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132 人魚とセイレーンと祝福の御子

人魚とセイレーンと祝福の御子




ーー戦争終結から10年後のナミノエーー


 この時期、ナミノエでは毎年恒例となった

雨乞い祭りが開催されていた。

 特別ゲストとして招かれた、

セイレーンの長【キムスケ】は自分の娘である、

少女【ヒカリ】と共に、

人魚国アクアマリン代表として、

ソナが住むナミノエ領主邸に訪れていた。


 ソナが笑顔で客人を迎える。


「ようこそお越しくださいました」


「今年は女王が出席できず申し訳ありません」


 キムスケが頭を下げる。

 娘のヒカリもペコリと頭を下げる。

 ヒカリは紫色の髪をした、愛らしい少女である。 


挿絵(By みてみん)


 人魚の姿に生まれながら、セイレーンのような

不思議な聴力を持つヒカリは、

ソナでさえ気が付かなかった、音の反響を察知し、隠し部屋を見つけ出した。


「父上様。このおうち、扉が無い部屋があるよ」


 驚く一同。

 ソナがおそるおそる隠し扉を開く。

 それはソナの実父である【ヒス】が作った、

とても狭い隠し部屋であった。

 その部屋にあった埃を被った箱の中には、

2冊の本が納められていた。


 一つは、古代セイレーンの王と共に、

ナミノエを建国した古代の人魚族の姫が

共同で書いた記録。

 もう一つは、ヒスの日記であった。


 セイレーンと人魚姫の記録には、

リヴァイアサンとの戦いの歴史と、

子守貝と生玉に関する記述。

 ヒスの手記には、

ソナに対する想いが綴られていた。


 ソナは皆の前で、書物の内容を読み上げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーセイレーンと人魚の記録ーー


 ー勇者サトルが魔王を倒した後の世界ー


 残されたセイレーンの聖女マリカは

シロイナワ高地を聖地とした。

 イムの墓である女神像と未完成のイムの御石鉢と

聖盾蟹の守護のため、

セイレーン一族の国をタカキタから

シロイナワ高地へと遷都した。


 マリカの兄を初代王とし、

初代王死去から約100年後。


 ー4代目の若き王【ポミルク】の時代ー


 ポミルクは閉鎖された世界である、

シロイナワから外に出て、広い世界を

自分の目で見たいと考えていた。

 周りの反対を押し切り、ポミルクは

セイレーンの秘宝を持ち出し旅に出てしまう。


挿絵(By みてみん)


 旅の途中、モンスターに奇襲されて

翔べなくなるほどの重傷を負ってしまうポミルク。

 ポミルクは崖から海に飛び込み、

間一髪逃げ出すことに成功したが、

傷が深く、上手く泳げず流されてしまう。


 人魚国アクアマリンの浜辺に流れ着いた、

瀕死のポミルクは人魚に助けられる。

 珍しい客人として王宮に招かれたポミルク。

 桜色の髪をした人魚国の第2王女【スフレ】は

セイレーンの若き王に興味を持ち、

積極的に接触した。


挿絵(By みてみん)


