125 希望のチカラ
125 希望のチカラ
「ポンゲエエエエエエェェェェェェェ」
ナナ、レスベラ、クルム、うまーるが
懐かしい鳥の鳴き声を察知する。
共に旅をし、最近は行方不明であった
若草色の小鳥“ずんだ”が現れ、ナナの肩に乗る
ナナ「ずんちゃん!?」
うまーる「元気そうで、よかったんだよ!」
レスベラ「どこ行ってたんだよ!」
クルム「このタイミング。まさかね……。」
不思議な何かを感じたナナは両手を差し出す。
ずんだがナナの肩から、掌へ飛びうつる。
ナナの浄化の光で、“ずんだ”が光り輝き、
巨大な光の柱となる。
光の柱は、1人の女の姿となった。
若草色の髪、貝紫色のキトンを身に纏う、
邪神とほぼ同じ、
体長40メートルほどの巨体である。
邪神「出たな女神め。
姿を見せぬから、あのとき
力尽きて死んだものかと思うたわ。
今度こそ、この手でくびり殺してやるわ。」
女神「みんな驚いたかしら。私は女神。
遅くなってゴメンねー。
色々あって疲れちゃってね。
小鳥の中で休んでたの。
ワケあって短い時間しか戦えないんだけど、
今から邪神をシバクよー!!」
女神は魔法を使うと、レオタードのような
服装になった。
さらに女神は魔法を使う。
土や岩がせり出し、草の蔦が伸び、
邪神を囲む特設リングが作られた。
リングに颯爽と飛び込む女神。
女神は更に魔法を使うと、2人に分裂した。
女神「人間は面白いわね。
色々と面白い魔法を見せてもらったわ。
人の想像力は素敵ね。
そんな彼らの未来は壊させない!」
分裂した女神を見た邪神が驚き、うろたえる。
邪神「なっ!? おのれ、卑怯な!』
女神は走り出し、
蹴りやラリアットを邪神に浴びせる。
いきなり始まったプロレスに、唖然とする人々。
女神が邪神にスリーパーホールドをキメる。
もう1人の女神は観客を煽る
女神「ほら黙って観てないで応援しなさい!
タオルぶん回して!!」
「お姉ちゃんがんばれー!!」
エルが大声で応援する。
「がんばえー!!」
たこわさびが続く。
応援し始めた子供達を見て、皆が声援を送る。
「いけえええー!」
「やっちまえー!」
「めっがっみ! エイエイオー!」
「おっ! それいいな! みんな続けー!!」
「女神、エイエイオー!」
「女神、エイエイオー!!」
「女神、エイエイオー!!!」
次第に纏まり始める観客たち。
その大合唱が大きなうねりとなる。
女神が邪神に、ツープラトンや
ホイップ&ラリアットなどの
タッグ技を次々と決めていく。
女神「応援が足りないよ!!
アンタら、もっと希望のチカラを
よこしなさい!!」
ナナはポーチの中の石の首飾りと石鉢を
取り出し、眺める。
ナナ「やっぱり……。魔王はハルさんのお兄さん。
そして、この陶器のような入れ物に
入っているのは、この気配は……。
ギリー様……。
ヌルが入れたのね。
みなさん、聞いてください!
魔王さんを解放しようと思います。
味方になってもらいましょう!」
こまちゅ「何を!?」
レイカ「マ?」
オレダ王「ナナ君。
キミの考えをもっと詳しく聞かせてくれ。」
ナナ「魔王さんが絶望に堕ちたのは、
おそらく妹のハルさんと
引き裂かれたのが原因じゃないかと
思うんです。
ハルさんは生きている。
もう一度会える、となったら、
きっと、すごい希望のチカラに
なると思うんです。」
レスベラ「いいんじゃないか?
もう邪神の指輪はないんだし。
また暴れたら、
そんときはアタシがぶっ倒すよ。」
クルム「まったくアンタは。
責任持って勝ちなさいよ。」
「あのー。ここはどこですか?
