44 海賊の子孫・竜宮村
44 海賊の子孫・竜宮村
ヌルの鎧がバラバラに引き裂かれ、
血飛沫が舞う。
ヌル「しまった!罠か!!」
(みんな…)
ヌルは血塗れで倒れた。
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3日前
ヌルたち4人は蓬莱村を出発した。
先ずは海を目指し、海沿いを進むことにした。
理由は海沿いを行けば、食材に困らない。
という理由である。
2日ほど歩いたところで、海が見えてきた。
ヌル「海だああー!ひゃっほうー!!」
はしゃぐヌル。
海の近くで育った、
うまーるのテンションは変わらない。
クルムは日焼けを気にしているようで、
日傘を畳む様子は無い。
レスベラ「水着持ってきてねーわ。
誰もいなかったら裸でいいかな?」
レスベラは少しだけテンションが高い。
クルム「自慢の体なんだから、
皆に見てもらいなさいよ。」
ヌルは、何かを期待して、
気配を殺し黙っていた。
レスベラ「みんなにタダで見せるわけには
いかねーなー。
未来の旦那に悪いからよ!アハハ!
なぁヌル、今夜は海の幸で何作るの?」
ヌル(ちっ!残念!)
「今夜は、アクアパッツァと、
ブイヤベースだあああああ!!!
みんな、
気合い入れて食材集めるぞおおおおお!!」
レスベラ「ウェーイ!!
釣ればいいのか?」
うまーる「わーい!ひさしぶりの、
海の幸なんだよ!!
あくあぱ…ぶいや?
何が必要なんだろ?」
クルム「よくわからないけど、
不味かったらヌルは明日、
カレーの肉になりなさい。」
ヌル「食肉…」
(なんだろ…
またカレー食べたいってリクエストかな?)
4人は、木材やロープ、
大きな葉っぱなどでタープを作った。
ヌル「よし、次は食材だな!
うまーるとレスベラは、
魚と貝とエビかカニを頼む!!
クルムは、野菜とキノコを頼む!」
レスベラ「任せとけって!
アタシ、釣りは得意なんだよ!
大物釣ってくるぜ!」
うまーる「じゃあ、わたしは磯で探すんだよ!」
クルム「ああ、めんどくさい。」
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30分後
うまーる「ヌルお兄ちゃん!
なんか、おかしいんだよ!
この海、生き物の気配が
ほとんど無いんだよ!
それに海藻も無いんだよ。
岩場には、イガボックリしか
いないんだよ。」
ヌル「イガボックリ??なんだろ?」
うまーる「イガボックリはね、
踏んづけると痛いんだよ!
気をつけてね。」
ヌルは岩場を見た。
岩場のスキマには、
たくさんのムラサキウニがいた。
岩場の上から大きな声が聞こえた。
レスベラ「シャアア!キタアー!!」
レスベラが、体長2メートルほどの
マンタを釣り上げていた。
ヌル「ええええええ!?
マンタじゃん!?
どうやって釣ったの??」
レスベラ「コレ、マンタっていうのか。
アタシが釣りをやると、
けっこう釣れるぞ。」
ヌル「え、餌は?」
レスベラ「ミミズだぞ。」
ヌル(う、嘘つけええええ!!
そ、そんなバカな!?
プランクトン食のマンタが、
ミミズで釣れるわけねえええええ!!)
「食えるらしいけど、今日はコレ、
逃がしてあげよ?ね?
4人じゃ食べきれないし。」
レスベラ「意外と美味いんだけどな。
そうだな。
残すのもカワイソウだしな。」
レスベラは、ピチピチしていたマンタを
リリースした。
ヌル(マンタは地球では、絶滅危惧種だからな。
これでいいんだよ。)
3人はウニを集めた。
3人がキャンプに戻ると、
既にクルムが待っていた。
クルム「遅かったじゃない。
まさか収穫は、その生臭い栗だけ?」
ヌル「ごめんよ、なんか綺麗な海なんだけどさ、
生き物がコレしかいないんだよ。
クルムは何を採ってきてくれたの?」
クルムが指差す方向には、
青くて太いバナナのような果物が。
ヌル「野生のバナナか!
