37 聖剣誕生
37 聖剣誕生
4人は村を目指して歩く。
クルム「人攫いの正体は奴隷商人。
ヤツラのボスの名は【レイド】。
レイドは魔王軍の一員でもあるようね。
ただ、魔王に内緒で捕まえた奴隷を
売り捌き、私腹を肥やしている
小悪党でもあるみたい。
ほとんどの奴隷は、魔王の元に連れて
行かれて労働者になっているみたい。」
うまーる「マヌルお兄ちゃんもそこに…」
レスベラ「各地で起きてる、人攫い騒動は魔王軍
の仕業なのか。
何をしたいんだろうな。」
クルム「戦力と労働力でしょ。」
ヌル「おそらくそうだと思う。
うまーるの兄は、おそらく魔王軍の兵士
として使われてると思う。」
レスベラ「なんでわかるんだ?」
ヌル「うまーるの先祖は、かつての勇者の仲間の
雷獣と呼ばれた戦士で、
マヌルはその再来と呼ばれるくらいの素質が
あったらしい。
それで誘拐されたんだと思う。」
クルム「雷獣クロネコの子孫ね。
なるほど、たしかに黒い体毛の
うまーるちゃんは、その子孫みたいだね。
魔王軍と戦っていけば、いずれマヌルに
遭遇するかもしれないわね。」
ヌル「うまーる、どうする?
敵は魔王軍だ。
旅は、より危険になる。」
うまーる「私も闘うよ!
マヌルお兄ちゃんを助けたい。
それと村を助けてくれた、
ヌルお兄ちゃんの
旅の役にも立ちたいんだよ!」
タカキタ村が見えてきた。
村に着く頃には日が昇っていた。
村人達が駆け寄る。
村人「クルム!無事だったか!!」
クルム「大げさね。
私がやられるわけないでしょ。」
村の少女【りずむ】もクルムの元に駆け寄る。
りずむ「クルムお姉ちゃん!!よかった!」
少女は泣きながらクルムに抱きついた。
どうやらクルムは少女の身代わりとなって捕まったようだ。
クルム「りずむ、心配かけたわね。
アイツらは、やっつけといたから、
もう大丈夫。」
りずむ「やっぱりクルムお姉ちゃんはすごいや!
勇者様の子孫だもんね!」
ヌル「勇者の子孫!?」
レスベラ「あー…。」
クルム「まぁ、混み入った話は、
酒場あたりでしましょうか。」
4人は酒場へ移動した。
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酒場 ウグイス亭
ヌルは、これまでの事を詳しく皆に話した。
レスベラ「世界では、そんな事が起きてるのか。」
クルム「ユニークスキル新成人の誘拐は
魔王の仕業で間違いないわね。
少女の誘拐は、レイドの個人的な闇営業
てとこかしら。
やはりレイドは、
ぶち殺さないといけないわね。
一つ気になったんだけど、
ヌルは魔族の攻撃対象にならないのに、
レイドから攻撃を受けたのは何故?」
ヌル「魔法で挑発効果をつけてるんだ。
狙われない特性は、
極力使わない方向で行くよ。
もう誰にも死んで欲しくないから。
もちろん、敵にも死んで欲しくないから、
なるべく戦闘不能になるような攻撃方法を
俺が実行したいんだ。」
レスベラ「うまーるの兄ちゃんの他にも、
無理矢理戦わされている人達も、
助けてやらないとな。」
酒場のマスター【くっきー】が慌てて口を挟む。
くっきーは少しドワーフっぽい女性だ。
料理の腕が評判らしい。
くっきー「まさかとは思うけど、レスベラとクルム
は旅に出るとか言わないよな?」
レスベラ「これが放っておけるかよ!」
クルム「アンタはただ、
腕試しをしたいだけでしょ。」
ヌル「腕試し?」
クルム「コイツはもう、村の中には
剣の稽古相手すらいないのよ。
ゴリラだから。」
レスベラ「ゴリラ言うなし!」
ヌルは、
レスベラの刀が折れていたのを思い出した。
ヌル「レスベラ、
そういや君の刀を見せてくれないか?」
レスベラ「ああ、いいよ…」
レスベラは刀の話題になると元気が無くなった。
愛刀が折れたのは相当ショックだったようだ。
レスベラが取り出した刀は折れていた。
クルム「あーあ、お父さんの形見。」
うまーる「違うんだよ!
