117 俺の夢
117 俺の夢
ーー地上・魔王城前広場ーー
改造生物の軍を殲滅した国連陸軍。
魔王空軍を殲滅した空の部隊も降下し、
合流したところに、また足音が大地を響かせる。
空から魔王を直接急襲しないのは、
殺せない魔王の封印作戦を
邪魔しないためであった。
国連軍へ向けて進軍するのは
屈強な竜人族、鬼人族、獣人、
そして隷属の魔獣が主体の魔王軍本隊であった。
先頭の竜人種の将が吠える。
「ゴーレムもキメラも役に立たなかった!
我らこそが、マハル様の真の兵である!
マハル様に刃向かうものには死の鉄槌を!!
降伏するものには慈悲を!!
新世界は目の前だ!!」
「「「ウオオオオオオ!!!」」」
マーボー「来やがったぜ。
ケンチョーをやったのはコイツらだな。
借りを返すぜ。ピュイ♪
行くぞおおおおお!!」
国連軍を率いる、
マーボーの号令で国連軍も進軍を開始する。
笛の音が鳴り響き、
突如、空から大量の泡が降り注ぐ。
魔王軍の頭上から降り注ぐ泡は
着弾と同時に爆発を起こす。
国連軍の頭上から降り注ぐ泡は、
兵の体に当たり、
弾けると治癒や疲労回復の効果を付与した。
国連軍の後方に見えたのは、
キムスケに支えられながらも神楽笛を吹く
ヨーリーと、歌魔法で泡魔法を強化する、
ともっちょ、ソナ、ユイの姿があった。
魔王海軍を打破した、
人魚とセイレーンの連合軍であった。
こまちゅ「あの糞ビッチ。
どうやら生きていたようだな。」
レイカ「またそういうこと言う!
ヨーちんアリガトネ⭐︎
やっぱりコレいいわぁ。
イカ臭野郎は肩付いたんだね。
あのね……。」
レイカの表情が曇り、口が重たくなる。
レイカは涙を流しながら、
フレームアイとゴリアシの戦死を
ヨーリーに伝えた。
ヨーリーは一瞬俯き、また顔を起こす。
ヨーリーは笑顔でレイカに語りかける。
顔は笑っているが、目は赤い。
ヨーリー「こまちんの言う通り、
彼らの死を無駄にしないため、
前に進みましょ。
まったく! また女を泣かせるんだから!
ホントにアイツラは……。」
キムスケの肩を借りて歩く、
ヨーリーの姿を見たレイカは、
その変化にうすうす気付く。
レイカ「アレ?
キムちんとそんな仲良かったっけ?」
ヨーリー「お友達になったのヨ♪」
キムスケ「共通の敵を前に
手を組んだだけのこと……。」
照れくさそうなキムスケが横を向く。
そんなやりとりを断つように、
こまちゅが真剣な様子で口を開く。
こまちゅ「敵は屈強な竜人と鬼人と獣人。
それと飼い慣らした魔獣か。
接近戦では勝ち目が薄いぞ。
隊列を組むように指示を。」
マーボー「そうだな。ん?」
「マーボー出てこい! 俺と勝負しろ!」
ヨーリーによる爆撃の粉塵が晴れる。
魔王軍は大盾を空に向けて並べることにより、
シェルターのようにし、爆撃を耐えていた。
魔王軍最前線にいる、片手斧を肩に担いだ
大柄な熊の獣人が大声を張り上げる。
毛色は灰色がかった茶色。
グリズリーのような毛色である。
全身を重鎧で身を包み、右手に斧、
左手にメリケンを嵌めている。
マーボー「指名か。
ちょっと行ってくるぜ。ピュイ♪」
マーボーと熊が対峙する。
熊「武の四天王、クマーだ。
覚えているか?
世界一武闘会でお前に敗れた者だ。
世界一の武人になる。という俺の目標は、
お前のせいで1回戦で絶たれた。」
マーボー「覚えてねえよ。
決勝の相手も覚えてねぇのによ。
ガハハハハ! ピュイ♪」
クマー「これから刻み込んでやるよ。
世界一の武人のチカラをな!」
マーボー「武の四天王ってアレか。
カバとかキリンの。たしかに強かったな。
いいぜ、かかってこいよ。ピュイ♪」
こまちゅ「一騎打ちの提案。
敵の目的は時間稼ぎか。
あの4人は上手くやっているようだな。
左右に分かれ攻めるぞ。」
国連軍は左右に分かれ攻め上がる。
それを見た魔王軍も左右に分かれ迎撃する。
マーボーとクマーを丸く囲み、
まるで格闘技の試合と観客のような構図になる。
クマーが踏み込み、斧を振り降ろす。
マーボーは竹槍カグヤで斧を受け止める。
マーボーの足が地面にめり込むほどの
重い一撃だ。
クマーは左手のメリケンで
斧の刃の反対側についている槌の部分を殴った。
斧が急加速し、マーボーが吹き飛び、
味方の集団に突っ込んだ。
クマー「俺の魔法具【金太郎】は強く握ると
重さが増し、槌部分に衝撃を加えると
加速する。
知ってるか?