でも、まだこれ青いなぁ。
今日は食えそうにないね。」
レスベラ「コレ、食うんだろ?
どうやって捌くんだ?」
レスベラはウニを手に持っている。
ヌル「とりあえず、ケガに気をつけて
半分に割るんだ。
包丁で一気にやっちゃおうか。
本当は丁寧にやるなら、
口を外して切り込みを入れてから、
手で割るんだ。」
レスベラは、次々とウニを割っていった。
ヌルは、割ったウニを見て驚愕した。
中が空っぽなのである。
あの黄色い部分どころか、ワタすらない。
スカスカの殻だけであった。
ヌルは、昔テレビで見た環境問題の話を
思い出し、検索魔法でゴーグル神に訊ねた。
ヌル(やはり。
磯焼けだ。
あの海は不自然なほど、海藻類が無かった。
この世界が温暖化?信じられないな。)
「みんな、ごめん。
このウニは食べられないや。
痩せすぎだ。
どうやら、この辺の海では深刻な問題が
発生しているようなんだ。」
レスベラ「まじかよお。青いバナナだけかぁ?」
うまーる「仕方ないんだよ。まだ探してみる?」
クルム「どうするのよ。保存食使う?」
ヌル「実は、こんな時のために
作ってたモノがあるんだ。」
ヌルは食材用の袋から、
ジャガイモとチーズを取り出した。
チーズは、黄色く、固い。
ヌル「タカキタ村で手に入れた牛乳を使って、
モッツァレラチーズを作ったんだ。
そのモッツァレラチーズを
熟成したのが、この
『プロボローネ』なんだ。
まず、ジャガイモさんの皮を剥き、
細切りにします。
痛くない!痛くない!
プロボローネチーズも、細切りにします。
痛くない!痛くない!
この2つに、塩と胡椒で味付けして、
混ぜ合わせます。
混ぜたモノを、
オリーブ油を引いたフライパンで焼きます。
熱くない!熱くない!
できあがりです。
召し上がれ!!
『チーズガレット』だああああ!!」
すごい地味な見た目の料理ができた。
うまーるは、ふーふーしながらソレを食べた。
うまーる「あふっ!ふわぁああああ!!
コレ、すっごく美味しいんだよ!!
カリッ!じゅわっ!ホクホク!!
チーズさんが、
モチモチで伸び伸びなんだよ!!」
レスベラ「こりゃイケるな!酒にも合うぜ!
クルム!当然、辛くするんだろ?」
クルム「辛くしなくても美味しいわね。
もちろん辛い方が美味しいけど。」
レスベラとクルムはガッツリ、
カイエンペッパーを振り掛けはじめる。
うまーるは、鼻をつまんでその光景を見ている。
ヌル(あの海のこと、すごい気になるな。
磯焼け…"海の砂漠化"…温暖化…。
俺たちの知らないところで、
この世界でとんでもないコトが
起きているのかもしれない。)
ヌルはスカスカのウニ殻を見て、
険しい表情をしている。
レスベラ「なんだ?ヌル、食欲無いのか?
