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131 星が舞う、清らかな村と 生命の人形の記憶

星が舞う、清らかな村と

生命の人形の記憶


ーー国連軍と魔王軍の戦争終結から5年後ーー


 うまーるとマヌルの故郷である、

ウブガサ村【通称・星舞村】。


 約一年前に、呪いの中間宿主であった

"ミヤイリ貝“の駆除が完了していた。

 遠く離れた河川で捕獲した、

蛍の幼生の主食となる淡水生の貝”カワニナ“と

蛍の幼生の放流が行われていた。


 初夏を迎えた今年、かつて“蛍の木”と

呼ばれていた、村の御神木の前に集まる

大勢の村人たち。

 陽が沈むとともに、水草から御神木へ、

一斉に星が流れるように舞う蛍。


 全盛期に比べると、まだ数は少ない。

 夜空に散らばる星のように輝く、

木に留まる数百の光が一斉に点滅を繰り返す。

 その光景はまるで、

クリスマスツリーのようである。


挿絵(By みてみん)


 天の川を背景に、星が点滅する御神木。

 神秘的な光景に酔いしれる人々。

 村では第一回目の開催となる【星誕祭】

が行われていた。


「ヌルお兄ちゃん。やったんだよ。

ついに、ついに蛍さんが帰ってきたんだよ。」


 20歳になり、少し大人びた

うまーるが舞う蛍を見ながらヌルを偲ぶ。


「まさかな。

村を苦しめた呪いが、水からくるものだったとは。

原因を突き止めたヌル殿へ、

感謝の気持ちを伝えられぬのは心苦しいな。」


 うまーるの肩を寄せ、抱くマヌル。

 年老いたアキラに代わりに祭りを執り仕切る、

村長代理のマヌルは正装をしている。


挿絵(By みてみん)


 その2人の様子を御神木から見守る、

アゲハ蝶のような姿をした光の精霊。


 うまーるは、あんみつを抱いている。

 あんみつを抱いても、

もう目が光ることも、髪が伸びることもない。

 チカラを吸われなくなった、うまーるは

少し寂しそうだ。


 光り輝く蝶が 

うまーるの目の前をヒラヒラと舞う。

 うまーるは不思議な蝶の意志を感じ取り、

右手の人差し指を蝶に向けて差し出した。

 蝶が うまーるの人差し指に留まる。


「こんな夜に、蝶々さんなんだよ……?」


 うまーるが、自分の指に留まったのは

光の精霊であることに気付く。


「精霊さんなんだよ!?」


 蝶のサイズと姿になって現れた

光の精霊に驚く、うまーるとマヌル。


「川を戻してくれたのだな。感謝する。

その人形が気になるか。

感謝の印に、その人形が辿った

数奇な運命の記憶を見せてやろう。」


 精霊は2人に幻術をかけて、

あんみつの記憶を見せた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場面は荒れ果てた荒野に佇む、

徒歩で旅をする、

2人の男が会話するシーンから始まった。

 

 レッサーパンダの獣人で、後の世界最高峰の

魔法具職人【グアン・ダムマン】。

 追いかけるようについて歩く、

ダークエルフの青年は、

若かりし頃の【アカマル】であった。

 


「弟子になりたいだと? 断る」


「お願いします。 

世界最強の魔法使いになりたいのです」


「そんなものには、何の価値もない」


「あなたがそれを言ったら、魔法の道を志す者達が

何のために日々、研究と訓練をしているのか」


「最終的に戦争の道具になるだけだぞ。

魔法の真髄とは……。

まぁいい。見ればわかるだろう」



 2人が行き着いた先は、古い遺跡であった。


「あれを見ろ。

強力な魔石で動く【ジェムス・ゴーレム】だ。

あれを倒せたら考えてやる。

お前の得意な炎の魔法で攻撃をして、

倒してみせろ」


 グアンが指差す先には、ルビーのような、

赤く透き通った輝く鉱物で出来ている、

ゴーレムの姿があった。

 ゴーレムは月明かりを受けてキラリと光る。

 ゴーレムはアカマルが近づくと、

静かに動き出した。


 ガリッ ザリッ


 ゴーレムが瓦礫を踏み締める音が、

静かな遺跡に響き渡る。

 ゴーレムの足元に転がる瓦礫は、

数多の冒険者が一攫千金を狙い、

散らしていった装備品や遺骨であった。

 

