119 半年間迷子だったオッサン。実は、【元最強】冒険者剣士でした。
119 半年間迷子だったオッサン。実は、【元最強】冒険者剣士でした。
たこわさび「クルムお姉ちゃんと
約束したんだもん。
前を向いて、上を向いてないと、
おじいちゃんとお父さんが
心配しちゃうから。」
たこわさびは涙を流しながら、
リュックの中のエルを守ろうと抱きしめ、
ネクロを見据える。
ネクロ「そうかい。
じゃあ、今日からは
おじさんたちが可愛がってあげようねぇ。
オイ、その2人を捕えろ。」
ネクロは傀儡となった
マーボーとエッジに命令をする。
エッジの手が、たこわさびが抱えるリュックに
手をかけようとした、そのとき。
ーーお嬢ちゃん。クルムお姉ちゃんとの話、
あとで詳しく聞かせてくれるかなーー
たこわさびを捕えるべく伸びたエッジの手を、
老紳士が木剣で受け止める。
紳士「その前に、この悪そうなオジちゃんたちを
オシオキするから、少し待っててね。」
たこわさび「おじちゃんはだれ?
クルムおねえちゃんを、
しっているの?」
たこわびに問われた老紳士は、
少し考え込んでから答えた。
「おじちゃんはね、そうだね……。
クルムお姉ちゃんの、おじいちゃんだよ」
老紳士を見た群衆の中に、
彼の正体を知るものがいた。
「あれはチャンだ! タカキタのチャンだぞ!」
「あの、チャンか!? 元s級冒険者の!?」
「孫の子育てのため引退したっていう、あの人か。」
老紳士の名はヒロミチ。
レスベラとクルムの育ての親であった。
冒険者登録名は【チャン・マルサト】
木剣で斬れぬものなし、という伝説を持つ、
元最強の冒険者であった。
そのため、本名よりも
通称のチャンのほうが有名なのであった。
この事実をレスベラとクルムに知らない。
2人が冒険者などに興味を持たぬように、
ヒロミチは2人に隠していた。
かねてより腰痛に悩んでいたヒロミチは、
レスベラとクルムの両親殺害事件の後、
2人を育てるために冒険者を引退した。
ヒロミチが願ったのは、
2人の女性としての幸せであった。
護身のために教えた剣術と魔法。
それが2人の人生を変えてしまったことを、
ヒロミチは深く後悔していた。
ヒロミチは流れるような動きで
マーボーとエッジを打ちのめす。
木剣で叩かれたエッジとマーボーが
倒れて動かなくなる。
ネクロ「なっ!? バカな、なぜ動かない!
この始祖の魔王の強力なチカラが
浄化されたというのか!」
ヒロミチ「魔王だと!? ……そうか。貴様が。」
ネクロは右手に魔力を集中する。
ドス黒い魔力が噴出し、そして集まり
大きな鎌へと形を変えてゆく。
ネクロ「聖属性の魔法で浄化したか?
ならばこの死神の大鎌で
木剣ごと叩き斬ってやるわ。」
ヒロミチ「この七星桃剣・真打に斬れぬものなし。
魔法などではない。
悪しきチカラを叩き切っただけのこと。
ぐっ!?」
ヒロミチはネクロに斬りかかろうと
7つの魔石が埋め込まれた木剣を掲げる。
その直後、苦痛で顔をしかめて動けなくなる。
腰に手を当て、うずくまるヒロミチ。
アキラとトモシチがヒロミチの元に駆け寄る。
ヒロミチ「アキやんにトモやんか。離れてくれ。
コイツは命と引き換えにしてでも……。
俺がやる。」
アキラ「共に命を賭けるよ。」
トモシチ「久しぶりにやろうじゃないか。
竜宮のオトやん、コイツらに
殺されたらしい。
弔いだよ!」
ヒロミチ「まったく。頑固な年寄りどもめ。
この魔法具の煙を吸うと1分間だけ、
なりたい年齢に若返る。
1分後に、若返った分の年数だけ
歳をとる。覚悟はいいか?」
アキラ「いいじゃないか。
オトやんの村に、そんな伝承があったな。
クラさんとセイやんが作ったものか?」
トモシチ「やっぱり、あのころだよねぇ。」
ヒロミチ「開けるぞ。」
3人「40年前の、あのころに。」
ネクロ「何をゴチャゴチャと。
老いぼれ3人に何ができる。」
ネクロは大鎌でヒロミチに
斬りかかろうとするも、
ヒロミチが持つ箱から吹き出した煙を警戒し
踏み留まる。
ヒロミチは懐から小箱を取り出し、開いた。
ヒロミチ、アキラ、トモシチが
ヒロミチが持つ小箱から吹き出した煙に包まれる。
煙が晴れると、そこには精悍な青年剣士、
獅子のような顔をしたマッチョな闘士、
美しい青髪の女剣士が立っていた。
年輩の支援スタッフ達が、
その3人の姿を見て涙する。
「間違いない。剣聖チャンに、流星のアキラ。
龍神の巫女・トモだ。
しかも、現役の頃の姿じゃないか。」
「また見られるとは……。」
ネクロ「若返りの魔法か!?
