63 クライシス
63 クライシス
兵士「ヨーリー様、大変です!
封印の守護像が
怪物たちにより破壊されました!!」
ヨーリーの顔色が変わる。
ヨーリー「並の武具では傷さえ付かぬアレが……。
……そして
リヴァイアサンが解き放たれた……。」
ヨーリーの顔色を見たヌルは、
事態の重さを察知した。
ヌル(アマツミカボシ級の怪物が放たれたか。
しかし今は目の前の敵に集中だ。
海岸の様子も気になる。3人の事も心配だ。)
ヌルは外傷が無い死体に注目した。
口を大きく開いたまま絶命している。
とりわけ、死体の舌の損傷が激しい。
ヌル(海棲生物、口の中、舌…。)
ヌルは思い出した。
地球で働いていた頃、ヌル(ぬるゆ)は魚を捌く
機会が多かった。
とりわけ、春によく見る"細魚・サヨリ"の
口の中には寄生虫が多かった。
旬の時期はほぼ100%に近いくらい、サヨリの
口を開くとソイツが居たのである。
ソイツの名は『ウオノエ』である。
白いダンゴムシのような形状であった。
ヌル(これが、
敵の刺客の仕業ならば……!)
ヌルは、風魔法【エコーロケーション】を
展開した。
ヌル(まだこの辺に敵の刺客が
潜んだ人がいるなら、
きっとその人は口を開かないハズ。
……いた!10秒近く、口を開かない人が。)
それは、人魚族の女性であった。
ヌルは、その人の元へ全力で詰め寄る。
ヌルは右手で剣の柄に手を添え、
いつでも斬りかかる準備だ。
ヌルは自身の前にモザイク魔法を展開し、
自分自身の画像を貼り付けた。
(チィィッ!なぜバレた!?
まぁいい。
次はお前だぁふぉっ!?)
寄生された女性の口が大きく開く。
小型の生物が、ヌルの口を目がけて
勢いよく飛び出した。
その生物は、とても硬い物に衝突し、
地面に落下した。
それは拳大サイズの、セミのサナギのような生物であった。
その生物がピクピク痙攣している。
ヌルはモザイク魔法を解除した。
ヌルは自身の顔の前に
左手でフライパンを構えていた。
ヌルの口を目がけて飛びついた生物は、
フライパンに全力で衝突する形となった。
落下した生物に剣を突き立てるヌル。
ヌルはスキル『操作術A』を手に入れた。
ヌル「ヨーリー様!敵の刺客を仕留めました!
もう通り魔の心配はありません!」
ヨーリー「皆のもの!もう通り魔はいない!
落ち着いて避難せよ!!」
先程、敵の刺客が最後に寄生していた女性が
倒れ、彼女を支えている男性が狼狽えている。
男性は、女性の名を大きな声で呼ぶも、
反応は無い。
ヌル(他の寄生された遺体を見る限り、
口腔内から頭部にかけての損傷が激しい。
操作するために脳に干渉していたのだろう。
おそらく助からない…。)
ヨーリーと、ともっちょが駆け付ける。
男性「くるる!くるる!シッカリしろ!
頼む!目を覚ましてくれ!!」
ヨーリーが男性の肩を掴み、落ち着くよう促す。
ともっちょが女性に回復魔法をかけるも、
生命活動を停止している肉体には効果が無かった。
男性「そんな!もうすぐ産まれるのに!
ああああああああ!!」
男性が泣き崩れる。
ヌル(もうすぐ産まれる!?
女性のお腹の中には胎児がいるのか!?
……女性が心肺停止してから、
それほど時間が経ってないハズ。
まだ間に合うかもしれない!
いや、間に合わせて見せる!!)
「ヨーリー様!ともっちょ様!
子供の救助活動をしましょう!
急いで建物に女性を運んで、
人払いをして下さい!!」
ヌルと兵士が協力して、
女性を近くの建物に運ぶ。
建物の中はヌル、ヨーリー、
ともっちょの3人だけだ。
ヌルは急いで女性の腹を切り開く。
その様子を見るヨーリーと、ともっちょが顔をしかめる。
帝王切開は、この世界では馴染みが無いようだ。
ヌルは作業をしながら、
検索魔法で新生児の心肺蘇生法を確認する。
女性の腹から胎児を取り出したヌルは
胎児を寝台に寝かせ、気道の確保をした。
やはり胎児も心肺停止している。
ヌル「ともっちょ様!