これはわたしを守るためだったんだよ!
わたしが悪いんだよ!」
うまーるは泣き出した。
ヌル「うまーるを守ってくれて、ありがとう。
レスベラ。
この刀は俺に任せてくれないか?」
ガタッ!
レスベラは勢いよく立ち上がる。
レスベラ「直るのか!?」
ヌル「直してみせる。
直すというか、君用に打ち直すよ。
前と少しデザインは変わってしまうけれど、
いいかな?」
レスベラ「頼む!
もう一度、刀として生き返るなら、
見た目は気にしない!」
ヌル「この村の武器屋の設備を使いたい。
案内してくれないか?」
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4人は武器屋に移動した。
ヌル「これだけの設備があれば、
なんとかなりそうだ。
さすが勇者の故郷だ。」
村の武器屋の設備は、
王都のそれと見劣りしないものだった。
ヌルは、レスベラの刀を鑑定した。
ヌル「魔法具 【御神刀アメノウズメ】
素材:ミスリル銀。
使い手は刀の重さを感じないが、
斬撃には重さが乗る。
という魔法具か。
この特性は無くしたくないな。」
レスベラ「勇者の仲間の踊り子が使ってた
刀なんだぜ!」
ヌル「レスベラ本人も鑑定魔法で鑑ていいかな?」
レスベラ「ああ、いいぜ。
あ、ついでにクルムも
鑑てやってくれないか?」
ヌル「クルムさん、いいですか?」
クルム「いいけど。
あと、私もレスベラ同様、
クルムって呼び捨てでいいわよ。
もしなんか付けるなら【さん】
じゃなくて、
敬意を込めて【様】にしなさい。」
ヌル(女王様…)
うまーる「私も見てほしいんだよ。」
ヌル「そういや、うまーるまだだったな。
よし、じゃあ、うまーるからいくか。
うまーる 猫人族 15歳 ♀
雷神の加護 スキル 探知
得意属性 雷」
ヌル(15歳って…
この肉体とほぼ同じ年齢じゃねーか!?
意外と大人だったんだな。)
※ヌルの肉体年齢は15歳。
精神年齢は43歳である。
ヌル「続いてレスベラを。
レスベラ 混血 17歳 ♀
(しかし乙πでけーな。何センチあんだろ…)
102cmHカップ…
なっ!?」
レスベラ「おいおい、
そんなのまで鑑定できんのかよ。
しかしまた大きくなっちまったなぁ。
装備を買い替えないとだな!
しかしというか、
やっぱりヌルは男の子だな!
私の乙πが気になるのか?
仕方ねえな。
後で内緒で触らせてやるよ!」
ヌル「内緒じゃなくなってる…」
クルムは冷ややかな目でヌルを見ている。
クルム「経験豊富なお姉さんを
演じてんじゃないわよ。
男経験ないくせに。」
レスベラ「弱っちい男しかいねーんだもんよ。
そういうクルムだって、
男経験ないくせに!」
クルム「私に釣り合う男がいないのだから、
仕方ないでしょ。」
うまーるは胸に手を当て落ち込んでいる。
クルム「気にする事ないわよ。
乳好きな男は経済力に不安があるダメ男。
有能な男はヒンヌー好きなのよ。」
ヌル「失礼、気を取り直して。
レスベラ。
踊りの神の加護 スキル 天衣無縫の舞
得意属性 水
呪い付与 弱体化
呪い付与?」
レスベラ「呪い!?
やっぱりなんかあるんだな!
詳しく!!」
ヌル「すまない、俺のチカラでは、
よくわからないんだ。」
レスベラ「くっ…!
クルム!クルムはどうなってる!」
クルムが強いオーラを放ち、ヌルを睨み付ける。
余計な情報を覗いたら死ぬ、とヌルは悟った。
ヌル「クルム 混血 17歳 ♀
歌の神加護 スキル 聖女の詩吟
得意属性 光
呪い付与 弱体化
クルムにも呪い?」
レスベラ「やっぱり!
