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128 伸びる竹槍と謎の竹笛



挿絵(By みてみん)


 初夏の早朝。

 蝉の鳴き声はまだ少ない。

 青笹が茂る静かな墓地で、

マーボーは墓石の掃除をしていた。

 その口には、布で補強されていた

割れた竹笛が咥えられている。


 マーボーは墓石を磨きながら、墓に報告をする。


「やったぜ。ついに俺。いや、俺たちは

魔王を倒し、邪神を封印した。

世界は平和になったんだ。ヒピュー♪」


 マーボーは上手く音が出せなくなった

竹笛を手に取り、感慨にふける。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 パンダの騎士マーボーは、恵まれた

体格を活かし、冒険者として名を挙げた。

 また、稼いだ金で派手に遊び、女にもモテた。

 そして若くして、デキ婚した。

 娘が生まれると同時に妻を亡くした。

 そして生まれた娘は病弱で、

幼い娘にも先立たれてしまう。


 失意の底で呑んだくれるマーボーを訪ねたのは、

“世界最高”といわれる

魔法具職人〈グアン・ダムマン〉であった。

 彼はマーボーに一振りの槍を託す。

 それは見た目は“ただの竹槍”であった。

 しかし、マーボーが槍を握ると、槍は

それに応えるようにマーボーにチカラを与えた。

 グアン・ダムマンは竹槍製作の経緯を

語って聞かせた。


「枯れた竹林で1本だけ光る竹を見つけた。

竹は俺に語りかけた。

『自分を使え』と。

『お父さんのチカラになりたい』と。

俺には意味がわからん。

しかし、お前さんは心当たりがあるのだろう?

こんなところで腐ってないで、やるべき事をやれ。

きっと、お前さんは選ばれし者だ。

代金は要らねぇ。そのぶん働け」


 グアン・ダムマンはまた旅に出た。


 近親者しか知り得ない情報を知る、

謎の魔法具職人。

 高額で売りつけるというのなら

不審に思っただろうが、

マーボーは職人が娘と話したという話を信じた。

 

 マーボーは竹槍を抱きしめ涙を流した。

 マーボーは竹槍に娘と同じ名の【カグヤ】と

名付けた。

 そして困っている人のため、弱者を助けるために

槍を振るうという誓いを立てた。


 マーボーは大陸最大の都市、

王都ケンチョーの傭兵となった。

 持ち前の巨躯と膂力を奮い、

メキメキと頭角を表し、功績をあげた。

 このときはまだ槍は伸びることなく、

力任せに槍を振るった。

 それでもマーボーに敵う敵はいなかった。

 マーボーはフリーの傭兵から

王都の騎士団に抜擢され、

ある難事件へと関わることとなる。


 それは各地で子供を連れ去る誘拐事件であった。

 裏で暗躍する、大規模な“奴隷商隊壊滅作戦”

であった。

 小柄なコアラの獣人、騎士団長・ユーカリが

率いる部隊の中にマーボーがいた。


 騎士団は敵のアジトを見つけ出し、

殲滅作戦が実行された。


 奴隷商側の傭兵が想定よりも多く、

大規模な戦闘となった。


 マーボーは敵を蹴散らし、

首謀者である奴隷商の長を探す。

 開きっぱなしの扉を見つけ、駆け込むマーボー。


 その扉の先には牢屋があったが、

牢屋の扉は開けっぱなしで、

中は“もぬけの殻”であった。


 マーボーは倒れている人がいることに気付く。

 それは、騎士団長のユーカリであった。

 ユーカリは騎士団最強の剣士であった。

 【莫耶】と【干将】という

ふた振りの魔法剣を神速の剣技で扱う、

王都最強の騎士であった。


 最強の敏捷性を誇る、

ユーカリの亡骸を観察するマーボー。

 マーボーはユーカリの死因が

打撃であることに気付く。

 頬骨と眼底骨は砕け、頸椎は折れていた。


「信じられねぇ。数人がかりで囲んだって

1発入れるの難しいのによ。

あのユーカリさんをボコるなんてな。


ヤベェな。相手は複数か?