しかし、それほどの魔法。
代償は大きかろう。」
トモシチ「アキやん。
アレをあそこの池に落とせるかい?」
アキラ「お安い御用だ。姫。」
トモシチ「ちょっと! 姫はやめとくれよ!
恥ずかしいじゃないか。」
アキラは激しく帯電した。
次の瞬間、
閃光とともにアキラとネクロの姿が消える。
アキラ「星舞【流星拳】」
空気の壁を叩き割る雷鳴、
視界が真っ白になるほどの眩い閃光と共に
光の尾を引き、天翔る彗星の如き
アキラの正拳突きが
ネクロの腹にめりこむ。
そのままキャンプの背後にあった
池に突っ込む2人。大きな水柱が上がる。
ネクロ「ごぼっ!
なんだこの速さとチカラは!
加えて電撃か! む!?」
池から顔を出すネクロは吐血する。
上がった水柱が龍の形に変わる。
いつの間にかネクロの目の前に立つトモシチが、
超振動ノコギリ【オーラヴ】を池に突き刺す。
ネクロ「この距離を一瞬で!? この女っ!」
トモシチ「水魔法【荒ぶる水龍】」
池の水が巨大な水龍となり、
それはやがて大渦となりネクロを飲み込む。
ネクロは噴水と共に上空に打ち上げられる。
トモシチも噴水とともに打ち上げられ、
ネクロの鎌目がけて斬りあげる。
トモシチ「龍神の舞・昇龍剣」
トモシチが握るオーラヴが
ネクロの漆黒の鎌を粉砕する。
トモシチ「みんな見てるよ。
カッコよくキメなよ。」
噴水の水柱の中から現れたヒロミチが
木剣を振り下ろす。
ヒロミチ「タカキタ流・剣技
【上善如水〈じょうぜんみずのごとし〉】」
七色に輝く・ヒロミチが握る七星桃剣の軌跡が
虹のような煌めきを放つ。
飛んでる蝿を叩き落とすが如く、
池に叩き落とされたネクロは
大きな水飛沫きをあげ、池に沈む。
浮かび上がったネクロは
元の老人の姿に戻っていた。
白目を剥いたネクロは動かない。
池から這い出たヒロミチ、アキラ、
トモシチが倒れ込む。
禁断の魔法が解け、3人の顔が急激に老け込む。
アキラとトモシチは
安らかに眠る寝顔のような表情で動かない。
ヒロミチ「アキやん、ともやん……。
俺だけが生き残ったか。
100歳を過ぎても、
あの2人が嫁に行くまでは
死ねないということか。
……難しいんだよ。
どんなs級クエストより。
ドラゴン討伐より、悪魔退治よりも。
2人のお見合いは……。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー魔王城前広場ーー
異形の怪物となり暴れる、
ディエヌを囲み、戦う国連軍。
雷の魔法攻撃と槍による刺突攻撃を仕掛けるも、
ダメージが通らず反撃に遭い重傷を負う、
セイレーン族のリーダー・キムスケ。
キムスケの部下であり、
鑑定魔法の達人・りおんは
鑑定魔法でディエヌを分析する。
りおん「斬撃、刺突、電撃、氷雪、光線無効。
打撃、炎熱、毒に強耐性。
そんな……。
こいつ、弱点が見当たらない!!」
レイカ「みんな! 離れて!」
風魔法使いのエルフ・レイカと
空間魔法使いのエルフ・アローヒの連携魔法が
ディエヌを真空の空間に閉じ込める。
しかし何事もないように動き続けるディエヌ。
レイカ「なんで普通に動けるのよ……。」
アローヒ「ごめん、レイカちゃん、もう無理……。」
レイカとアローヒは魔力が枯渇気味
だったために、すぐに魔法の威力が落ちてしまう。
ディエヌは空間をぶち破り、外に出てしまう。
キムスケ「りおん、ソナ様を逃がせ。
頼んだぞ。」
ヨーリーの治癒魔法により、
傷が塞がったキムスケが
ディエヌに向かい突撃する。
キムスケの後ろから
魔法矢で援護するアルベルト。
りおんはソナを諭す。
りおん「ソナ様。逃げて下さい。」
ソナ「みんなを置いては……。」