 やがて2人は恋仲となる。

 2人の間に子供ができたことが発覚すると、

人魚の女王は激怒した。

 通常ならば極刑となるところであったが、

セイレーンの王を処刑すれば国際問題に

なりかねないということで、

ポミルクは国外追放となった。


 女王に猛反発したスフレは、

ポミルクと共に旅に出た。

 ポミルクはスフレと共に、

シロイナワで生きていくことを決意し、

2人はシロイナワを目指し旅に出た。


 旅に出て間も無く、アクアマリンに

リヴァイアサンとその眷属が現れ、

襲撃を受けたことを知った2人は、

急いで人魚国アクアマリンへと引き返す。


「壮絶な戦いなる。

人魚国には救ってもらった恩があるのに、

私は恩を仇で返し、迷惑をかけてしまった。

命を懸けて私も戦うよ」


 ポミルクは確信した。

 命を懸けた壮絶な戦いになると。

 自分が危険な囮役をこなしてみせる。

 その結果、生きて戻るのは難しいであろうと。


「迷惑なんて言わないで。私が望んだ事なの。

あなたは悪くない」


 スフレはポミルクの顔色を見て不安そうに言う。

 このとき、セイレーンの秘宝であった

【子守貝】と【生玉】という、2つの至宝は

ポミルクの手により1つとなった。

 生玉は子守貝に埋め込まれ、

“遠く離れた相手に声を届ける”という能力と、

“魔力を増幅し活力を与える”という、

2つの強力な効果を有する至宝となった。



 魔獣リヴァイアサンは過去に、先代勇者サトルと

共に旅をした人魚国女王サーラと戦い、

敗れていた。

 深い傷を負い、命からがら逃げ延びた

未熟なリヴァイアサンはチカラ不足を痛感した。

 100年後。傷を癒し、チカラを蓄え、

眷属を増やしたリヴァイアサンは、

復讐のために再び人魚国に現れた。


 リヴァイアサンを取り逃した、

サーラは死ぬまで悔やんでいた。

 再びリヴァイアサンが現れた時のため、

サーラは封印するための罠を残した。

 それは封印像と、封印の術式を施した

ブルーホールであった。


 アクアマリンに到着した、

ポミルクとスフレが見た光景は凄惨を極めていた。

 かつての美しく、白い浜辺と青い海は、

赤い地面と紫の海と化しており、

異形の海棲生物と

人魚の死体で埋め尽くされていた。

 変身魔法でクジラのような姿から、

ワニのような姿になったリヴァイアサンは、

城下町で人魚の兵士相手に無双していた。

 全長10メートルほどのリヴァイアサンが、

向かってくる人魚の兵士を、

ボーリングのピンのように薙ぎ払う。


 帰還の道中、スフレから封印の機構の事を

聞いていた、ポミルクは覚悟を決めていた。

 自身が囮となり、命に代えても

リヴァイアサンの封印を成功させると。


 ポミルクは決死の特攻で、

リヴァイアサンに攻撃を仕掛けた。


 得意とする雷の魔法と、シロイナワから

持ち出した魔法具の槍【海風のトリアイナ】を

奮い、リヴァイアサンのヘイトを

自分へと向けることに成功する。


 ポミルクは羽ばたき、

リヴァイアサンを海へと誘う。

 リヴァイアサンは変身魔法を解き、

再び鯨の姿となってポミルクを追う。


 

 その頃、スフレは人魚の女王に懇願していた。

 今、ポミルクが囮となり、リヴァイアサンを

ブルーホールへと誘導していること。

 人魚の戦力を総動員して、ブルーホールで

リヴァイアサンへ総攻撃を仕掛け、

弱らせて封印をするべきであると。


 しかし、人魚の女王は

首を縦にふることはなかった。

 人魚の兵士たちは、海岸で引き続き

リヴァイアサンの眷属との戦闘を続け、

ポミルクがリヴァイアサンをブルーホールまで

誘い込むことに成功した場合、

そのままポミルクごとリヴァイアサンを

封印する事が1番成功率が高い、

と女王は決断した。


 スフレは愕然とした。

 女王の下した決断は、

ポミルクの予想通りであったためだ。

 ポミルクは全てを承知で覚悟の上、

囮になっていた。

 もはや、スフレはそれを

受け入れるしかなかった。


 ブルーホールの上で壮絶な死闘を繰り広げる、

ポミルクとリヴァイアサン。

 ポミルクは、トリアイナに鳴鳥の子守貝を

括り付け、浜辺へと向けて一直線に投げた。

 その隙にポミルクは、リヴァイアサンの角で

腹を突かれて、串刺しになってしまう。


「グハハハ! 武器を捨ててどういうつもりだ?

諦めたか?」


 勝利を確信したリヴァイアサンは高笑いをする。


「ああ。自分が生き残る事は諦めた。

しかし、負けたのは貴様だ」


 ポミルクはリヴァイアサンの額に両手をつき、

魔法を放つ。


「無駄な足掻きを!

鉄壁を誇る我の肉体には、がっ!?」


「世界は広い。貴様の敗因は驕りだ。くらえ。

【雷属性磁界魔法】」


 ポミルクは魔法で、

リヴァイアサンの血流を逆転させた。

 酸素が少ない血液が再び脳に流され、

酸欠に陥るリヴァイアサン。

 リヴァイアサンの血管がコブのように

膨れ上がり、ボコボコと動き出す。


「な、なんだ? 何が起きている!