どっちにしろ、強えのがいやがるな。

しかし子供たちを見殺しにするわけにもいかねえ。やるしかねえな。

俺の取り柄は頑丈さだ。

差し違えてもやってやるぜ」


 マーボーは、脱出に使われたと見られる

隠し扉を見つけ、賊の後を追う。

 しばらく走ると、月夜の闇に紛れ、

5人ほどの子供を連れた

奴隷商と見られる初老の男と、

男の護衛と見られる、傭兵の出立ちをした

カンガルーの獣人を補足した。


「止まれ! 子供たちは返してもらうぜ」


 子供の中に、マーボーを知る

パンダ獣人の女の子がいた。


「マーボーしゃん!」


「お前は! ユミユミの娘、ポチポチか。

そうか捕まっちまったのか。

待ってろ、今助けてやるからな」


 巨躯の追手である、マーボーの姿を見た

奴隷商人は慌てふためき、傭兵に指示を出す。


「ラビィ! さっさと片付けろ!」


「レイドの旦那、落ち着けよ。

こんなウスノロのデクノボーに負けねえよ。


さっきのチビより楽しめそうだな」


 ラビィと呼ばれた、カンガルーの獣人は

ピョンピョンと小刻みなジャンプを始める。


「……素手。格闘か。間合いなら俺が有利だな。

近接なら尚更、ユーカリさんが有利だったはず。

コイツ1人でユーカリさんを……。

信じられねえな。

とにかく全力でやるしかねぇな」


 マーボーは、ラビィがジャンプで

浮き上がるタイミングを狙い、突きを放つ。


「地に足ついてねえと、これは避けられねえだろ!

舐めすぎだぜ!」


 ラビィは軽業師のような動きで

無理な体勢から体を捻り、不自然な動きで

突きを躱した。

 なおかつ、避けざまの無理な体勢から

カウンターでマーボーに蹴りを入れる。


 吹き飛ぶマーボー。


「ぐあっ!! なんて動きしやがる」


「冥土の土産に教えてやるよ。

俺の魔法具はな【絶対回避】と【必中】だ。

テメェの攻撃は絶対に当たらないし、俺の蹴りは絶対に当たる。絶望して死ね」


 マーボーは、めげずに突きを放ち続ける。

 しかし、1方的に蹴られ続けるマーボー。


(左足を軸に、どんな体勢でも躱し、

右足の蹴りは、どんな体勢で放っても当たるのか。

あの靴が魔法具か。


強ぇな。反則だろ。無敵かよ。

魔法じゃなきゃ当てるの無理なのか?


そうか……。神速の双剣が敗れたのもこれか。

どうする…。打つ手がねえや……)


 その後もマーボーは突きを放つが、

人間離れした動きで

躱しながらカウンターで蹴りを放つラビィ。


 マーボーはついに倒れてしまう


「はぁ。はぁ。しぶとい野郎だぜ。

いま楽にしてやる」


 マーボーの想像を超えるタフさに驚きながら

肩で息をするラビィ。

 マーボーに歩み寄る、

ラビィに竹笛が投げつけられた。

 ラビィの胸に当たり、地に落ちる竹笛。


「マーボーしゃんをいじめるな! やめてよ!」


 竹笛を投げつけたのは、ポチポチであった。

 ポチポチに続き、他の子供たちも

石を拾って投げつける。

 石飛礫を浴びせられ。激昂するラビィ。


「ガキども! 大人しくできねぇ奴はぶっ殺すぞ!」


(おい。なんだ?

何故、子供達が投げつけた石が当たるんだ。

投石なら当たるのか? わからん。だが、やはり。

無敵なわけがない。

そんな万能なモノがあるわけがない。

攻略法はある! あきらめるな!! 


ぐっ!?

息が苦しい!? なんだ!?

……内臓からの出血か。

早く血を抜かねえとマズいな。

くそっ。 奴を倒せるかもしれないのに。

窒息する前に倒すしかねぇ)


 マーボーはラビィに向かって石を投げつける。

 ラビィは軽々と石を避ける。

 ラビィは倒れているマーボーに蹴りを入れる。

 転がるマーボー。


「ごぁっ!」

(俺の石は当たらない……。

……そうか。わかったぞ。

奴を倒す方法が。


奴の魔法具が効果を対象とするのは1人限定。

対象以外の攻撃は避けられない。

誰か。協力者が、仲間が要る。


わかった。わかったが……。

もうダメだ。息が……。意識が……)


 もがくマーボーは、落ちていた何かを掴んだ。

 それは竹笛だった。


(そうか! これなら!!)


 マーボーは自分の胸に竹笛を突き刺した。

 竹笛から勢いよく鮮血が噴き出す。

 呼吸を再開し、立ち上がるマーボー。

 マーボーは再び竹槍カグヤを握る。

 カグヤからマーボーに

不思議なチカラが流れ込む。


(これは? このチカラは……。そうか。

職人の旦那が言ってたのは、このことだったのか

これならやれる。ヤツに勝てるぞ!)


