34 星が消え、呪いが祓われた村
34 星が消え、呪いが祓われた村
子供達と共に、ヌルは村に帰った。
子供達は早速、持ち帰った海藻を使い、おきうと作りに取り掛かる。
猫人の村長【アキラ】が、ヌルに話しかける。
村長「この度はありがとうございます。
これほどの魚があれば、しばらく食べ物には
困らないでしょう。」
ヌル「うまーるには助けられました。
少しでも役に立てたなら嬉しいです。
しかし、これは一時的な凌ぎにしかなりませ
ん。
この村の呪いを解決しましょう。」
ヌルは瓶を村長に渡した。
ヌル「この病の特効薬です。
これを病人に服用させてください。
また、今後は川に入るのを控えて下さい。
呪いの原因は川の水です。
川の巻き貝が呪いを振り撒いているのです。
川の水には、貝の中で育った寄生虫の幼虫が
泳いでいます。
驚く事に、この寄生虫は、動物の皮膚を突き
破り体内に侵入します。
そして体内で血を吸い大きくなり、増え、や
がて死に至ります。」
村長「なんと!川の!?
しかし川の水は、我々の生命線。
触れないわけには。」
ヌル「川にいる貝を根絶すれば解決します。
しかし川の貝はホタルの幼虫のエサです。
正直に申し上げます。
この村の呪いは祓えます。
しかし、この村からホタルが消えます。
村長、決断してください。
この地を離れて他所でやり直すか、川の貝を
根絶するか。」
村長は悲しそうな顔をして下を向く。
村長「旅のお方。
我々はホタルと共に生きてきました。
そして、他の土地で生きるという選択もでき
ません。
すぐに人が住めるような土地はもう、
空いていないのです。
お気遣いには感謝します。
しかしこの問題は、他所者の貴方様には
理解できますまい。」
ヌル「村長。
貴方がた、お年寄りに変えろと言っても、
難しいかもしれません。
あの子供達を見てください。
あの子供達はこの村の未来です。
あなた方の選択肢一つで、健やかに生きられ
るのです。」
ヌルは土下座して頭を地面に叩きつけた。
ヌル「お願いです!
決断してください!!
生きてさえいれば、やりなおせます!
やり直すことができるんです!!
1度呪いを根絶してしまえば、
他の汚染されていない川から、
貝とホタルを連れてくることも、
できるんです!」
ヌルは顔を上げた。
額からは血が流れている。
ヌル「生きてさえいれば、命があればやり直せるん
です!
子供達のために、この村のために!!
未来に進みましょう。
あなた方には使命がある。
ホタルを守る事もそうなんでしょうけど、こ
の村を存続する事の方が大事です!
また頑張って作りましょう。
星が舞う村を。」
村長は下を向いている。
村長は顔を上げ話はじめた。
村長「具体的には、どのようにして貝を根絶する
のですか?」
ヌルは、持っている石を村長に見せた。
ヌル「これを見てください。
これは、村の近くの岩場で見つけた物です。
この石灰石を高温で焼く事で、貝を殺せる殺
貝剤という薬になります。
これを川に撒くことで根絶できます。」
村長「それは、毒物ですか?」
ヌル「川に生きる他の生物にも、影響はあるかもし
れません。」
村長はまた黙り、うつむく。
子供たちが、ヌルたちのところへ駆け寄ってくる。
子供達「お兄ちゃん!できたよ!おきうと!
食べてみて!」
ヌル「まだ熱いな。
もう少し、冷ましてからの方がいいぞ。」
子供達を見つめる村長。
村長が口を開く。
村長「わかりましたヌル殿。
貴方を信じましょう。
私はホタルを滅ぼした村長として、
歴代最悪の村長になろうとも、
この村の存続のために、
力を尽くしましょう。」
ヌル「ご決断ありがとうございます。
では今から皆で生石灰を大量に作り、
明日の朝、
川の上流から撒いていきましょう。」
うまーるは下を向いていた。
顔を上げたうまーるが口を開く
うまーる「ヌルお兄ちゃん。
明日の朝、御神木に行こう。
謝らなきゃ!
ホタルの精霊様に。」
ヌル「ホタルの精霊様がいるのか?」
うまーる「うん。
心が清らかな人しか会えないんだって。
私もまだ会ったことないんだ。」
ヌル(うまーるが会えないなら、そんなん存在しな
いんじゃないか…?)