この騒ぎは一体……。」
崩れた魔王城の方から、
絨毯を体に巻いた女が現れた。
「誰?」
「なんで裸なんだ?」
という空気の中、その女を知る者がいた。
オレダ王「ヴィッチか?
そうだな? 生きていたのだな……。」
オレダ王は涙を流し、ヴィッチを抱きしめる。
ヴィッチ「王様! お久しぶりでございます。」
いきなりオレダ王に抱きしめられたヴィッチは
驚き、慌てふためる。
ヴィッチを知る、もう1人の男タスクが
解説を始める。
タスク「彼女の名はヴィッチ。
ギリーと同郷で共に
魔王討伐の旅に出た聖女だ。
死んだと思っておったが、
捕虜となり、生きておったか?
なんにせよ、よかった。」
ナナ「ギリー様も解放しましょう。
きっとギリー様が寝返ったのは、
ヴィッチ様が人質だったからでは
ないでしょうか?」
クルムとレスベラが顔をしかめる。
レスベラ「アイツもかぁ……。」
クルム「まぁ、もし暴れ出したら
皆でフルボッコね。」
皆の了承を得たナナは、
缶と御石鉢に向かい話しかける。
ナナ「魔王様。ギリー様。
ハルさんとヴィッチさんは無事です。
元気です。
大事な人と、これから共に歩む世界を
切り拓くためチカラを貸してください。
お願いします。」
ナナはフタを開けた。
煙とともに姿を現す、魔王とギリー。
ギリーは特に驚いている。
ギリー「何故だ!? 死者転生が解除されて!?
その石鉢は、まさかイムの御石鉢なのか。
解呪のチカラか……。」
ヴィッチ「ギリーくん? ギリーくん!
無事だったんだね。」
ヴィッチがギリーを抱きしめる。
ギリーは涙を流す。
ギリー「ヴィッチ! そんな……。
何をしても目覚めなかったのに……。
こんな奇跡が……。」
ヴィッチは、ヴァイトス敗北後に崩壊した
城の影響で、クルムの雨に晒された。
全てを治すクルムの雨により、
植物状態から目覚め、
意識を取り戻したのであった。
泣き崩れる魔王と、ギリー。
手を合わせ祈る2人。
2人の希望のチカラが女神に吸収される。
もはやボコボコになった邪神をリングに放置し、
女神は光となってナナの体に入り込む。
女神がナナに話しかける。
女神「ナナちゃん。
邪神の指輪に邪神を封印して。」
ナナ「女神様。私のスキルでは、
あんなに大きい人は無理です。」
女神「私がいるから、大丈夫。さぁ。」
ナナは転がる魔王の左腕から指輪を外し、
握りしめ魔力を込め祈る。
邪神が、まるで埃を吸う掃除機に
吸われるように、
また煙となり指輪に吸い込まれる。
ナナは邪神を指輪に封印した。
女神は力を使い果たし、ナナに中から消滅した。
チカラが抜けたナナは、
ストンと地面にへたり込む。
クルム「まだよ。まだ終わりじゃない。
その指輪を、コレに。」
レスベラ「そうだな。
このために作ったんだもんナ。」
うまーる「そうなんだよ。
これでキレイキレイになるんだよ?」
クルムはイムの御石鉢をナナに差し出す。
ナナはイムの御石鉢に指輪を入れ、フタをした。
イムの御石鉢に宿る、最強の浄化のチカラが、
邪神が封印された指輪に作用する。
ボフッ
一瞬、石鉢のフタが持ち上がり、
黒い煙のようなものが吹き出した。
ナナ「これで、終わったんですね。
ヌル、見てる? ついにやったよ。
あなたが命を賭けて成し遂げたんだよ。」
ナナはイムの御石鉢を抱え泣き出した。
オレダ王が、肩を震わせ泣く
ナナの肩に手を置き、労う。
オレダ王「ナナ君。よくやってくれた。
さぁ帰ろう。」