 グアンに言われた通り、

アカマルは最強クラスの炎魔法を

ゴーレムに浴びせる。

 しかしゴーレムには全く効いていない。


 ゴーレムの岩肌の地面を砕く、

怒涛の攻撃を躱し続けるアカマル。

 アカマルの顔は、徐々に疲労の色が見え始める。


「おい! ヘイトを保ったまま、こっちへ走れ」


 グアンの指示するままに、走るアカマル。

 突如、ゴーレムは地盤と共に

崩落に巻き込まれた。

 大きな爆発が起き、水飛沫が舞う。


「これは……?」


 アカマルは何が起きたのかわからない。


 グアンは魔法で地下に空洞を作り、

冷たい水を溜めていたのであった。


「お前さんの炎魔法で熱せられ、

冷たい水で急激に冷やされヒビが入り、

水蒸気爆発で木っ端微塵ってワケだ。


いいか。

“最強の魔法使い”なんてもんに意味はない。

威力が高いだけの魔法をブッ放せば

強いってもんじゃねえよ。

燃えねぇヤツに炎の魔法を浴びせるのは、

時間と魔力の無駄だ。

もちろん目的を遂行するには、

最低限の威力は要るがな。


魔法の真髄は破壊じゃねぇ。

ヒトの生活を豊かにするモンだ。

だが今の世の中じゃ、

その技術は戦争に利用されるだろうよ。

お前さんもチカラを持てばいずれ、

戦争に駆り出される。


生きるためには避けられねぇ戦いもある。

その時にお前さんは、何かを守るために戦うのか、自己満足のために戦うのかは知らん。

ただ、最強の〜なんてモンを目指す奴は

犬死にするだろうよ。

絶対に負けられないってのは、敵を進ませないってことが肝心な戦いになる。

自己満足で戦う奴は、

敵の足止めをするとか、

どうやったら撤退できるか、

そういう戦いができねぇからだ。

ちなみに戦術として、

撤退は攻撃より難しいからな。


いくら強い魔法を撃てたとしても、

それだけじゃ勝てねえ敵に出くわしたら、

何もできずに死ぬ。

自分が死ねば、守りたいモノも守れん。

相討ちならば話は別だがな。


強くなりたかったら、魔法の威力ではなく、

魔法の使い方を考えろ。

魔法が効かない敵に、どうしても

勝たなきゃいけない場面も想定しておけ。

そして、それに決まった答えなどない。

俺に付いてきても、

そんな答えなど見つからねぇよ。


俺が言えるのは、これだけだ。

教えてやれることなんてねぇよ。」


「師匠が言いたいことは、よくわかりました。

最終的には自分で考えます。

だから、しばらく行動を共にさせて下さい。」


「……師匠か。 

俺には、やらなきゃならんことがある。

勝手についてきてもいいが、世話はしねえぞ」


「ありがとうございます」


「どれ、ゴーレムの素材を回収するか。

アイツの核の魔石はな、とんでもねぇ至宝だ。

とある高名な魔術師がな、至宝の魔石を

核にゴーレムを作り、死の間際に

自分のチカラを魔石に移したって話だ。

チカラだか覚悟だか知らんが、持たざる者には

譲りたくなかったんだろうよ。


俺にはな、死ぬまでに作りたいモノがあるんだ」


「では、私がその魔石を取って参りましょう」


 アカマルは崩落現場の底に降り立つ。

 ゴーレムの破片の中から一際輝く、

赤い宝石を見つけて拾い上げる。

 戻ったアカマルは、グアンに魔石を差し出した。


「ほう。これが【道返玉】か。

すげえ魔力をヒシヒシと感じるぜ。


……そうだ。

ニイチャン、コキ使って悪かったな。

失敗作で悪いが、俺が作った杖だ。

今の俺には、これくらいしか礼ができんよ。

すまんな」


「失敗作? これは、もしや【刹那の杖】では?」


「失敗作だよ。

あまりにも速く、魔法を撃てちまうからな。

考えて使わねえと、

すぐに魔力がカラになっちまう」


「魔法の道を志す者にとっては、至宝ですよ。

ありがたく使わせていただきます」


「さて、俺の工房に戻るか」


 2人は歩き出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 この後、アカマルはグアンの手助けもあり、

魔法具【戦紅花火】を作り上げた。

 いつか、魔法が効かない敵との

“絶対に負けられない戦い”に備えて。


 グアンと共に旅を続けていくうちに、

アカマルの名も天下に知れ渡る。

 ダークエルフ発の英雄として、

その名を轟かせた。

 アカマルは強さを求める道よりも、

人々の役に立つ道を選んだ。

 そしてレイカからの要請を受けて、

レイカ直属十字隊に加わることとなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 工房に戻ったグアンは、

