるような、
シールドバッシュを喰らった
ヒッポキャンパスが、一瞬よろめいた。
しかしダウンを取れるような
決定打にはならない。
怒ったヒッポキャンパスが海面に顔をつけ、
海水をチャージする。
踏みつけから
水のブレス攻撃に切り替えるようだ。
ヌル(チャンス!)
ヒッポキャンパスがヌルに向け、
高圧の水ブレスを放つ!
ヌルは、ヒッポキャンパスの水ブレスを
喰らいながらも、
水ブレスに向けて雷の魔法を放った。
ヌル(海水は電気を通しやすい! くらえ!)
ヒッポキャンパスが大きくのけぞり、
ネーレは海に落ちた。
辺りに響いていた、不快な音が途絶えた。
ヌルに水のブレスが直撃したが、
ヌルが装備している海棲キメラの素材で作られた
鎧は、水に対する耐性が強かったため、
肉体的には致命傷にはならなかった。
しかし、鎧は壊れてしまう。
激しい水流により、もはやお約束である
ズボンと下着も流され、
ヌルは全裸にされてしまった。
ヌルが起き上がると、
ネーレが海面から顔を出した。
ネーレ「小癪な!」
ヌルは全裸に海水を纏い、
海水をジェット噴射しながら飛び回る。
アホ丸出しな光景だが、皆必死だ。
よって、
【誰もツッコミを入れてくれない!】
ネーレがヒッポキャンパスの背に
乗ったところで、ネーレとヒッポキャンパスが
シャボン玉のような、たくさんの泡に囲まれた。
ヌルの目の前にもフワフワと3つの泡が現れ、
それは弾けて言葉となった。
「さ が れ」
それはヨーリーの声であった。
ヌルはヨーリーの声がした泡に対し、
危機感を覚え急いで退いた。
ヌル「泡から、凄まじい魔力を感じる!
コレはヤバい!」
ネーレの周りの泡が弾け、言葉になる。
「お ま え の い の ち で
あ が な え」
砂浜に、たくさんの人魚族を従えた
ヨーリーが現れた。
笛の音のような美しい音が響き渡る。
ヨーリーはとても長く、
白い横笛を口にしていた。
その素材は白く、
サンゴか貝殻が素材のように見える。
クルム「人魚族の秘宝
『泡沫〈うたかた〉の神楽笛』……。
音色も泡も神々しい……。」
ネーレ「ヨーリーか!
キサマの首、もらい受ける!」
ネーレは、再び呪いの音を発する
ヴァイオリンを使おうとする。
その瞬間、ネーレとヒッポキャンパスを囲む
たくさんの泡が一斉に弾け、大爆発を起こした。
泡には、圧縮された高温の空気が詰まっていた。
周囲には肉が焦げた嫌な匂いが充満し、
火の付いた破片が降り注いだ。
ネーレとヒッポキャンパスは、
灰となって消えた。
エビ「ネーレ様! まさか、殺られエビ?」
ヒトデ「ヒッポキャンパスまで即死スター☆?」
シャコ「これはマズいシャコ!」
あたりに、
鳴鳥の囀りのような笛の音が響き渡る。
美しい笛の音と共に、
4色の泡がヌルたちの頭上に降り注いだ。
それは割れると、それぞれ楽器の音と共に
魔法の効果が降り注いだ。
鉄琴の音、木琴の音、ハープの音、
チューブラーベルの音。
魔法の効果は、治癒、スタミナ回復、魔力回復、
身体強化であった。
また、ともっちょをはじめとした、
人魚族の歌魔法が合唱となり、
戦う者達を鼓舞した。
こちらの魔法にもバフ効果があるようだ。
「♪春風のような あなたの温もり
♪私の心を 静かに溶かしてゆく」
クルム「雪融け……。」
レスベラ「おお!
アタシの好きな歌だ! 元気出るぜ!」
うまーる「レスベラお姉ちゃんに
初めて会ったとき、
お姉ちゃんが歌ってた歌なんだよ。」
「♪あなたはいつも ひとりで背負う
♪私をおいて ひとり旅立つ」
シャコのジャブを受けるレスベラ。
レスベラ(ヌルは躱せと言ったけど、
コイツのパンチの威力を利用して、
コイツの拳を斬りたいな。
そのためには、
球に対して垂直に刃を入れないと
弾かれる。
あの爆弾のような破壊力と
刹那の速さの攻撃の点と点を正確に、
捉えなきゃいけない。
アタシはまだまだ強くなれる。
こんなヤツ相手に退いてはいられない!
もう、あの不快な音は無い!
味方の援護でバフもかかってる!
これで出来なきゃ、
役立たずもいいとこだぜ!)
シャコが拳を引き、タメる動作に入った。
レスベラは両手でミヅハノメを握り、
野球の打者のように構える。
レスベラが真横に、
シャコの拳に対して水平になるように、
刀を振るう。
シャコ「もう遊びは終わりシャコ!