回復魔法をかけ続けて下さい!」
ヨーリー「死人に回復魔法は…。」
ヌル「私が、この子の心臓と肺を動かします!
おそらく、効果があると思います!!
お願いします!!」
(無酸素状態のダメージを少しでも
回復できれば、制限時間は伸びるハズだ!)
ともっちょは子供の傍に座り、
祈るように魔力を送り込む。
ヨーリーも祈るように魔力を送る。
ヌルは手順どおり、
心臓マッサージを30回の後、人工呼吸を2回。
この動作を繰り返す。
ヌル(これを、いつまでやればいい?
やはり、AEDが無いとダメなのか?)
ヌルは心臓マッサージと人工呼吸を続ける。
ヌルの額から汗が流れ落ち、息が乱れる。
ヌル(心臓マッサージ…こんな疲れるのか!)
ヌルは作業を続けながら、
AEDの原理について調べる。
ヌル(1200V、50A。どのくらいだ?
家電なんかに使われるのより、
かなり強いよな。
弱めのを一瞬だけ、やってみよう。)
「少し離れてください!
電気ショックいきます!」
ヌルは魔力を練り、左手を胎児の右胸、
右手を左脇腹に当てた。
一瞬だけ、雷の魔法を流す。
胎児の体が、大きく跳ねた。
ヨーリー「大丈夫なのか!?」
ヌル「信じてください!!
回復魔法は継続でお願いします!!」
(心臓は…動かないっ!
また心臓マッサージから再開だ。
5サイクルやった後、また電気ショックだ。
チャンスは3回まで…!)
汗だくのヌルが、
心臓マッサージと人工呼吸を続ける。
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ーービーチサイドーー
うまーる、レスベラ、クルムの3人と
海辺の魔王軍が対峙していた。
クルム(あれは…海竜ヒッポキャンパス…。
神話の化け物。
それと魔法具を持ったキメラに
巨大な強化生物が4体……。
絶望的ね。)
クルムは扇を構え、小声で話す。
クルム「一か八か、毒の竜巻を食らわせる。
一瞬でも気を抜いたら死ぬと思いなさい。
エビもカニも異形。
何をしてくるか、わからないわよ。」
うまーるは静かに頷く。
レスベラはミヅハノメを抜き構える。
シャコ「人魚族じゃないシャコ。
ネーレ様、アイツもぶっ殺すシャコ?」
シャコは指揮官である、人間の首から上をウミヘビにしたような、
異形の女のキメラ『ネーレ』に確認を取る。
エビ「やる気なんだから、やっちまうエビ。」
カニ「…………。」
カニは話せないようだ。
クルム「瘴気乃暴風『壱乃風』!」
黄色い竜巻がキメラ達を襲う。
ネーレ「海に飛び込め。」
魔王軍は海の中に身を隠す。
クルム「……やっぱりね。
まぁいいわ。根比べよ。」
風がおさまる頃、海中からヒトデが飛び出す。
ヒトデが体当たりを仕掛けてきた。
ヒトデ「穴だらけにしてやるスター☆」
ヒトデの体当たりに、カウンターを合わせようと
するレスベラ。
レスベラに向かうヒトデの前の砂浜に
飛んできた槍が突き刺さる。
ヒトデは急旋回し槍を避けた。
アッチ「お嬢様方、大丈夫ですか?」
登場したのは、人魚族の騎士と、
騎士団長のアッチであった。
【お嬢様】という言葉に顔が赤くなるレスベラ。
レスベラ「アッチさんイイ男だよナ〜。」
クルムがレスベラのケツに蹴りを入れる。
クルム「集中しなさい。」
エビ「人魚族が来たエビ。」
シャコ「劣等種族シャコ。」
エビ「※海の生物は、全てカニに進化するエビ。」
シャコ「※カニこそが進化の頂点シャコ。」
※収斂進化。最後に詳細追記します。
レスベラ「お前らもカニじゃないじゃん。」
エビ「言ってはいけない事を
言ってしまったエビ。」
シャコ「潰して魚のエサにするシャコ。」
ネーレ「役者は揃ったかねぇ。始めようか!」
キメラが、ヴァイオリンのような魔法具を
奏でると、まるでガラスを削るような
不快な高音が響き渡る。
クルム「!!
この音はっ…。」
レスベラ「うう。力が抜けるゾ。」
うまーる「コレはマズいんだよ…。」
ネーレ「アハハハハハハ!
さぁお前ら!やっちまいな!!」
エビ、カニ、シャコ、ヒトデが襲い掛かる!