呪いか!!!
いつだ!?
いつからなんだ!!!」
レスベラは壁を殴る。
クルム「踊ろうとすると、
謎の力で体が上手く動かなくなる
レスベラ。
歌おうとすると、
うまく声が出なくなる私。
呪いか。
遠くから遠隔で、かけたのだとしたら
かなりの使い手ね。」
ヌル「ついでに、クルムの扇も見させてくれ。
ただならぬオーラを感じるんだ。」
クルム「いいわよ。どうぞ。」
ヌル「暗器 蓬莱5彩雲扇
風属性の魔法に5種類の毒を付与する
材質 ヒヒイロカネ メノウ 石綿」
レスベラ「よくわからん素材だな。」
ヌル「ヒヒイロカネ!?
これまた伝説の金属じゃないか!」
クルム「勇者ザトマルの仲間の暗殺者が
使ってた武器らしいわ。」
ヌル(暗殺者の武器を使う聖女…)
「そういや、レスベラとクルムの種族は
[混血]って出たけど、ハーフなの?」
レスベラ「この村は、色々な種族の混血が
多いんだよ。」
クルム「勇者ザトマルのPTは、
全ての種族から選ばれた英雄の集い
だったの。
魔王討伐後、その多くの人達が
この村に残って暮らしたのよ。
レスベラ「だからこの村は、戦いに長けた子孫や
伝説の武器が数多く残された
村らしいんだ。」
ヌル「らしい?」
クルム「長いこと平和が続いたせいか、
戦いに優れた人材は廃れてしまった
ようね。」
レスベラ「いい男いなくて困るわ。
男探しに行きてーなあ。」
ヌル「そうなんだ。
そろそろ、剣の作成にはいろうか。」
レスベラ「いよっ!待ってました!
頼むぜ!」
ヌル「スキル【鍛治・特級】を使用。」
王都ケンチョーが滅亡したあの日、
王都の鍛治職人が遺したスキルだ。
ヌル(ロカフィルさん、スキルをお借りします。
俺にチカラを貸して下さい!
きっとこの剣は、
世界の希望の剣になります!!)
ヌルは虹色の骸晶とアメノウズメの刃を
坩堝[るつぼ]に入れ、加熱した。
坩堝の中で2つの金属が溶融し混ざり合う。
ヌル(なんて熱だ!融点は4000度以上か?)
ヌルは坩堝から取り出し、
素延べした合金の切っ先を打ち出し、
その後は火造り工程に入った。
その様子を見守る、うまーる、レスベラ、
クルムに、村の鍛治職人[ごん]。
職人「見事な腕前だ。
この御方は職人なのかい?」
ヌルが使った、【スキル・鍛治・特級】は
鍛治職人ごん、が驚くほどの技術であった。
レスベラ「よくわからないけど、
魔法の力なんだと思うぞ。
ヌルの魔法はスゴいんだ。」
合金が刀の形になっていく。
冷やした後は研磨にかかる。
長い。
120センチくらいあるだろうか。
最大級の太刀だ。
刀の色が変わっていく。
その酸化皮膜の色は、まるで、青く澄んだ海に日光が反射してキラキラ輝いた海面のような、鮮やかな青の輝きだった。
平地の部分には、
波紋のような模様が浮かび上がる。
これは、融点の違う異なる金属の結晶化が
生み出す模様であった。
ヌル「できた…」
ヌルは汗だくだった。
ヌル「この模様は…俺が住んでた世界では、
もう失われたロストテクノロジー、
【宝剣ダマスカス】
によく似てる。
それは古代の王族や騎士達が憧れ、
愛用した最強の宝剣だ。
芯材にはオリハルコン、そこに
ミスリル銀を重ねた積層構造。
竜を切り裂き、魔を祓う。
強さと聖なる力を持った聖剣だ。
もちろん、
アメノウズメの機能も継承してる。
勝手に名前を付けさせてもらったよ。
レスベラ、君の得意な水属性のイメージと
俺がいた世界の水の神様の名から取った。
【聖剣ミヅハノメ】
うまーるを助けてくれた御礼だ。
よかったら使ってくれないか?」