コレかけとけ!」
レスベラが、ヌルのチーズガレットに、
カイエンペッパーをドッサリかけた。
ヌル「ああああああああああ!!」
うまーる「わたしの、半分あげるんだよ…。」
ヌル「大丈夫、自分の食べるよ。」
ヌルは赤くなったチーズガレットを、
ひと口かじる。
ヌル「からあああああああああい!!!」
(きっと、この明るくて優しい仲間たち
がいれば、世界は明るくなるさ。
また明日から頑張ろう。
夜は更けていく。
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翌朝
4人は海賊船を目指して歩く。
とても良い天気だ。
吹いている程よい風が、暑さを和らげ心地よい。
少し潮の香りがする。
まぶしい太陽と、太陽の光を反射して輝く海。
海がとても青い。
浜が白い。砂がとても白いのだろう。
川のようなものが見当たらない。
これも海が青い要素の一つなんだろう。
しばらく歩くと、
遠くに巨大な船の残骸が見えてきた。
ヌル「アレかぁ。海賊船ていうか、
幽霊船ってカンジだなぁ。」
クルム「正確な年代は不明だけど、
数百年前からあるらしいわ。」
ヌル「そんな昔から、
あんな巨大な船を造る技術が
あったんだね。」
うまーる「あの、
へんなカタチの岩が竜岩なのかな?」
うまーるが指差す方向には、
ゴジ●ラ岩のような岩がある。
ゴジ●ラ岩と違うのは、
自然が作り出した岩ではなく、
彫刻で作られた人工物であるという点だ。
レスベラ「あの口の部分に太陽が重なると、
火を吹いているように見えるんだぜ。」
竜岩に近づくにつれ、小さな漁村が見えて来た。
クルム「あの村は、
海賊の子孫が暮らしているといわれる
『竜宮村』よ。」
ヌル「竜岩に、竜宮村という村名。
もしかしたら、ここに秘宝があるのか?」
(鳴き鳥の子守り貝、
もしくは龍首宝珠のどちらかか?)
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ー竜宮村ー
浜辺で漁の道具の手入れ作業をしていた
村人の男性が、
最初にソレに気付いた。
海から現れた異形の者が4体、
竜宮村に上陸した。
村人「みんな!!バケモノだ!!」
叫んだ村人は次の瞬間、
バラバラの血塗れの肉片となった。
銛やナタなどを持った、村の男達が駆け寄るも
一瞬でコマ切れにされた。
4体の魔物は、それぞれ二足歩行だ。
釣竿を持ち、まるで河童のような、背中に甲羅が
あるウミガメ風の魔物がリーダーのようだ。
体長はおよそ150cm。ヌルと同じくらいだ。
他には全身毛だらけの、
ラッコの獣人のような者。
コレは大きく、3メートル前後ある。
逆三角形のマッチョな体型で、
両手に大きな石を持っている。
頭部が青い風船のようで、触手が髪の毛のように
生えているクラゲのバケモノ。
首から下が人間の体で、
頭部が貝殻のバケモノであった。
貝とクラゲは共に、
河童と同じくらいの大きさだ。
河童「別に、お前達を殺して食おうって
ワケじゃねえよ。
この村の代表は誰だ?」
村長「私です。どういった御用向きでしょうか?」
村長は、腰が曲がったおじいちゃんだ。
河童「龍首宝珠を差し出せ。」
村長「申し訳ありません。ここにはありません。」
村長がコマ切れにされた。
ラッコのバケモノが、手に持つ岩で、
転がった村長の頭を叩き潰した。
村人達は阿鼻叫喚である。
ラッコ「逆らったら、こうなるッコ。」
河童「無いなら探せ。
お前ら今から全員で、
あの船の残骸を探索してこい。」
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ヌルたち4人が、
村の入り口に差し掛かった頃だった。
うまーるが、いち早く異変に気付いた。
うまーる「みんな!血の匂いと、ケモノの匂いが
するんだよ!
なんか、すごく悪い事が
起きてるんだよ!」
ヌル「ここからは静かに、
足音をたてずに近寄ろう。」
ヌルたちは建物の陰から、
人が集まっている海岸の様子を見た。
ヌル「なんだアレは!?魔物なのか?
なんか不自然な姿だぞ。
獣人なのか?」
クルム「獣人じゃないわね。人魚族でもない。」
レスベラ「たくさんの人が殺されてるな。
許せねえぜ…。」
うまーる「酷いんだよ…。」
うまーるはブチギレて、パチパチ帯電している。
レスベラがミヅハノメの柄に手をかける。
河童が何かを察知した。
河童とヌルたちの目が合う。
ヌル「なにっ!?気付かれた!?」
河童とヌルたちの距離は、50メートル程ある。
河童「侵入者か。
タダモノじゃねえな。
冒険者か?
まぁいい。死んどけ。」
河童が釣竿を動かした。
うまーる「危ないんだよ!!」
ヌル「しまった!!罠か!」
(みんな…!)
ヌルが身につけていた軽鎧がバラバラになり、
血飛沫が舞った。
血塗れのヌルは倒れた。