「わかった。
俺も一緒に謝るよ。」
その様子を、御神木の枝に立つ女が見ていた。
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翌朝
ヌルとうまーる、そして村の健康な大人達は、
石灰石を焼いて作った生石灰を携え、川の上流へと向かった。
一行は御神木に到着した。
皆が祈る。
祈りを終えて作業にとりかかろうとした、その時であった。
ヌル「ここだ。
この岩の割れ目から染み出す水が、この川の
始まりだ。」
女「待たれよ。」
声のする方を皆が振り向くと、淡く光る女が宙に浮いている。
明らかにヒトではない。
ヌル「ホタルの精霊様か…」
(実在したのか…)
村長たちは地に伏す。
ヌルも土下座する。
うまーる「精霊様!ごめんなさい!」
精霊「我等は、猫人族が現れるずっと前からこの地
で暮らしておる。
その我等を、自分たちの都合で殺そうという
のか。」
ヌル「そういう事になってしまいます。
しかし、これはヒト族だけの問題ではありま
せん。
この川の流域に住む、全ての哺乳類や鳥類も
危険に晒されているのです。」
精霊「陸上生物のために、水棲生物が犠牲になるの
は仕方ないと申すか。」
ヌル「返す言葉もございません。
ただ、我々が生きるためには、やらなければ
ならないのです。」
精霊は、泣いている【うまーる】の顔を見る。
精霊(毎日、御神木にお参りに来ている娘か…)
精霊は思い出した。
雨が降らない日々が長く続いた時、うまーるが川の水を汲み、御神木の根元に桶で水を撒いていた事を。
うまーるは御神木に毎日祈りを捧げていた。
【お兄ちゃんが早く無事に帰ってきますように】と。
精霊(我に貴様の兄を救う力など無いというのに。)
「ずいぶん身勝手な話よの。
しかし我等に貴様等の愚行を止める手立ては
ない。
弱者が生き残るためには逃げるしか道はな
い。
光を失った後に後悔するがよい、人間よ。」
精霊はそう言うと、すぅっと音もなく消えた。
村人達は泣いていた。
うまーるも立ち上がれない。
ヌルはスキル【生物発光】を手に入れた。
ヌル(俺のやった事は間違いなのかもしれない。
それでも前に進むしかない。
とにかく生きるんだ。
生きてまた、美しいこの村の本当の姿を取り戻
すんだ。)
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淡水の貝は寄生虫の宝庫である。
実際、昔の日本の農民も寄生虫症にはおおいに苦しめられた。
それを克服した結果、ホタルが姿を消してしまったのである。
今でも寄生虫を保有しているナメクジがいる。
アフリカマイマイという大型のカタツムリなどである。
それを捕食するカエルやネズミや鳥なども保有している場合があるので注意が必要だ。
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その夜、御神木からホタルの姿は消えていた。
村長の家に招かれたヌルは、村長と色々話した。
ヌルのこれまでの旅の話、前世(地球)での話。
これからの話などを。
そこには、うまーるも同席していた。
うまーるは、うつむいて黙っていた。
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翌朝
ヌルは村長の家で、朝食を摂った後、村長と話していた。
隣には、うまーるの姿があった。
ヌル「お世話になりました。
俺はそろそろ、旅に出ます。
プラジカンテルをまた精製しておきました。
約1ヶ月後にまた服用してください。
これは、成虫にしか効き目がありませんの
で。
それで、今まだ体内に幼虫がいる人も完治し
ます。」
村長「ありがとうございます。
ヌル殿、ひとつお願いがあります。」
ヌル「なんでしょう?」
村長「うまーるも旅に連れて行ってやっては、もら
えないでしょうか?」
ヌル「昨日お話しした通り、
これは危険な旅になります。」
村長「うまーるは、
ずっと兄を捜す旅に出たがっておりました。
しかし、村の者は反対しました。
例え、人身売買組織を見つけられたとして、
返り討ちにあってしまいますし、
そもそも旅が危険だからです。
しかし、昨日のヌル殿の話を聞いたかぎり、
ヌル殿には今、
強い仲間が必要なハズです。
うまーるの兄、マヌルは、かつての勇者、
ザトマルと共に戦った仲間【雷獣クロネコ】
の子孫であり、その再来とも言われる素質を
持つ戦士でした。
まだ子供ながら、うまーるを誘拐しようと
した組織の集団を相手に、一人で戦い、
うまーるを逃しました。
もし助ける事ができれば、
きっと心強い仲間になることでしょう。
それと、もう一つ。
うまーるの能力は旅の役に立つはずです。
どうかお願いできませんでしょうか?」
うまーる「でも村長さん!
