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【台本版】魔王の缶詰()の作り方  作者: ジータ
最終章 最終決戦
120/138

120 絶望を穿つ希望の星/魔を統べる王

120 絶望を穿つ希望の星/魔を統べる王



ユイ「ソナ……。アンタなら……。」


 ユイは力尽き、手足のチカラが抜け、

ダラリと垂れ下がる。

 ユイを投げ捨てるディエヌ。

 涙を流しながら絶叫するソナ。

ソナの声に呼応するように、

ソナが持つ聖銀水鏡の水が震え出す。


ソナ「ああああああああ!!!


  ……許さない。よくも、みんなを……。」


 次々とディエヌにより倒されていく、

仲間たちを目の当たりにしたソナがブチギレた。

 ソナは涙を流し怒りに打ち震える。

ソナから魔力が溢れ出し、

その魔力が雷へと変わり、ソナの体表に帯電する。

ソナが持つ水鏡に張られた水が

噴水のように激しく噴き出す。

 ソナの身体が纏う紫電がバチバチと勢いを増す。

 出力が上がるとともに、水が激しく沸騰する。

 激しく沸騰する水鏡を見た

ヨーリーは驚きの声をあげる。


ヨーリー「聖銀噴水鏡の水が!

    この土壇場で会得したというの!?

    セイレーンの古代の女王が使った、

    古代魔法。

    生物相手なら最強の破壊力と言われる、

    防御不可の、見えない雷魔法。

    あの伝説の魔法が。」


 ソナは真っ直ぐディエヌを見据え、

息を吐くように、チカラを調節するように

静かに声を出した。

 水鏡の水は静かに震え出す。

 ソナの声に雷の魔力が乗せられ、

それは真っ直ぐにディエヌの体を通り抜けた。


ディエヌ「何をしておる?

     痛くも痒くもないではないか。」


 ソナの声が段々と大きくなり、

シンクロするように水鏡の水が

噴水のようになり、やがて沸騰を始める。


ソナ「……ァァァアアアア“ア”ア“ア”ア“!!!」

 沸騰する水に呼応するように、

金属のような光沢を放つ

ディエヌの甲殻の表面から火花が出始める。


ディエヌ「なんだこれは?」


 ディエヌの鱗のような皮膚は、やがて

ポップコーンのように弾けはじめる。

 眼球も破裂し、血液が沸騰を始め、

血管や皮膚がボコボコと激しく脈打つ。


ディエヌ「あああああ!!

    がああああああああ!!!」


 ディエヌは、うつ伏せに倒れた。

 やがてディエヌの身体は発火し、

激しく炎上を始める。


ヨーリーが解説を始める。


ヨーリー「あれは、セイレーンの秘術。

    雷魔法【マイクロウェイブ・クラッカー】

    電撃による攻撃ではなく、

    水を急激に熱する魔法らしいわ。

    相手が生物であれば、

    雷に耐性があっても防御不可の

    必殺の魔法と言われてるの。

    

    ただ、あまりに制御が難しいため、

    再現できた人はいなかった、

    幻の魔法よ。」


こまちゅ「乾眠したクマムシの如き

    耐久力が仇をなしたようだな。

    甲殻部分の水分が少ないゆえ

    発火したのであろう。」


 吐血し、膝をつくソナ。

ヨーリーがソナを支え、

ソナの喉に治癒の魔法を施す。


ソナ「……。」


ヨーリー「よく頑張ったわね。喋らないで。

    今治すから。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーー魔王城内・研究所ーー


 1人の年老いた男がディエヌの最期を見ていた。

 男はゴーレム兵や魔法具の開発責任者

知の四天王の最後の1人、ヴァイトスであった。


[知の四天王残る1人は、レイド。

 操作・洗脳系スキルの使い手だった。

 ナミノエでの戦いでヌルたちに敗れ死亡]


ヴァイトス「ディエヌめ。負けおったか。

     ネクロからも通信が来ない。死んだか?

     ワシの最高傑作の出番のようだな。」


 ヴァイトスは魔王城内の仕掛けを作動した。

 魔王城が変形ロボのように形を変え始める。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーー魔王城前ーー


 大きな音をたて動き出す魔王城を見上げる

レスベラ、クルム、うまーる。


レスベラ「なんだよこれ、

    どうやって入るんだよ!?」


クルム「中に入るのは危険ね。

   中に魔王や陰キャがいるとはおもえない。

   うまーる、ヌルの探知をお願い。」


うまーる「これはゴーレムなんだよ?

    わかったんだよ。

    探してみるんだよ。」


 そのとき、異様な禍々しい気配を感じた3人は

同じ方角を見た。

 そこは、コロッセオのような建物であった。

 その建物の隣には、エルフの森の木が

比較にならない程大きな巨木が立っていた。


クルム「……あそこね。」


うまーる「とっても、怖い感じがするんだよ。

    山の猛獣さんとかが

    可愛く見えるほどなんだよ……。」


レスベラ「ヤベェな。ワクワクしてきたぞ。

    あのカバの100倍はヤバくね?」


 レスベラは武者震いしている。

 3人はレスベラの足の怪我のことも忘れ、

走り出す。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーーヌルが飛ばされた空間ーー


ヌル「ある。あるぞ!

