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133 竜首宝珠の旅路

竜首宝珠の旅路


ー最終戦争終結の約16年前・竜宮村ー

 

 弟子であった【アカマル】が

エルフ国の騎士団入りを果たして、

再び独りとなった魔法具職人の

【グアン・ダムマン】は

至宝【竜首宝珠・リュウノクビノタマ】

を求めて旅をしていた。


挿絵(By みてみん)


 自身が苦労して作り上げた、

探し物の方角を示す魔法具

【十字振子・クロスペンデュラム】を用いて見事、

竜宮村の巨大貝殻の下に隠された、

竜首宝珠を見つけ出した。


 グアンと共に宝探しを手伝った、

宝珠伝説を調査していた竜宮村の若者冒険者

【オトキチ[後の村長][少女ミィの祖父]】

は考えた。

 『ここには既に宝は無い』

というメッセージを残さなければ、

ここに辿り着いた者が困惑するのではないかと。


 グアンはただの装飾品である、

【銀の女神像のペンダント】を加工して、

竜首宝珠を埋め込んだ。

 これには目的があった。

 コレを必要とする人が、

“肌身離さぬように”という願いが込められていた。


 そのため、竜首宝珠が保管されていた場所に

残されたメッセージは『女神に抱かれた』

というモノになった。


 グアンは次に、振り子を人探しに使った。

 竜首宝珠を“真に必要とする者”

を探し出すためであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー少年ヌルとナナの故郷チュートリ村・

         ナナが生まれる、約7ヶ月前ー

 

 振り子が指し示す方角を目指し、

過酷な旅を続けたグアンは、

ケンチョー国領の辺境の村【チュートリ村】

に辿り着いた。

 村に辿り着き、安堵したグアンは

長旅の疲労により、

高熱を出して村の入り口で倒れた。


 第一発見者の村の女が村人に応援を要請し、

グアンを自宅に運び込んだ。


 翌日に目を覚ましたグアンは

村の女に感謝をし、自己紹介をした。


 村の女は名を【カイリ】と名乗った。

 栗色の髪で、優しい目元の美しい娘であった。

 カイリは新婚で、

旦那と2人だけで暮らしているという。

 旦那は名を【ムサシ】といい、

これまた好青年であった。


挿絵(By みてみん)


「新婚なのに邪魔しちまって悪いな」


「そんなことは気になさらないでください。

危険な病とかではなく、本当に良かった」


「本当に良かった。そこまで強いのは

いませんけど、ヒトを襲うモンスターも

いるんですよ」


 申し訳なさそうなグアン。

 得体の知れない旅人であるグアンを救助し、

無償で手当てをした若い夫妻。


 グアンは魔力を込めていないのに、

ガタガタと動く十字振り子に気付く。

 十字振り子を取り出し魔力を込めると、

振り子はカイリを差した。

 正確には、カイリの腹を差した。


「お嬢さん、アンタ孕ってるのかい?」


「よくわかりましたね。まだ目立たないのに。

今、3ヶ月なんです」


 グアンは悟った。

 探し求めた勇者は、これから生まれてくる、

この娘の子供であると。


「そうか。助けてくれた礼がしたい。

これを貰ってくれないか」


 グアンは

【宝玉が埋め込まれた銀の女神像のペンダント】

を取り出し、カイリに手渡す。


「……まぁ。これは、銀に宝石……?

