126 戦後
126 戦後
国連軍と魔王軍の戦争が終結した。
魔王の処刑を望む声が多かったが、
意外にも魔王は、
魔王が統治する国では人気者であった。
奴隷になったと思われていた、
連れ去られていた人達は、
労働こそ強いられていたものの、
しっかりと労働に見合った給金が支払われていた。
そのため、元の生活が貧しかった者ほど
魔王を崇拝していた。
不平不満を言う者ほど
元の生活で不当に利益を搾取していたような
階級の者だけであった。
魔王軍こそ解体されたものの、
魔王と、その側近は魔大陸へと送還され、
貧困と疫病に喘ぐ魔大陸の
開発と支援という役割を与えられた。
ーー邪神封印から一年後、オーリヤマ人間国ーー
旧国連本部だった場所には
特設ステージが設けられていた。
まもなく、終戦記念日ライブが始まる。
たくさんの人が準備に大忙しである。
エルが開発した魔法具【辺津鏡〈へきつかがみ〉】
により、沖津鏡に写した映像は返津鏡に転送され、
遠く離れた場所でも観られるようになった。
ライブ会場には沖津鏡が設置されている。
時間となり、ステージに現れた
歌や楽器のスキルを持つメンバーと、
レイカが選抜した女の子メンバーが並ぶ。
英雄の冒険に彩りを添えたとされた、
クルムの持ち歌が披露される。
ギターを弾くフレームアイ。
ベースを弾くアカマル。
ドラムを叩くゴリアシ。
トランペットのような金管楽器を
吹奏するヘンゼル。
ギャラルホルンを吹奏するユイ。
竪琴を奏でるアルベルト。
ヨーリーが神楽笛で作り出した泡は弾け、
様々な打楽器の音を奏でる。
ユイによる反重力で、物が宙に浮く演出と、
ステージが爆発するような、
ちまきによる炎の演出が観客を盛り上げる
ステージで歌う面々の、センターはクルム。
ソナ、ともっちょ、アローヒがクルムの
左右に配置され歌う。
ダンサーとして踊るレスベラ、レイカ、
ほえほえ、うまーる、スプライト、イカリング。
イカリングが邪神戦で魅せた動きは、
〈銃乱射ダンス〉となり、バズってしまったようだ。
ダンスを嗜まないイカリングであったが、
ノリノリでパフォーマンスをしている。
イカリングの部下である、
冒険者ギルド・ドワーフ支所
の職員たちは売店で模造銃を販売している。
大盛況である。
レスベラが空中を駆け上がり
体操選手のような
大ジャンプからの回転をキメると
観客の興奮は最高潮になる。
観客席最前列に陣取るエル、マヌル、ナーガ、
オニオはステージ熱い声援を送る。
貴賓席に座るエッジとフロ。
ノリノリで踊るフロの謎ダンスも
観客をおおいに盛り上げる。
エッジは立ち上がり、目を細め姿勢を正し敬礼し
平和をもたらした盟友に感謝の意を表する。
ステージが見えるアイスクリームの売店では
酒を呑みながらアイスクリームを売るヨシビトと
ゼルファの姿があった。
ステージに夢中の2人は仕事が手につかず、
長蛇の列ができた売店の最後尾がアイスクリームを
手にできるのは、数時間後になりそうだ。
ーー人間国・王都ケンチョー執務室ーー
仕事を放棄して辺津鏡の前に磔になる
マーボー、オレダ王、キレイン、ロカフィル。
仕事を放棄する面々に頭を抱えるタスクも、
オレダ王の背後の窓ガラスに映り込んだ
辺津鏡の映像をチラ見している。
ーー森の薬屋ーー
エルフの薬師老夫婦・セイジとクラリが
辺津鏡を穏やかな笑顔で見守る。
ハルは兄である元魔王による、魔大陸支援の旅に同行した。ここで得た薬学を活かすという、
自分の道を見つけたのであった。
ーーうまーるの故郷・星舞村ーー
田んぼでの仕事を放り投げ
ポケットサイズの辺津鏡に食い入るように
見入る村長・アキラ。
周りの村人は灌漑工事に精を出す。
いつかまた、夜空を舞う蛍でいっぱいの風景を
作り出す、という理念のもと、
村人たちは精力的に働いていた。
アキラとトモシチはクルムの雨により
息を吹き返していた。
年齢も奇跡的に、玉手箱を使う前に戻っていた。
ーー双子姉妹の故郷・タカキターー
辺津鏡が村の酒場に置かれ、
大勢の人が集まっている。
桃色濁り酒を呑みながら、頭を抱えるヒロミチ。
「嫁の貰い手が……。」
とブツブツ呟いている。
武器職人・ゴンと、酒場のマスター・くっきーは
レスベラとクルムがアップになると
大興奮している。
ーー蓬莱村ーー
旅館〈まるよし〉の
宴会場に設置された辺津鏡に大勢の
パンダ獣人が集まる。
ぽちぽちとユミィも仕事を放棄し、鏡に見入る。
この村でも、村を救った英雄、うまーる、