   ナナを復活させるための

   遺伝子情報を持つものが。」


 ヌルは女神像の首飾りを取り出し、

包んでいた布を開く。

 女神像には乾いたナナの血液が

たくさん付着していた。


ヌル「まず、青薔薇の縛鎖で魔王を拘束する。

  そこで蘇生魔法で復活したナナが

  魔王を封印する。


  だけど俺は、ナナ復活と引き換えに死ぬ。

  ……仲間が要る。

  ナナに説明し、サポートをする仲間が。


  !?」


 ギリー敗北により空間転移魔法が発動し、

ヌルは強制転移された。


 転移された先は、闘技場のような施設であった。

 椅子に鎮座する男が1人いるのみである。


 赤い髪に竜のような角を生やした青年から

漂う魔力は離れていてもわかるほど、

怒りや悲しみといった負の感情を漂わせていた。

 ヌルは体が重くなったような錯覚を

覚えるほどの重圧を感じ、悟った。

 この男が魔王であると。


魔王「20年だ。ここまで来るのに20年の歳月を

  要した。

  それが数ヶ月でこのザマだ。

  ……ギリーも敗れたようだな。

  貴様が有能であるというのは事実のようだな。


  ギリーの椅子をくれてやってもいい。

  一つだけ生き残れる選択肢をやろう。


  我の配下となれ。」


ヌル「お前の目的は何だ。

  世界をどうしたいんだ?」


魔王「問答無用で封印術を使わない

  ということは、

  ギリーの狙い通り、

  封印術が使えなくなったということか。

  つまり貴様は我を倒す術を持たぬ。

  配下になる以外の選択肢は無い。」


 魔王が放つ魔力が勢いを増す。

 ヌルは身構えるが、まるで肩の上に

誰かが乗っているかのように、

空気の重さが増したように感じるヌル。


ヌル(重い。今、攻撃されたら防げる気がしない。

  なんだ、これは?

  憎いはずの魔王に、

  剣を向けることができない!?)


 ヌルの頭の中に、不思議な声が響く。


(((魔王にスキルを献上することが可能です)))


ヌル(献上? 

  負かした相手からスキルを手に入れていたが、

  その逆ができるということか。 

  それなら!!)


  「スキル【魔王の手先】を魔王に献上する!」


 ヌルの体が、憑き物が剥がれたように軽くなる。

 ヌルは剣を抜き、構える。


魔王「それが答えか。望み通り死ぬがよい。」


 魔王が立ち上がる。ドス黒い魔力が迸る。


 ヌルは再び、体が重くなり膝をつく。

 杖のように、剣の切先を地に突き立てる。


ヌル「これか! 金縛りというのは!」


 魔王は細身の剣を抜き、軽快にステップを踏む。

 魔王は地を蹴り、真っ直ぐにヌルを突いた。


ヌル「動けない! マズい!」


 しかし魔王の剣は空を斬る。


魔王「我の剣を初見で躱しただと!? 

  いや、奴は動いていない。 

  そうか。地面を動かしたか。」


 ヌルは地に刺した剣から魔力を地中に流し、

自分と魔王を動かし、魔王の必殺の一撃を凌いだ。


ヌル「くらえ! 

  これが、やり直した40年の重みだ!

  今日俺は、お前に奪われた

  全ての物を取り戻す!!」


 ヌルは地中に流した魔力で

土の巨大な腕を創り出す。

 その拳が魔王に向かう。

 魔王は避けるべく動こうとするが、

自身の足の異変に気づく。

 魔王の足首が

地面から伸びた小さな手によりガッチリ掴まれた。

 巨大な土の拳が魔王を叩き潰す。

ヌルは次々と土の手を創り出し、

モグラ叩きのように魔王を打ちのめす。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ーー魔王城前広場ーー