パワーってのはな、重さ×速さなんだとよ。
つまり、俺が最強ってことだ。」
マーボーが起き上がる。
マーボー「面白えモン持ってんな。
ただ、言ってることは違うぜ。
チカラこそパワーだ。
それに重さってのは
鉄の重さとかじゃねえだろ。
命の重みだ。覚悟の重みだよ。」
マーボーは離れた位置から突きを放つ。
クマーは斧で受け、また槌を叩く。
マーボーのカグヤが弾かれる。
クマーは間合いを詰め、また斧を振り下ろす。
マーボーは斧を受け止める。
加速した斧がマーボーを吹き飛ばす。
クマーによる一方的な展開となる。
何度も吹き飛ばされ、ついにマーボーは
咥えていた竹笛を落としてしまう。
パキッ
クマーが竹笛を踏み潰す。
クマー「ふざけやがって。
こんなもの咥えながら真剣勝負かよ。
俺は強くなった。お前に勝つ為にな。
勝負あったな。死ね。」
マーボー「オイ。2番目の娘からの贈り物に
何してくれてんだよ。」
マーボーが怒り、凄まじい殺気を放つ。
クマーは本能で危険を察知し、身構える。
マーボー「全力でガードしねえと、死ぬぞ。」
マーボーが起き上がり、踏み込み、突きを放つ。
マーボー「俺流槍術奥義・俺の夢
[月まで届け【むすめと手を繋ぐ】]」
マーボーの加速して伸びる突きを
斧で受けるクマー。
あまりの突きの重さに両手で斧を握る。
クマー「バカな! なんだこの重さと加速度は!!」
マーボーの槍がグングン伸び、
クマーの巨大を持ち上げてもなお加速する。
クマーの体は魔王城最上階の
壁にめりこみ、止まった。
クマーは白目を剥き、動かない。
その様子を後方支援として、
怪我人の治療にあたっていたフロが偶然見ていた。
フロの立ち位置からちょうど、
月と重なる魔王城最上階。
月とマーボーを結ぶ、竹槍カグヤ。
フロ「ほにょ〜。仲良しだにょ〜。」
フロにだけは見えていた。
月と重なる、
天国にいるマーボーの娘・カグヤと、
マーボーが手を繋ぐ姿が。
マーボー「熊野郎さ、次は俺と"戦う為"
じゃなくてよ、
俺と【一緒に未来のために】
戦うために強くなろうぜ。
お前、目標間違ってるよ。
もっと強くなれるぜ。
しかし、月までクマのヌイグルミを
届けたかったが
まだまだパワーが足りねえな。
俺も、もっと強くならねえとな。
スヒー♪」
マーボーは割れた竹笛を咥えると、
仰向けに倒れ込んだ。
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ーー巨大な鉄格子がある屋内ーー
バレーボールのコートほどの広さがある
巨大な鉄格子に囲まれた檻の中。
うまーるが飛ばされた空間である。
幼い頃に魔王軍の奴隷として拐われ改造された
うまーるの兄・マヌルが巨大な獅子の魔獣と化して
うまーるに襲いかかる。
マヌルは鋭利な爪を、
うまーるに向け振りかざす。
目を瞑り、頭を抱え、
覚悟を決めて受け入れようとする、うまーる。
うまーる「お兄ちゃんには攻撃できないんだよ。
みんな、ごめんねなんだよ。」
マヌルは思い出す。
幼い頃に見た光景を。
クマに襲われて、頭を抱えてしゃがみ込む、
妹・うまーるの姿を。
マヌル「ガアアアアアアアアア」
マヌルの攻撃はギリギリで逸れて床を砕く。
マヌルは激しく混乱し、暴れ始める。
辺りに放電を撒き散らし、悶えるマヌル。
隷属の指輪による、敵を殺せという命令。
しかし指輪を嵌め、術をかけたレイドは
死亡しているため、術の効力は弱まり、
暴れる魔獣と化したマヌルは幽閉されていた。
指輪から発せられる“殺せ”と言う命令と、
殺してはいけない
という自我との間に揺れるマヌル。
マヌルは自身の両脚に爪を突き立てる。
そして自分の胸にも爪を突き立て、
首を掻き切る。
その後、両の手首を噛み砕く。
血塗れで仰向けに倒れるマヌル。
うまーる「お兄ちゃん! 操作と戦ってるんだね!
でも、これじゃ死んじゃうんだよ!」
うまーるが駆け寄る。
うまーるは考える。
この状況を打破する術を。
うまーるは首に巻いた品々物之比礼を外して、
マヌルの頭に被せる。
少しだけ正気を取り戻したマヌルが話し始める。
マヌル「うまーるか。大きくなったな。
すまない、情けない兄を許してくれ。
こうでもしないと、
お前を傷つけてしまいそうで……。
……頼みがある。
トドメを刺してくれないか。
この指輪を壊せば死ねるはずだ。
俺が俺でいられるままで死にたい。
最期に兄でいさせてくれないか。」
うまーる「お兄ちゃん!
必ず助けるんだよ。
もう少し我慢してね。」
うまーるは【ローレンツショット・星】を使い
マヌルに嵌められた指輪を破壊した。
隷属の指輪破壊のペナルティ“死の呪い”が
発動し、マヌルに襲いかかる。
マヌル「グアアアアアアアアア!!
……あ、ありがとう。
辛いことをさせてごめんな。
幸せになれよ、うまーる……。」
マヌルの瞳が閉じ、一筋の涙が溢れた。