私が食料を取ってこないと、
村の皆が困るんだよ!」
村長「それはもう、心配しなくていいんだよ。
元気になった大人達に加え、この村には
たくさんの、たくましい子供達がいる。
うまーる、今まで、幼いお前に苦労をかけて
しまったね。
これからは、
自分のやりたい事をやりなさい。
村の皆が応援するよ。」
ヌル「うまーる、君はどうしたいんだ?」
うまーるは少し考え込んだ。
顔を上げたうまーるが話し出す。
うまーる「…
お兄ちゃんに会いたいんだよ!
わたし、お兄ちゃんを探しに行きたいん
だよ!!」
ヌル「一つだけ約束して欲しい。
何よりも自分の命を大事にすると。
絶対に死なないと約束できるか?」
うまーる「うん。約束するんだよ!」
村長「うまーるよ、これを持っていきなさい。」
村長が、うまーるにアクセサリーを手渡す。
うまーる「これは?」
村長「【金剛杵】と呼ばれる魔法具だよ。
かつての英雄クロネコ様が残した物だ。
御守りとして持っていきなさい。」
うまーる「ありがとうございます!
大事にするんだよ!!」
ヌル(【鑑定魔法】発動。)
「これは…素材は金とダイヤモンド。
雷のチカラを増幅する効果か。」
村長「なるほど。
うまーるなら、
上手く扱えるかもしれませんな。」
ヌル「じゃあ、行こうか。うまーる。」
うまーる「ヌルお兄ちゃん、よろしくなんだよ!
まずはドコに向かうの?」
ヌル「そこなんだよな。
パンダの獣人の村に行きたいんだが、
どこにあるのやら。」
村長「では、この村から比較的近くに、かつての勇
者と賢者が住んでいた村があります。
まずは、そこを目指されては如何ですか?」
ヌル「かつての勇者の村か。
何か良い収穫がありそうですね。
そこへはどうすれば行くことができます
か?」
村長「どうぞこの地図をお持ち下さい。
この世界の地図です。
この村がここで、勇者の村【タカキタ村】
はこの辺です。」
ヌル「地図!これは助かります!
ありがとうございます!」
村長「いえいえ、礼には及びません。
この村が受けた恩に比べれば。
それでは、ご達者で。
うまーる、
ヌル殿の言う事をよく聞くのだぞ。」
うまーる「うん!行ってきます!」
ヌル「次の目的地は勇者の故郷【タカキタ村】だ!
行こう!」
ヌルとうまーるが村の出口を通ると、ヌルの肩にウグイス色の小鳥が止まった。
ヌル「ずんだ!そういやお前、今までドコに!?」
ずんだが銀色に光る何かを咥えている。
ヌルは、ずんだが咥えているものを手に取る。
ずんだ「ポキョ。」
ヌル「これは…
ナナの首飾り!」
銀の女神像の首飾りにはナナの血が着いていた。
ヌルは、その首飾りを布で包み、カバンに入れた。
ヌル「やっぱり、お前は【ずんだ】なんだな。
よく似た同じ鳥かとも思ったけど、お前は全
て知ってるんだな。
不思議な奴だよ。
そして、一緒に来るんだな?」
ずんだ「ポキョ」
うまーる「ずんだちゃん!よろしくね!」
うまーると、ずんだが仲間に加わった。
目指す先は勇者の村。
2人と1匹の旅が始まった。
「またきてね!お兄ちゃん!」
「無事に帰ってきてね!うまーるお姉ちゃん!!」
遠くから村の子供たちが見送る。
ヌル(俺がやった事は、本当に正しかったのか。
正直、今はまだ自信が持てない。
でも、正しかったと思えるまで、
何回でもやり直せばいいと思うんだ。
俺も全てが終わって落ち着いたら、この村の
復興を全力で手助けしたい。)
ヌルは歩き出した。