ユイ「ソナ、特訓を思い出しな。
アンタがアレを出来れば倒せるよ。
出来る出来ないじゃない、
やるしかないんだ。
ヨーリー様、私に翼をください。
見た目をセイレーンに。」
覚悟を秘めたユイの表情を見たヨーリーが
ユイの気持ちを汲み取り、真剣に応える。
ヨーリー「……わかったわ。お願いね。」
ヨーリーはユイに魔法をかけ、
ソナと同じ外見にした。
ユイ「さすがヨーリー様です。
ありがとうございます。」
ソナは自分と同じ姿になったユイを見て驚く。
ソナ「ユイちゃん! なにをするつもりなの!?」
ユイ「いいから、アンタは
魔力を集中して準備して。
必ず成功させるのよ。
アレを放てば、必ず勝てるから。
私は信じてる。
ソナなら絶対にできるって。」
ディエヌと切り結ぶ、
キムスケがディエヌの攻撃で再度倒れる。
近接を得意とするヨルグや、鉄壁の守備を誇る
カズチョンも、ディエヌの爪や尾による
嵐のような猛攻に薙ぎ払われていく。
離れたところから狙撃をする
イカリングの銃弾も全く歯が立たない。
後退しながらアルベルトが魔法矢を放つも、
アルベルトも魔力が尽き、
膝を付いたところをディエヌに貫かれてしまう。
アルベルトにトドメを刺そうと襲いかかる、
ディエヌにアリーが斬りかかる。
ディエヌを斬りつける、アリーの剣が折れる。
アリーに向けて、爪を突き立てようとする
ディエヌのアゴが跳ね上がる。
ディエヌの顎をカチ上げる強烈な一撃。
それは負傷し、地面に転がるヨルグが放った、
ロケットアッパーであった。
エルによる改造で、以前は爆薬で手甲を飛ばす
仕様であったものが、バネとワイヤーにより、
使いやすくなっていた。
しかしそのぶん、威力は落ちている。
ディエヌ「この死に損ないめ。」
ヨルグを蹴り飛ばすディエヌ。
アリーは折れた剣で斬りかかろうとするが、
倒れていたカズチョンに足を捕まれ転倒する。
倒れたアリーに爪を振り下ろすディエヌ。
ムラがアリーを突き飛ばし、串刺しとなる。
アリー「父上! 王が兵を庇うなど!」
ムラがディエヌの右腕にしがみつき、叫ぶ。
ムラ「俺は王である前に、父親だぜ。
愛するワイフや子供を守れずして、
民を守れる王になれるかよ!!
それに、かわいい娘を2人も
魔王にくれてやるほど、人間できてねぇよ。
……。作戦通り行くぞ!
イカリン! 損な役回り、すまねェな。」
涙を流すイカリングが
暴発型のペッパーボックスピストルを構える。
カズチョン「姫。お赦しを。」
カズチョンはアリーを放り投げる。
立ちあがろうとするアリーを、
エミーが飛びかかり押さえ込む。
ムラ「やるぞ! みんな伏せろ!」
カズチョンが腹に巻いたダイナマイトを
皆に見せ、親指を立ててニコッと笑う。
ディエヌを後ろから羽交締めにするヨルグ。
カズチョンがディエヌの左腕に飛びつき、
しがみつく。
イカリングが引き金を引くと、銃は暴発し、
まるで散弾銃のように散らばる弾丸が
3人のドワーフの腹にに巻きつけられた
爆弾に当たり起爆し、炸裂する。
ディエヌを中心に大爆発が起きる。
それはクレーターが出来るほどの爆発であった。
クレーターの中心に倒れ込むディエヌ。
その姿は消し飛んだ3人と違い、
原型を留めている。
エミー「そんな……。
あれすら効いてないのかい……。」
絶望と悲しみに打ちひしがれるエミー。
自分の無力さと、父や臣下を失った
悲しみに嗚咽するアリー。
立ちあがろうとするディエヌ。
しかし動きは緩慢である。
今までどんな攻撃をしても
効かなかったディエヌが鼻血を流している。
爆心地にうずくまっていたアッチが立ち上がり、
後ろからディエヌを羽交締めにする。
アッチ「ともっちょ! 俺はどうなってもいい!