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ーー修道院前広場サイドーー
ヌルは、2回目の電気ショックに
とりかかろうとしていた。
ヌル(きっと、この旅を続ける限り、
これからもたくさんの人の死に
立ち会うことになる。
でも、慣れちゃダメだ。
俺にとって
たくさんの死であっても、
その人達にとっては、かけがえのない、
たった1回の人生なんだ。
救える命は救う。
それで遠回りになるかもしれないけど、
かまわない。
もうあんな悲しい思いや、
悔しい思いをしないために、
俺は40年をやり直したんだ!)
ヌルのカバンの中の、銀の女神像が淡く光った。
ただ、これは誰にも気づかれる事はなかった。
ヌル「いくぞ、2回目の電気ショック。
次は少しだけ強めに。」
ヌルの頭の中に、声が響く。
「兄ちゃん、手を貸すぜ。」
ヌル(この声は……ナナの身代わりになって死んだ
“少年ヌル“の声か!?)
ヌルはまた、両手を胎児に添える。
ヌルの体の中から、
周りには見えない2本の手が伸び、
胎児の右胸と左脇腹に添えられる。
青年ヌルは集中し、先程より
ほんの少しだけ強い電気ショックを与えた。
ヌル・少年ヌル(帰って来い!!)
胎児の体が跳ねた。
胎児が咳をし、泣き出した。
胎児「ケホッケホッ!
アア……アアアアアア!!」
ヌル「やった!!やったぞおおお!!
やったああああああ!!」
両拳を突き上げ、後ろに倒れ込むヌル。
ヨーリーは持っていた長い笛を吹いた。
泡が現れ、胎児を不思議な泡が包む。
ヨーリーは涙を流している。
ともっちょも、感極まり大泣きしている。
ヨーリー「人魚族は、窒息に強いのだ。」
ヌル(1人じゃ無理だった!
回復魔法の効果もあるだろう。
ヨーリー様の生命維持の泡もスゲエや。
なにより、少年ヌル。
助けてくれたんだな。
やった…やったぞ!)
ヌルはチカラが抜け、目を閉じる。
その時、建物外から聞き慣れた鳥の声がする。
ずんだ「ポゲエエエエエエエエエ!!」
ずんだの鳴き声だ。
ヌル(3人が危ない!!)
ヌルは涙を袖で拭い、立ち上がる。
ヌル「まだ、終わりじゃありません。
おそらくビーチには、寄生キメラの仲間、
本隊が攻めてきています。
俺の仲間達がまだ、命懸けで戦ってます。
行ってきます!」
ヌルは走り出した。
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ーービーチサイドーー
エビ「くらうエビ!
『キャビテーション・キャノン』!」
エビは、クルムに向けてハサミを開き構え、
勢いよく閉じる。
カァン!!
硬球を金属バットで打ったような、
大きく乾いた音が響き、
エビの巨大な右ハサミに纏う水が、
光を放ち消える。
クルムは風を起こし、
エビが放つ攻撃を逸らすも、
熱のダメージを食らっている。
クルム(熱ッ!なんなのよ!この攻撃は…!?
光をともなう熱の攻撃!?
見た目より勢いがある…。
並の風では払えないっ…!)
レスベラとシャコが
浅瀬のサンゴ礁の上で激しく戦っている。
レスベラはシャコに斬りつけるも、
シャコは硬く、また敵の音攻撃により
力がうまく入らず、決定打にはならない。
シャコは両腕を引き、タメ、
強力なストレートを放つ。
シャコ「ソノ・ルミネッサンス!!」
シャコのパンチをレスベラは刀で受ける。
衝突の瞬間、シャコの拳が眩く輝き、
爆発するような衝撃を発した。
それを受けたレスベラが吹き飛ぶ。
すぐさま起き上がるレスベラ。
額からは血が流れる。
レスベラ「痛ってぇ……。すげーパンチ。
世界は広いなぁ。
ガードしたのに
吹き飛ばされたのは初めてだゾ。」
シャコ「陸の上だと調子が出ないシャコ。
とはいえ、生きてるし
剣も折れてないシャコ。
信じられないタフさシャコ。」
うまーるが対峙するカニは、
両手のハサミがイソギンチャクのようであった。
カニのハサミから伸びる、無数の触手が
うまーるを執拗に追い回す。
キメラの音攻撃のせいで、いつもの敏捷性が
発揮できない、うまーるが苦戦を強いられる。
火雷による攻撃は、イソギンチャクには
有効だが、動きを完全に止める事はできず、
またカニの方には効果が無い。
カニの甲羅は硬い上に、雷の効きもイマイチだ。
度々触手に捕まる、うまーるは電撃で触手を
撃退するも、職種が触れた部分は青黒くなり
腫れ上がる。
うまーるは毒を受けていた。
アッチはヒトデと交戦する。
ヒトデは近接による肉弾戦を得意とし、
アッチをタックルや打撃で攻め立てる。
アッチはトライデントで応戦する。
ヒトデが体を丸め、力をタメる様子を見せる。
本能的に危険を察知したアッチが
バックステップで下がる。
ヒトデ「ヴェノム・ショットガン☆」
ヒトデが手足を広げ、
毒の棘を散弾銃のように飛ばす。
アッチは咄嗟に防御の姿勢を取るも、
棘の数は多く、鎧の隙間や顔などの
肌が露出した部分に棘を喰らい、負傷した。
また、傷口から毒を受けていた。
ヌルがビーチへと駆け付けた。
ヌルは不快な音に顔をしかめる。
ヌル(ミラーニューロンを刺激する音の攻撃!
