112 盟友の責務/女に刺されて死ぬ覚悟はできていた
112 盟友の責務/女に刺されて死ぬ覚悟はできていた
ーー地上・魔王城前広場ーー
スカディたちの魔法により、
六角の障壁の中は氷の世界と化していた。
外壁が崩れ氷山が崩落し、
氷山の中から現れた
ほえほえが倒れ込む。
数万の蟻の大群は凍結され、
氷像のようになっている。
ほえほえが上体を起こし、友軍に向けてガッツポーズを決める。
その様子を見た
エルフとスカディの軍から歓声が沸く。
突如、ほえほえの頭上に宙に浮く
不気味な鉄の棺と男が現れた。
男は中世の処刑人のような服装だ。
首から頭まで覆う目出しとんがり帽子。
黒い軍服のような服に
ハルバートのような斧を持つ。
鉄の棺の扉が観音開きで開き
まるでプレデターが捕食をするかのように
ほえほえを捕らえた。
「ずいぶん派手にやってくれましたねぇ。
相応の罰を与えましょう。イイ声で鳴いておくれ。
モード・【ファラリスの雄牛】」
鉄の棺が形を変え、
真鍮のような輝きの牛の銅像になった。
牛の銅像は熱を放ち、周囲の空気が歪む。
「ほえほえ様!」
「ほえほえ殿を救え!!」
スカディやエルフの兵が、
ほえほえの危機に立ち上がり、氷の地に踏み込む。
氷の大地が割れ、蟻兵の死体を吹き飛ばし
巨躯の女王蟻が姿を現す。
兵を盾にして氷魔法に耐えたようだ。
女王「危なかったねぇ。
私の子供たちが全滅じゃないか。
まぁ私が生きてさえいれば
また生み出せるけどね。
ゲシュタルト、その女を早く焼いておくれ。
多くの兵を素早く生み出すためには
魔力が要る。」
ゲシュタルトと呼ばれた
処刑人は笑いながら話す。
ゲシュタルト「焦るな。
じっくり楽しもうではないか。
罪人の断末魔を。
この処刑具はな、中の罪人の
断末魔の叫びを、雄牛の鳴き声に
変えるという趣向を楽しむ物だ。
せっかくだ、仲間の罪人どもにも
聞かせてやろう。」
ゲシュタルトは風の魔法で
牛の銅像に拡声を付与する
女王「なんでもいいけど、早くしておくれよ。
ギリー様に怒られるからね。」
女王が地面に手をつくと、地面に魔法陣が現れ
魔法陣から蟻兵が生み出される。
新たに生み出された蟻兵と、
ほえほえを救助に向かった
スカディとエルフの兵が全面衝突する。
牛の銅像から、ほえほえの声が流れる。
ほえほえ「エルフを裏切ってしまったあの日から、
ずっと悔やんでいた……。
……皆は簡単に許してくれたが、
ずっと贖罪の機会を伺っていた。
……女王を……討ち漏らしたのは無念だ。
しかし……兵はほぼ壊滅できたと思う……。
私は……、
……盟友……たりうる……責務を
……果たせたで……あろう……か……。」
灼熱に耐える苦しそうな声のほえほえの声は
次第に小さくなり、やがて途絶えた。
ゲシュタルト「おい!
そんなツマラネー演説
要らねえんだよ!
牛みたいな悲鳴を聞かせろよな!
それにな、今な、どんどん新しい兵が
増産されてるぞ。
無駄死にだったな!
ねえ、今どんな気持ち?
ねえねえ? どんな気持ち?
……黙っちまったな。もう死んだか?
ツマラネー女だなオイッ!」
ゲシュタルトは牛の銅像に蹴りを入れる。
もう、ほえほえの声は聴こえない。
ゲシュタルトは銅像を開き、
黒コゲになったほえほえを吐き捨てた。
女王「焼き過ぎだよ!!
コレじゃマズくて食えやしないよ!」
「ほえほえ様ぁ!!」
国連軍からは悲鳴にも似た、
ほえほえを悼む声があがる。
ゲシュタルト「さて、次の罪人は……。むっ!」
ゲシュタルトの頭上から舞い降りた
双剣の剣士がゲシュタルトに斬りかかる
ゲシュタルトは男の剣をハルバートで受ける
斬りかかった男は
オーリヤマの英雄・騎士団長エッジであった。
ほえほえの危機を察知したエッジは
気球から飛び降りたのである。
エッジは亡きルーローの双剣、
【莫耶】と【干将】を駆り、参戦していた。
上空の戦いをほぼ制圧したドワーフ軍は
地上に応援を送り込んだ。
エッジのあと時間をおいて
4銃士も落下傘を使い、降り立つ。
エッジ「……間に合わなかった。
ほえほえ殿の仇を取るぞ!