やるんだ!!」
ともっちょは全ての魔力を込めて
自身の最強の魔法を放つ。
ともっちょ「歌魔法【潮騒のカタストロフィ】」
それは、とても歌とは言えないような、
耳をつんざく音の衝撃波がディエヌを襲う。
アッチは耳から血を流し、倒れる。
ともっちょも吐血し倒れた。
ディエヌは一瞬よろめくも、倒れない。
頭痛がするのか、頭をおさえるディエヌ。
ディエヌ「リヴァイアサンが使うような、
クリック音か。残念だったな。
人魚族の音魔法は対策済みだ。」
ユイ「爆弾も音も効いてる!
やっぱり、無敵の生物なんかいない!
諦めなければ必ず勝てる!
ぱとか! 援護を!
私がセイレーンの頭首・ソナだ!
喰らいなさい!」
ソナの外見となったユイが走り出し、
ディエヌの目の前でギャラルホルンを吹く。
ディエヌ「懲りずに音攻撃か。」
ディエヌは防御の姿勢をとる。
ユイの演奏により、ディエヌや瓦礫、岩が
反重力のチカラで持ち上がる。
ディエヌ「改造したギャラルホルンか!
この盗人め!」
ぱとかの風魔法で集約されるディエヌと瓦礫。
ギャラルホルンの音色が止まり、
落とされるディエヌ。
ディエヌは岩や瓦礫の下敷きとなる。
ユイ「やったか!?」
瓦礫を撒き散らし、姿を現したディエヌが
ユイに飛びかかり、
ユイの胸を右手の爪で貫くディエヌ。
その光景を見た、ぱとかが
怒りに任せてディエヌに突撃する。
ぱとかはディエヌの左手の爪で胸を貫かれる。
ソナ「ユイちゃん! お母さん!!」
ディエヌ「無駄だ。お前らのような下等生物に
ワシを殺すことはできん。諦めろ。
ワシこそが究極の生物。最強だ。」
ユイ「アンタが最強なら、私の友達はなんなのよ。」
ディエヌ「何を言っておる?」
ユイ「アンタより、
ソナの方が強いって言ってんのよ。」
ディエヌ「お前が、ソナという者ではないのか?」
ユイにかかっている変身魔法が解ける。
ディエヌ「謀ったな! おのれ!」
ディエヌは、左手で串刺しにした
ぱとかを投げ捨て、左手でユイの首を貫いた。
ユイ「ソナ……。アンタなら……。」
ユイは力尽き、手足のチカラが抜け、
ダラリと垂れ下がる。
ユイを投げ捨てるディエヌ。
涙を流しながら絶叫するソナ。
ソナの声に呼応するように、
ソナが持つ聖銀水鏡の水が震え出す。
ソナ「ああああああああ!!!
……許さない。よくも、みんなを……。」
次々とディエヌにより倒されていく、
仲間たちを目の当たりにしたソナがブチギレた。
ソナは涙を流し怒りに打ち震える。
ソナから魔力が溢れ出し、
その魔力が雷へと変わり、ソナの体表に帯電する。
ソナが持つ水鏡に張られた水が
噴水のように激しく噴き出す。
ソナの身体が纏う紫電がバチバチと勢いを増す。
出力が上がるとともに、水が激しく沸騰する。
激しく沸騰する水鏡を見た
ヨーリーは驚きの声をあげる。
ヨーリー「聖銀噴水鏡の水が!
この土壇場で会得したというの!?
セイレーンの古代の女王が使った、
古代魔法。
生物相手なら最強の破壊力と言われる、
防御不可の、見えない雷魔法。
あの伝説の魔法が。」