一心不乱に人形の製作に取り掛かった。

 道返玉は、これ以前に手に入れていた紫色の魔石

【死返玉】と合わせて人形の目に使われた。


 グアンの故郷の村は山間にあった。

 大雨の後の大地震により、

村は山津波に襲われ全壊した。

 このとき、グアンは妻と娘を亡くした。

 このときのグアンは、“最強の魔法使い冒険者”

として旅を続ける生活を送っていた。

 家族をないがしろにし、好き勝手な旅を

続けていたグアンは深く後悔した。


 なぜ側にいなかったのか。

 なぜ一緒に連れていかなかったのか。


 元々、モノ作りが得意だったこともあり、

グアンは冒険者を引退して、

魔法具職人になる道を選んだ。

 それは、これまで自分のために作っていたような

兵器や武器ではなく、

“人々の役に立つモノ”を作る。

残りの生涯をそれに懸ける、

という想いを込めていた。


 今回の人形は、“不幸な事故など”で

命を失った者を助けるような、

魔法具のお守りを作りたい。


 そんな想いが込められていた。

 この人形は、グアンダムマン作【生命の人形】

と名付けられた。

 人形の評判は上々で、

オークションで高値で取引された。


 そして人形は“病弱な姫のため”にと、

とある王族の手に渡った。


 しかし、この人形は結果的に

資産家のコレクトアイテムとなってしまう。

 持ち主の魔力を吸い、衰弱させることから

忌み嫌われ“呪いの人形”という

レッテルを貼られた。

 投げ売りされ続け、多くの持ち主を渡りながら

エルフ国のガチャ屋に並ぶこととなった。


 そしてあの日、特殊な魔力で運命を捻じ曲げ、

ずっと当選を避け続けてきた人形は、

レスベラの幸運によって、待ち続けてきた

【真の主人】となる、

うまーるの手に渡ることとなった。


「気味が悪い」


「殺される」


「うわあああ! うまーる! 捨てろ!

それは呪いの人形だ!」


 歴代の持ち主の負の感情に晒され続けてきた

人形は、あの日初めて愛されることとなった。


 うまーるは、どんなにチカラを吸われても、

それを不快に思うことはなかった。

 うまーるは本能でわかっていた。

 人形に悪意が無いことを。

 なぜなら、人形はいつか来る“ご主人様の危機”

から救うために、チカラを貯める

という使命を遂行していただけであった。

 人形の愛らしい見た目も、

うまーるの母性をかき立てた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 精霊による幻術が解けた、うまーるとマヌル。


「なんか、あんみつちゃんを罵倒する声の中に、

懐かしい声があったんだよ……。

……きっと、気のせいなんだよ……。


あんみつちゃん。

つらい思いをいっぱいしたんだね。

これからも、大事にするんだよ。

それと、おじいちゃん、ありがとなんだよ」


「グアンダムマン氏か。

【イムの御石鉢】の完成とともに崩御されたという。

妹を救ってくれたこと、感謝する」


 うまーるは、あんみつを抱きしめ空を見上げた。

 夜空に舞う蛍と、

手元にある、もう動かない人形。


「どちらもずっと、大事に守っていくんだよ」


 うまーるは固く誓った。


「あとは、ヌルお兄ちゃんが

帰ってきてくれたら……。

ヌルお兄ちゃん、会いたいんだよ。

直接会って【ありがとう】って、言いたいんだよ。


 ヌルを思い出し、泣き出す うまーる。


「ヌル殿が言っていたのであろう?

命は巡る。ヒトは死んで終わりじゃない。

命はカタチを変えてまた、生まれてくると。

今もどこかで、

この同じ星空を見ていることだろう。

前を向いて、しっかり歩いていけば、

いつか会えるさ。

新しいヌル殿が来た時に、

この景色を見せられるように、

俺たちでシッカリと守っていこう。」


 マヌルの言葉で、うまーるは思い出した。

 旅の途中にヌルから聞いた、

マーボーから教わったという、ヌルの言葉を。


「うん、わかったんだよ。

またこの景色を、

ヌルお兄ちゃんに、絶対に見てもらうんだよ」

あのね、応援してもらえなくても頑張るんだよ。

でもね、応援してもらえたらね、すっごく。

すっごく! 嬉しいんだよ!!

わたしの村みたいに、

星でいっぱいにしてくれたら、嬉しいんだよ。


挿絵(By みてみん)

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