レスベラ、クルムは大人気である。
ーー竜宮村ーー
村の広場に置かれた辺津鏡の前には
人集りが出来ている。
この村でも、村を救った英雄の3人は
大人気であった。
特等席で観るのは、少女・たこわさび。
目をキラキラさせて観ている
横で観ている母親のミサオは、
旦那と村長の位牌を抱きながら映像見て
涙を流す。
漁師のフィロも仕事を投げ出し大興奮である。
皆、ウニを片手に
酒を飲みながら応援している。
ーーマタガワ村〈旧龍神村〉ーー
村長の家に設置された辺津鏡に集まる人々。
村長のトモシチが大興奮で踊り出す。
村は現在、
高台に移設している真っ最中のようだ。
新しい村の中央には
繊維工場も建設されている。
生ハムをつまみながら、
酒を酌み交わしドンチャン騒ぎをしている。
村を救った3人がアップになると大歓声が沸く。
ーーエルフの森ーー
「興味が無い」と、参加を断った
こまちゅと人型ゼットが寄り添い、
城で辺津鏡を観ている。
重なった手には“4つの薔薇の花”があしらわれた
ルビーが付いた指輪が光る。
ーー氷の大陸・スカディ国ウラバンーー
謎の大地震により大災害に見舞われた
氷の大陸。
この日、人々は復興作業の手を止め、
広場に設置された辺津鏡の前で宴を開く。
特産となったアイスクリームを片手に、
ほえほえやエルフ族、3人娘を応援している。
アイスクリームはライブ会場に出店した
出店でも飛ぶように売れ、
世界的な大ヒットとなった。
ーードワーフ国・ネホンマツーー
辺津鏡は改造され大型化され、
王城前広場に設置されている。
食い入るように見入るオヤジ3人。
ムラ「下から見たらこれ、
パンツ
見えるんじゃねえか?」
斜め下から覗き込むムラ
カズチョン「よし、この娘の色は何色か
賭けようぜ。」
ヨルグ「黒。」
エミーに殴られる3人
アリーは呆れ、溜め息をつく。
その様子を笑って見ているヒミカ。
ーー人魚国アクアマリンーー
王代理のキムスケと護衛アッチ、
文官として働く、りおんとアルベルトが
王城前広場に設置された鏡の前に張り付く。
ヨーリーやソナ、ともっちょが
アップになると大歓声が沸く。
ーー人魚国ナミノエーー
領主の館前に設置された辺津鏡の前には人だかりができている。
ぱとかは前領主の位牌を抱きながら
鏡を見ている。
2人の娘の姿が映ると、涙を流し感激している。
ーーハルジオン公国〈旧魔大陸〉ーー
小さな集落が点在していた魔大陸は
ハルジオン公国という一つの国となった。
元魔王・マハルポージャの指揮で
ダムや下水道の整備が進められていた。
汗を流し働く、熊、カバ、キリン、ゾウ、
ヘラジカの獣人や、元死剣のメンバーたち。
農業の指揮をとるキボンヌと、汗を流す元兵隊。
設計や政治に追われる、元文官たち。
施療院に設置された辺津鏡に食い入るように
見入る、ハルとヴィッチ、クレメンス。
仕事を放棄する部下に溜め息をつき、
頭を抱えるギリー。
ーーチュートリ村ーー
ここはヌルとナナの故郷である。
ナナは女神の恩赦により、封印スキルなどの
勇者のチカラを放棄して、新たに料理スキルなどの
生活系スキルをもらっていた。
ナナはもう、以前のような攻撃魔法は使えない。
村に戻ったナナは3ヶ月前に出産し、
子育てをしていた。
そんなナナの家を目指す、
十数人の野伏りのような男たち。
「あそこだぜ。間違いねえ。
たんまり金を溜め込んで、
いい暮らししてんだろうよ。」
「許せねえな。俺たちは仕事が無くなって、
こんな生活してんのによ。」
戦争が無くなり、武芸で身を立てていた者たちが
失業者となり溢れていた。
盗賊のような生活を送る者が激増していた。
光があればまた、闇があるのである。
終戦記念日を恨んだ、近隣の野伏が
噂を聞きつけ、ナナの家に押し入った。
赤子を抱くナナの前に立ち、
賊を威嚇するナナの父親。
父親「ナナ! 逃げろ!!
なんだお前達は!!
何の恨みがある!」
盗賊「お前らのせいでよお、俺たち
金に困ってんだよ。
金を出せよ、英雄様。
たんまり貰ったんだろ?
王様からよお。」
父親「そんなものは無い!
報酬は復興に充てるようにお願いし、断った。
ここには無い!
ぐあっ!!」
ナナの父親は斬られ、倒れた。
盗賊「コイツはいいか。
女は楽しんだ後に売るか。
ガキは金になるか?
まぁいい、早く金を出せ。
ナナは、動かなくなった父親に
必死に声をかける。
床が父親の血で染まる。
ナナ「お父さん!
何するのよ!!
……やめてよ、助けて……。ヌル!」