皆の者、断罪の剣に祈りを!」
エッジは双剣を握りしめ、
地を蹴りゲシュタルトに斬りかかる。
エッジが腰に差した断罪の剣が
勇士たちの祈りにより光を帯びる。
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ーー氷の大陸に似た大地ーー
アローヒの魔法により隔離された
フレームアイと蟻の将ディノが対峙する。
その地形は、スカディ族が住む
氷の大陸に酷似していた。
見渡す限り一面の銀世界。
命の気配が全く無い地であった。
ディノもまた巨体であり、
フレームアイの倍以上の体躯を誇る
フレームアイ「久々の強敵だな。
ギャラリーいねえけど
遠慮はしねぇぜ。」
ディノ「魔力はイマイチだが、良い肉だな。」
フレームアイが斬りかかる。
【魔剣神風】による高速の剣技は
物理斬撃の後に風の魔法斬撃を放つ。
2つの刃が敵に襲いかかる。
しかしディノの甲殻も強固で
フレームアイの斬撃では傷ひとつつかない。
ディノはその強大な顎、鋭利な爪、
そして尾に仕込んだ毒針で
フレームアイを攻め立てる。
フレームアイは軽業師のように
その攻撃を受け流し、躱し、敵を翻弄する。
フレームアイ「このまま50分、
遊んでもいいが……。
外に戻った時の戦況次第だよな。
コイツを
無傷で出すのはちょっとなぁ。
活躍しねえと
チン●返してもらえねよなぁ。
仕方ねぇ。やるか。」
ディノ「何をブツブツと。舐めているのか?」
フレームアイ「お前のなんて舐めたくねえよ!
俺のテクはカワイコちゃん限定な!」
フレームアイが懐から
ガラスでできたようなダイスを取り出す。
フレームアイは、そのダイスを転がした。
出た目は6だ。
止まったダイスは粉々に砕け散った。
ディノ「何をしている?」
フレームアイが自身の左手首を浅く切り付ける。
フレームアイの手首から血が流れる。
ディノの左手首に傷が付き、
同じように体液が流れ出す。
ディノ「最強の守備力を誇る俺の体に傷が!?
しかも奴の攻撃は俺に届いていない!
何をした!」
フレームアイ「空間魔法を仕掛けた。
【諸刃の陣】
1つは攻撃力が限界を超えて上がる。
ダイスの出た目の数の倍数な。
今回は6倍だ。
2つ目は、相手に与えたダメージを
自身も負う。
ここからは命懸けのケンカだぜ。
覚悟が甘い方が負けるんだよ。
行くぜ。」
フレームアイが斬りかかる。
フレームアイは高速の斬撃を連打し、
ディノの関節部分を狙う。
ディノは自身が傷付くのを恐れ、
防戦一方となる。
フレームアイの狙い通り、
ディノの関節部分は比較的装甲が薄く、
傷が付きやすい。
フレームアイの肘や膝裏も傷付き、出血する。
フレームアイ「やはりな。
知ってるか?
カブトムシが夜行性な理由。
昼間にスズメバチとケンカすると
負けるからなんだよ。
足の関節が弱点だから。
スズメバチに出くわした
カブトムシは、
全ての脚を噛みちぎられ、
地面に転がるんだとよ。」
ディノ「そのスズメバチは蟻を恐れて
樹上に巣を作る!
我らは最強生物だ!
こんなことをして、我らを敵に回しても
勝ち目はないぞ!
それとキサマ!
頭がイカれているのか!?
自分の傷や痛みの問題をどうする!?
お前も死ぬではないか!!」
フレームアイ「お前は何で戦場にいるんだ?
何の覚悟もなく戦っているのか?
普通はな、必ず勝てる保証なんて
無くても戦うんだよ。
自分の命よりも
大切なモノのためにな。
お前が最大の強みだと思っている、
その外殻はお前の最大の弱みだ。
人間を舐めるな。
俺たちは自分の為に
戦っているんじゃない!」
フレームアイの気迫に押され、
ディノが逃げ出そうと走り出す。
フレームアイは自らの脚に刃を突き立てる。
ディノの脚から体液が吹き出し、
ディノは前のめりに転ぶ。
脚を引きずりディノを追うフレームアイ。
ディノ「オイ! やめろ! 考え直せ!」
尻もちをついたまま後退りするディノの口に
フレームアイは全力で刃を突き立てる。
ディノは仰向けに地面に磔にされる。
口から大量に吐血をしたフレームアイが、
仰向けに倒れたディノの体に
抱き合うように覆い被さる。
フレームアイ「女に刺されて死ぬ覚悟は
できてたんだけどな。
なんでこんな虫の上で
腹上死みたいなことに……。
ガフッ! ゲホッ!
どうせ突きあうなら、
プリティな人魚ちゃんと
お突き合いしたかっ……。」
フレームアイの言葉と動きが止まる。
フレームアイの死により空間隔離が解除された。