こんな高価な物を、頂けませんわ」


 カイリは驚いた。

 一晩泊めた謝礼としては、

あまりに割に合わない、

高価な首飾りの受け取りを丁重に断る。


「いや、いいんだ。

俺は、このためにここに来たんだ」


「このために?」


 不思議そうな顔をするカイリ。


「これはな、正しき者の願いを叶える、

魔法のチカラが込められてる。

アンタの子供に肌身離さず持っていて欲しいんだ。

必ず、役に立つ」


 カイリは真顔のグアンの熱意に負けて、

首飾りを受け取った。


 翌日、回復したグアンは次の目的地を目指し、

旅に出た。


 グアンはこのときのことを、

ケンチョー国王である【オレダ・ヨオレ】

宛てに手紙で報告した。


 手紙の内容は以下のようなものであった。


 一年以内に、

ケンチョー領辺境の村で英雄が生まれること。

 15年後、その子が

“新たな魔王を打ち倒す勇者”に

なるであろうことであった。


 手紙を受け取ったオレダ王は困惑した。

 せっかちな性格であるグアンの手紙は、

あきらかに情報不足であること。

 そして内容の確認を取ろうにも、

放浪の旅を続けるグアンとは

連絡が取れないことであった。


「グアンめ。はぁ……。

肝心なことが書いてないではないか。

これでは、雲を掴むような話ではないか。

どこの村かと、親の名前くらい書かんか。

また、流れる雲のように、

放浪の旅をしとるのだろう。

困ったやつだ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー8年後・チュートリ村ー


 チュートリ村の池で、泣き叫ぶ幼いナナ。

 ナナの泣き叫ぶ声を聞き、集まった大人達は

池に浮かぶヌルを助け出し、救命措置を行う。

 まだ幼いナナが女神像に必死に込めた願い。


ーヌル、死なないでー


 ナナの願い通り、少年ヌルの魂は

冥界に行くことなく、竜首宝珠に宿った。

 竜首宝珠は少年ヌルの肉体を救うべく、

地球で瀕死の【ぬるゆ】の魂に干渉した。

 これにより、転生が〈予約〉された

ぬるゆの魂は英霊召喚により、

少年ヌルの肉体に宿った。

 ぬるゆが死の間際に“異世界のナナの声”

を聴いたのは、竜首宝珠が起こした奇跡であった。


 チュートリ村から連絡を受けて

王都ケンチョーに運ばれてきた、

意識不明の少年の肉体を救うべく、

王都では転生の儀式が行われていた。


「オレ・オレ・オレダヨ・オレ

オレダヨ・バーチャン・オレ・タカシ……」


 英霊召喚の魔法を詠唱するオレダ。

 少年ヌルの体が光り輝き、目覚めた。

 英霊召喚が成功した瞬間であった。



 グアンからの手紙を読んで以降、

オレダ王は長く英雄となりうる者の登場を

待ち侘びていた。

 チュートリ村からの連絡を受けた、

オレダは予感していた。

 運ばれてくる少年こそが、

世界を救う勇者なのではないかと。


 無事に英霊召喚を成功させた王は、

確信を得ていた。

 この少年こそ、封印の勇者であると。

 起き上がった少年は、意味がわからない事を

叫びこそしたものの、その後は

年齢に似つかわしくない発言と態度で

周囲を驚かせた。


 熾烈な駆け引きが行われた。

 英雄候補の少年を手元に置き、管理したい王と

自由を手にしたい少年。

 王は説得した。

 

「このまま王都に残り、英才教育を受けよう」


 しかし少年は頑なに拒んだ。

「成人するまでは、色々と自由に、

自分の可能性を模索したい」


 結局、王は少年の熱意に負けた。

 少年ヌルは10年間、やり直し人生を満喫した。

“チートスキルが約束されている”

と確信したヌルは

“努力などしなくても強くなれる”

と信じて遊び呆けた。


 10年後旅に出たヌルは、

あの王都滅亡を目の当たりにする。


 ナナの死後、竜首宝珠はヌルの手に渡った。

 竜首宝珠に宿った少年ヌルの魂は、

何度か青年ヌルを叱咤激励し、

ときには手助けした。


 また缶の中では“あらゆるチカラが使えない”

制約があるものの、ヌルがチカラを使い、

城の外へと脱出に成功できたのも、


ーヌルを助けてー 


 というナナの願いにより、

竜首宝珠が起こしたものであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー戦後・チュートリ村・式典前日の夜ー


 赤子を抱き抱え、夜空を見上げるナナ。

 ナナは毎日、女神像のペンダントを握りしめ、

天に願い祈りを捧げる。


ーヌルが帰ってきますようにー


 ナナは知らない。

 女神像のペンダントに使われている宝石が

【竜首宝珠】であることを。


 ナナの母親に竜首宝珠のことを

知らされなかったのには、2つの理由があった。

 1つは、悪しきものに狙われないように。

 2つ目は、邪な願いに使わないように。

 “平和のために使われて欲しい”

というグアンの想いが込められていた。

 

 竜首宝珠には、戦後ナナが毎日込めた願いと

魔力が一年間、蓄積されていた。



いつもありがとうございますっ!

応援よろしくお願いしますっ!


挿絵(By みてみん)

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