 マーボーにトドメを刺すべく、歩み寄るラビィに

ふたたび子供たちからの石飛礫が降り注ぐ。

 ラビィは立ち上がるマーボーに気付く。


「ガキども! おとなしくしろ!

む? まだ立てたのか。

なんだよその血は。

自分の胸に竹を刺して?

自分でやったのか?

ヤケになって自決ってワケでもなさそうだな。

まぁいい。

そんなに俺の蹴りを喰らいたいのなら、

腹一杯喰わせてやるよ」


「血が余っててよ。抜いたらスッキリしたぜ。

やってみろよ。今からおまえを突く。いくぜ」


 マーボーは槍を構える。

 矛先をラビィに向けて

槍を握る手にチカラを込めた。

 余裕の笑みを浮かべるラビィ。


 突きのモーションは無く、槍が伸び、

竹槍は真っ直ぐにラビィを突いた。

 ラビィの腹に深くめり込む、竹槍カグヤ。

 ラビィの表情が微笑みから苦悶に変わる。


「ぐぼぁっ!!! 何故だ! 何故当たる!?」


「感じるぜ。俺は独りになっちまったと思ってた。

ずっと側にいてくれたんだな。

いま確信したぜ。

一緒に戦ってくれ。この子たちを助けてぇんだ」


 マーボーはチカラを込めて槍を握った。

 照準をラビィに合わせるだけで、

ラビィがメッタ突きにされる。


「ぐぼらっ! はべぁっ!! ぶげらっ!!!

なぜ、なぜだ……」


 仰向けに倒れるラビィ。


「俺は独りじゃねぇ。

この突きはな、俺の娘の怒りだぜ」


 意識が薄れていくラビィには、

うっすら視えていた。

 マーボーと共に竹槍を握る、

怒れる仔パンダの姿が。


「な、なんだよソレは……」


 意識を失い、動かなくなるラビィ。


「この役ただずがぁ! くそっ! くそっ!」


 レイドは焦燥し、大慌てで転送魔法陣を展開し、

逃亡した。


 血を吐き、倒れるマーボー。

 胸の竹笛からもドクドク流血する。


「わかったぜ、旦那。

この槍に込められたものが。

誓うぜ。コイツで世界を覆う闇を

必ず打ち破るってな。


……伸びる槍か。もしも月まで伸ばせたら、

カグヤと手を繋げるかな。俺の夢だっだんだよ。

カグヤと手を繋いで歩くのがよ……。


魔力とチカラの強さで伸びるのか。

もっと強くならねぇとな。

これからも頼むぜ、カグヤ」


 マーボーは月を見上げて涙を流す。

 ポチポチと子供たちがマーボーに駆け寄る。


「マーボーしゃん、どうして泣いてるの?

痛いの?」


「いやな、カグヤのことを思い出してな」


 亡き娘の『カグヤ』とポチポチは同じ歳で

近所に住んでいたこともあり、友達であった。

 ただ、カグヤは病弱で

外で遊ぶことはできなかったため、

主に話し相手であった。


「寂しいの?

私が大きくなったら、マーボーしゃんの

お嫁さんになってあげるよ」


 ポチポチは満身創痍でボロボロの

マーボーに寄り添い、必死に声をかけ続ける。


「ありがとよ。でもな、俺は死んじまった嫁

一筋だからよぉ。

もう他の女は愛せねえな(大嘘)」


(お前の母ちゃんと昔、

●っちまったとか、死んでも言えねーな。

墓まで持って行かねぇと)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 墓を磨いていたマーボーは、

物思いに耽りながら、

いつしか竹槍カグヤを磨いていた。

 ふと、我に帰るマーボー。

 太陽の位置で時刻を把握する。


「悪いな。もう行くわ。

悪い奴はシメたけどよ、まだ復興っていう

仕事が残ってんだ。

また来るからよ。ピュイ♪


おっ。いい音が出たな。

今日はイイコトありそうだぜ」


 マーボーは立ち上がり、墓を背に歩き出した。


 心地よい風が吹き、カサカサ、サワサワと

笹の葉を揺らし音を奏でる。

 マーボーはその音の中で


ーもう。カグヤばっかり。行ってらっしゃい。ー


ー頑張ってね! パパーー


 そんな返事のような声が、聴こえた気がした。



ガハハハハ! おう、そこのお前!

そう、お前だよ!!

悪いけどよ、ちっとばかし、俺の背中に

気合い入れて応援してくれねぇか?

目から【星がでる】くらいの、1発を頼むぜ。


……くぅ! 効いたぜ。ありがとよ!

これからも応援してくれよな!!!



挿絵(By みてみん)


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