 大混戦の戦場が一瞬で鎮まりかえった。

 魔王城が変形した巨大ゴーレムが

大地を震わせながら歩き出したのだ。


 慌てふためく魔王軍兵は阿鼻叫喚であった。


「退け! 退避だ! 巻き込まれるぞ!」


「ダメだ! 間に合わない!」


 ゴーレムを操縦するヴァイトスは困惑していた。


ヴァイトス「敵と味方の区別がつかぬ。

     まぁよい。1から全て作り直そう。

     兵など全て、

     ゴーレムで良いではないか。

     首謀者さえ討ち取れば、

     妙な魔法でゴーレムを

     停止させられることもあるまい。」


 ゴーレムは腕を地面に突き立て、

まるで除雪車のように戦う者たちを薙ぎ払う。

 蟻の巣を攻め立てる子供のように

戦場を荒らすゴーレム。

 その攻撃は生き残った国連軍の主力たちの

眼前まで迫る。


アローヒ「王族だけでも生きて。」


 アローヒは空間魔法を使い、

1箇所に固まっていた、こまちゅ、レイカ、

ヨーリー、ソナを囲った。


こまちゅ「何をしておる!」


レイカ「やめなさい!!」


 ともっちょが魔法でアッチを強化し、

キムスケとアルベルトは協力し

アッチの槍に雷のチカラを注ぎ込む。

 アッチが地面に槍を突き立てると、

小さな地割れが起き、

4人が入る空間が落ちて収まった。

 スカディ族のヨシビト、ゼルファが

氷の魔法で地割れを覆い隠す。


 前線で戦っていたため、

遅れて駆けつけたアリーとエミー。


アローヒ「ごめんなさい。今からはもう……。」


アリー「問題ない。最後まで戦う。」


エミー「困った娘だよ。」


アリー「母上!! 何を!?」


 エミーはアリーを地割れに押し込み、

自身は漬物石のように乗り、蓋となった。


「ヴァイトス様! これでは我々も!!」

「ギャアアアア!!」

「うわあああああ!!」


 隔離された4人に聴こえてくる、

敵味方の悲鳴と全てを破壊する物音。

 それは阿鼻叫喚という言葉以外に

表現のしようがないものであった。


 直後、こまちゅたちの頭上に

砂嵐のようなものが巻き起こり、

空間隔離が解除された。

 地割れから這い出た4人。

 アリーも、のしかかるエミーが

吹き飛ばされたため外に這い出る。

 5人が見た光景は地獄絵図であった。

 敵味方とも、ほぼ全滅であった。

 それは戦場というよりもはや、

まるで巨大な竜巻が街を押し潰した後のような

天災級の凄惨な状況であった。

 巨大なゴーレムから笑い声が漏れる。


ヴァイトス「ハハハハハハ! やりましたぞ!

     マハル様! 

     この私めが、敵を殲滅しました!!!」


こまちゅ「あの鬼畜め。味方ごと……。」


ヨーリー「ひどい……。」


ソナ「……。」


 ヨーリーは折り重なるように

倒れたアッチたちの亡骸を見つけた。

 皆、アローヒを守るような重なり方をしていた。


レイカ「わたしたちだけ生き残って、

    どうするのよ!」


 放心状態のソナ。

 アリーも、あまりの出来事に膝が折れる。

 生き残った5人も、

魔力は底をつき満身創痍であった。


 その後ろから、

ロバの鳴き声と荷馬車が走る音が鳴り響く。

 振り返る5人が見たのは、

2頭のロバに馬車を引かせる御者、

天才少年・エルの姿であった。

 荷台には、ホルンのような

金管楽器の見た目をした

不思議な形の兵器が積まれていた。


レイカ「エルくん!? 何をしに!?

   ここは危ないよ!」


エル「みんなを助けに来たんだ!

  アイツは僕が倒す!

  みんなで作ったコイツなら、

  アレを倒せるんだ!」


 エルはヌルから聞いた龍神村での話に興味を

持ち、レスベラと、うまーるから

聞き取り調査をしていた。

 興味を持ったのは即席レールガンであった。

 聞き取り調査の後、図面を引き、

ドワーフの工匠達と協力して、

今回の兵器を作り上げていた。

 バッテリーの充電に協力したのは、

うまーるである。

 うまーるにとってエルは唯一〈お姉ちゃん〉

と呼んでくれる嬉しい存在で、

ニッコニコで協力していた。


ヴァイトス「ハハハハハハハハ!

     ぼうや、そんなオモチャを持ち出して、

     なにをするんだい?

     ケガをする前に、おうちに

     帰った方がいいんじゃないかい?」


 そのとき、瓦礫の中から声が響く。


りおん「エル君、あそこを狙って!」


 瓦礫から這い出た、りおんの邪眼から

発せられた一筋の光は、まるでレーザーポインター

のように、ゴーレムの急所を指し示す。


エル「ヌルお兄ちゃんがいた、

  世界のヒーローの話を聞いたんだ。

  拳が飛んでいって殴ったり、

  エネルギー波が出たり、

  腕が伸びたりするんだって。


  僕も、そんなヒーローになるために戦うんだ!

  ルーローさん見ててね。

  これが、僕が未来のために作る、第一号だよ!

 

  超加速電磁砲【綺羅星】

  いっけえええええええ!!!」


 エルがスイッチを入れると、

ホルンのようなグルグル巻きの金管から

弾が発射された。

 あまりの速さに、弾はレーザーのような

光となり、その衝撃で兵器はバラバラになる。

 流れ星が引く光の尾の如く、

ヴァイトスがいる操縦席と核がある部分を貫いた。

 貫いた後も一直線の光となり、

朝焼けの空を駆け抜けた。


 ゴーレムは停止した。

動力を失ったゴーレムは崩壊し、

瓦礫の山となった。


 このときの逸話は、

戦後いつまでも語られることとなった。


 【勇敢な天才少年が放つ希望の星、

 絶望を穿ち未来を切り拓く】




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