敵の魔法具か!
あのキメラ女のヴァイオリンか。)
ヌルは落ちていた小石を耳に詰める。
ヌル「石でも紙でもなんでもいい!
耳に詰めるんだ!!」
(先ずは奴を叩かないと。
海竜が厄介だな。しかも海上か。)
ヌルは鑑定魔法で巨大生物を鑑る。
ヌル(強化改造生物。
巨大生物は、テッポウエビ、モンハナシャコ、
ポンポンカニ、オニヒトデ。
甲殻に魔法耐性が付与されてる。
戦況は悪そうだ。
キメラの相手をしながら、
仲間の補助をしないと。)
ヌルはキメラを目指し走り出した。
ネーレ「新手か。狙いはワタシだねぇ。
ヒッポ!遊んでやりな!!
ヌルは海面に手をつき、氷の魔法を展開する。
海面が凍り、
流氷のスケートリンクが出来上がった。
また、自身とレスベラの靴に
アイススケートのような刃を取り付けた。
ヌル「レスベラ!俺の動きを参考にするんだ!!」
ヌルはアイススケートの要領で滑り出した。
ヒッポキャンパスのワニのような前足による
振り下ろしを、巧みに躱すヌル。
しかし、ヌルの足場でもある氷のリンクが
ヒッポキャンパスの踏みつけで粉砕されてしまう。
ヌル(これじゃ足場が!
スケートは無理か……。
海上で自由に動くには…。
そうだ!アレを試してみるか!)
ヌルは足に魔力をタメ、魔法を使った。
海水を吸い上げ、それを下半身に纏う。
それを足の裏まで流し、
足の裏から勢いよく噴射させて浮力を得た。
ヌルは海上を飛ぶように移動する。
ヌル「海属性魔法『フライボード』
だああああ!!」
アイススケートの経験が無い
レスベラは困惑していた。
レスベラ「なんだこれ!?
これじゃ踏ん張り効かないぞ!
蹴りで斬撃ができる剣なのかな、これ?
いや、ヌルが氷の上を走ってる。
そういう靴なのか。」
レスベラは未経験のアイススケートに戸惑うも、
持ち前の運動能力で、
先ほどのヌルの滑走を模倣する。
ヌル「レスベラ!
シャコのパンチは受けちゃダメだ!
空振りさせるんだ!
動き回るんだ!」
うまーる!
そのカニの手のイソギンチャクは
別の生物だ!
そこを攻撃しても効果は無い!
クルム!
そのエビが放つ蒸気の温度は
4400C°だ!
太陽の表面温度に匹敵する!
大きく避けるんだ!
ヌルは骨伝導スピーカで、
うまーるに話しかける。
ヌル(カニの泡を狙うんだ!
そこに電撃を喰らわせられれば、
カニの内臓にダメージを与えられる!!)
ヌルは解毒の魔法を、
うまーるとアッチに飛ばした。
うまーるとアッチは、
体に活力が戻るような感覚を覚えた。
ヌル「さあ、反撃だ!!」
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※収斂進化・しゅうれんしんか
進化した生物は、似たような形になる。
最終形態は、昆虫ならカマキリ。
甲殻類ならカニに似る。
※カーニゼーション(進化した海の甲殻類
はカ二の形になる。)
節足動物の最終進化形態は、
器用に動く前腕(カマ、ハサミ)である。
ヤドカリ系の最終形態・タラバガニ、ヤシガニ