苦しい。意識が、……遠くなる。

……酸欠なのか。我が溺れているだと……。」


 リヴァイアサンは白目を剥き、

腹を上にして死んだ魚のように浮き上がる。


 ポミルクは最後に残った魔力を振り絞り、

子守貝へ向けて電磁波に変えた声を届ける。


 スフレは砂浜に届けられた子守貝を握りしめ、

封印の像の前にへたりこむ。

 子守貝から、電磁波から声に変換された

ポミルクの声が流れる。


「スフレ、聞こえているな。

今、リヴァイアサンは気絶している。

しかし俺も深傷を負っていて動けない。

救助に来ても、もう助からない。

今のうちに、リヴァイアサンを封印するんだ。


スフレ。すまない。でも後悔はしていない。

君と、君と僕の子と、君の家族の幸せのための

礎になれること。それが僕の願いだ。

さぁ、僕に構わず封印するんだ。

僕はもう助からないし、もう2度と、

この手はリヴァイアサンには通用しなくなる。

今しかない。頼む。」


 泣き崩れるスフレ。

 人魚族の魔導師達は、

封印像に魔力を込めて祈る。

 スフレも立ち上がり、共に魔力を込めた。

 ブルーホールに結界が張られた。


 ポミルクは結界の成功を確認して安堵した。

 死が迫り、薄れゆく意識の中、

ポミルクは未来の映像を見た。


 スフレと同じ、桜色の髪のセイレーンが

歌で雨を降らせ、ナミノエの危機を救うところと、戦場で異形の怪物を仕留める映像である。


 ポミルクは確信した。

自分の子供か、もしくは子孫が英雄になることを。


「ありがとう。封印は成功したようだね。

スフレ。聞いてくれ。

今、未来の映像が見えたんだ。

君と同じ桜色の、髪のセイレーンが

人々を危機から救う姿を。

君と僕の出会いは、過ちなんかじゃない。

誰にも祝福してもらえないかもしれない。

けど、世界が祝福してくれてる。

キミに出会えて、良かった……」


 ポミルクの声が途絶えた。

 再び泣き崩れるスフレ。


「1人でも立派に育ててみせるから。

見ていて、この子の成長を。

見守ってね」


 スフレはポミルクに誓う。


 戦後、スフレは人魚の女王と決別した。

 人魚の国を救った【英雄ポミルク】に

感銘を受けた人魚は、スフレと共に

新天地へと旅立ち、ナミノエを建国した。

 スフレの手により、

子守貝はダンジョン深くに封印された。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーそれから数百年後、ソナが生まれた年ーー



 ナミノエの領主【ヒス】は、

娘の誕生と共に、娘の未来を予知してしまう。

それは、ナミノエの伝承にあった

【英雄】に他ならなかった。


「なぜ……。なぜ神は、私の娘に

過酷な運命を強いるのか……。」


 翼を持たない、人魚族であるヒスは、

翼を持つ桜色の髪をした赤子を抱きしめ、

涙を流す。

 ヒスは赤子に変身魔法をかけ、

さらに声を出せなくなる呪術をかけた。

 魔法と呪術は、生玉により解除されるような

術式が施されていた。


 辛く苦しい少女時代。

 その先に視えた明るい未来。

 ソナなら、きっとその未来を手にできると、

信じて。

 ヒスはソナに祖先が夢見た未来を託した。


 ヒスは予知の通り、屋敷に侵入した

パトカに接触し、説得した。

 パトカはヒスの提案に乗り、互いの娘を交換し、

あの日の訪れを迎えることとなる。


 ソナの両親はナミノエの飢饉を解決するために、他の大陸へと旅立つ。

 しかし船はモンスターに襲われてしまい、

帰らぬ人となってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーー現代・ナミノエ領主邸ーー


 ソナは2冊の本を客人たちの前で朗読していた。

 ソナは初めてヒスの想いを知ることとなる。

 ヒスがソナを愛していたことはパトカから聞いてはいたが、初めて触れた、ヒス直々の想いに

感無量となるソナ。

 ソナの目からは涙が溢れていた。


「何泣いてんのよ。そろそろ出番だよ。歌姫様!」


 雨乞い祭りメインイベントの時間が近づき、

ソナを迎えにきたユイが現れた。


「うん。私、今年も頑張るよ。

天国のお父様とお母様のところまで届くよう、

精一杯歌うよ!」


「あんまりハリキリ過ぎないでよ!

アンタの全力の声は殺人級なんだからねっ!」


「もうっ! 間違えないから大丈だよっ!」


 仲睦まじい2人が会場へと向かっていった。



「さっきのお話、お父様とお母様の話みたいだね」


 ヒカリはキムスケの顔を見上げて言う。


「なっ!? 全然違うではないかっ。

私は生きているしだな……」


 キムスケは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 キムスケは柔かに笑うヒカリの手を引き、

イベント会場へと向かった。



読んでくれてありがとうございます!

これからもがんばりますので、

よかったら応援してくださいねっ!

それでは歌いますっ♪


♪すら〜いむ すら〜いむ 

♪すら〜いむ すら〜いむ


挿絵(By みてみん)

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