ソノ・ルミネッサンス!」
シャコの渾身のパンチに、
レスベラの斬撃がカウンターできまる。
シャコの両拳が、まるで包丁で2つに割られた
スイカのように、切断されていた。
シャコは身の危険を感じ、たまらず後ろに跳ぶ。
シャコは海に身を潜める。
ヌル(逃がすか!)
ヌルは骨伝導スピーカを使い、
人魚族たちに話しかける。
ヌル「お願いがあります! みなさんの魔法の
チカラで、海面に塩分濃度が高い海水を
集めてほしいのです。
ヤツラを一網打尽にする一撃を放ちます!
お願いします!」
ヨーリー「皆のもの! 奪われた同胞13人の顔を
思い出せ! 初めての挑戦だが、
やり遂げるぞ!」
人魚族たちは、魔力を集中し、
海を動かし始める。
新たに魔法を使いながらも、歌は継続される。
「♪眠れぬ夜は 空を見上げて
♪星を結んで あなたを重ねる」
エビとクルムが激しく撃ち合う。
エビは衝撃波を放つと、
即座に海中に身を潜める。
クルムの風攻撃は
海面に当たり消えるの繰り返しだ。
しかし突如、エビの動きが鈍る。
クルム「ようやく効いてきたようね。
この鈍感野郎。
大気は海中に溶けるのよ。私の毒もね。」
エビ(おかしいエビ! 上手く泳げないエビ!)
エビが沈んでいく。
「♪おいて 行かないで
♪行かないで 行かないで」
波打ち際では、
うまーるとカニが攻防を繰り広げる。
強固な甲殻を誇るカニは油断していた。
うまーるが放つ蹴りによる打撃など、
痛くも痒くもないからだ。
敵の音攻撃から解き放たれた、うまーるは
本来の素早い動きで翻弄しながら
カニに蹴りを浴びせる。
もちろん蹴りは効いていない。
しかし、カニの体表には
プラスの電荷が付与されていた。
うまーるが左足で、鳴雷〈ナルイカヅチ〉
を使い、カニに放電を浴びせる。
雷はカニの海水でできた泡を伝い、
体内を焦がした。
カニは波打ち際に倒れた。
「♪あなたの 無事を願う
♪これからも 伴に居たいから」
アッチと交戦するヒトデが狼狽え、
海中に逃げ込む。
アッチが踏み込み、魔力を込めた槍を振るう。
海が裂け、ヒトデの左腕が斬り落とされる。
ヒトデ「海ごと斬ったスター☆!
まぁいい、腕なんかすぐ再生するスター☆
ここは一度、撤退スター☆」
「♪陽だまりのような あなたの微笑み
♪わたしの雪も 溶けて川になる」
ヌルは溜めた魔力を両腕に集中し、
海面に手を充てる。
ヌルは、天空竜が遺したスキル
『ショックフリーザ』を放った。
ヌル「くらえ! 海と氷の複合協力型高位魔法!
冷たい海に棲む生物を、一瞬で凍死させる
死の氷柱【ブライニクル】だ! いけぇ!」
マイナス60°Cに冷やされた高濃度の塩水が、
凍る事なく下降し、周りの海水を凍らせながら、
たくさんの氷柱のようになり海底に向かう。
海底に到達したそれは、
渦になりながら海底を走り出す。
シャコ「俺の自慢の拳がオシャカだシャコ!
あの女、必ず殺してやるシャ……
ヒトデ「なんだこのショボイ渦潮は?
こんなの痛くも痒くも無いスタ……」
渦に触れたヒトデ、シャコ、エビが
一瞬で凍りつく。
波打ち際にいたカニも凍り付く。
アッチは海に飛び込み、
渦を避け高速で海底を目指し泳ぐ。
海底に槍を突き刺し、魔力を送り込む。
アッチの槍は魔法具で、
その能力は磁界を操作するものであった。
磁界の力で海水を操り水の抵抗を無くし、
海中でも素早く動ける効果であった。
アッチ「魔法具『海風のトリアイナ』出力全開!
スキル【海割】!」
アッチは海を割った。
その光景は、モーゼが起こした奇跡のような、
映画のワンシーンを彷彿とさせる。
割れた海底をレスベラが走り、クルムは追い風を送り援護する。
レスベラは海が割れ、海底に転がる3体の
凍りついたヒトデ、シャコ、エビを狙う。
レスベラ「酒乱一刀流……
やべ。技名おもいつかねえわ。」
レスベラは、地元の酒場の店主『くっきー』が
器用に氷を削り、丸い氷を作る様子を思い出した。
レスベラは全力で走りながら刀を振り回し、
カチカチに凍りついたヒトデ、シャコ、エビを
粉砕した。
立ち止まったレスベラが、
ドヤ顔で自慢げに言い放つ。
レスベラ「酒乱一刀流【ランプ・オブ・アイス】」
ドヤ顔のレスベラに、
クルムが辛口のツッコミを入れる。
クルム「……クラッシュアイスに
なってるじゃないのよ。
このパワーバカゴリラ。」
クルムは畳んだ扇を振り上げ、
まるでお笑い芸人が
ハリセンでツッコミを入れるように、
凍りついたカニをドツキ、粉砕した。




