106 戦いのとき
本編再開です。
106 戦いのとき
ヌル「天属性魔法【太陽フレア】
この赤いオーロラが戦いの火蓋だ。
俺たち人類の反撃の狼煙だ!!
見てるか? ギリー! マハルポージャ!!
お前達に奪われた全ての物を今、
取り返しに行く!!」
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魔王城最上階テラス
裏切りの賢者、ギリーが
赤いオーロラと壊滅したゴーレム兵を見ていた。
ギリー「なんだこの魔法は……。
奴の転生前の世界の兵器なのか?
これは……。
やはり、この命と引き換えにしてでも……。」
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ーー魔王大陸海岸線ーー
またしても地鳴りのような音が鳴り響く。
たくさんのヒト型兵が進軍している。
そして上空には、夜空の黒に紛れ
空を埋め尽くす無数の影が羽音を立てる。
ヌル「来たか。 なんだ?
エルフ国を襲った巨大蜂軍団に似ている。
しかし翅が無い。コイツは蟻なのか?
あの映像にあった土の建築物!
あれは蟻塚か!」
クルム「最悪だわ。地竜を骨までしゃぶる蟻よ。
でかい顎、尾には毒針。硬そうな外骨格。」
レスベラ「この数はヤベーな。」
うまーる「わたしが道を拓くんだよ!
皆んなは先に……。」
帯電した、うまーるは震えている。
大地を震わせ、ゴーレムの残骸を踏み越え
進軍してきたのは蟻のヒト型キメラ兵であった。
体長約1メートル。
2足歩行で4本の腕。
その数はゴーレムを遥かに凌ぐ。
キメラ兵が地表を埋め尽くす。
そして空を埋め尽くすのは、
シロイナワを襲撃した飛竜隊と
飛竜キメラであった。
ヌル「少人数で来たのが裏目に出た。
侵入さえすればと思っていたが、この速さ。
海軍とは密に連絡を取れるのか。
……完全に俺の失態だ。」
そのとき、ヌルたちの背後と
遥か上空に光る魔法陣が現れた。
背後から現れたのは
白黒エルフとスカディの連合軍であった。
黒エルフの女王、レイカは頬を膨らませる。
レイカ「まったくヒドイよねー!
おいてけぼりなんて⭐︎」
白エルフの女王、こまちゅは
燃え上がるような赤い瞳で
氷のように冷たい視線をヌルへ向ける。
こまちゅ「はぁ……。そんなに仕置きを望むか。
望み通り、あとで尻が無くなるまで
荊の鞭で撫でてくれるわ。」
氷の女王、
ほえほえが敵を見据え仲間に檄を飛ばす。
ほえほえ「きたぞ! 昆虫軍団だ!!
我らスカディの腕の見せ所ぞ!!」
上空の魔法陣からは砲撃が先に出てきた。
次々に撃墜される翼竜キメラ兵。
上空の魔法陣から出てきたのは
たくさんの気球部隊であった。
搭乗しているのは、ドワーフ、オーリヤマ、
マーボー率いるケンチョー部隊、
スプライトと、ちまき率いる
冒険者傭兵部隊であった。
ドワーフの王、ムラは何故かドヤ顔である。
ムラ「カッコイイとこ独り占めってか?
俺たちを出し抜こうなんて甘いんだよ!!」
ケンチョーの騎士団長、
パンダの獣人マーボーは、
どこか寂しそうだ。
まるで娘に彼氏を紹介された時の父親のようだ。
マーボー「頼りにされなくなっちまったか。
寂しいぜ。ピュイ♪」
オーリヤマの英雄、エッジは呆れた顔である。
エッジ「本当に少数で行かれるとは。
勇気と無謀は違いますよ。」
最強の冒険者剣士、
スプライトは剣の柄に手をかける。
スプライト「あとで根性焼きな。
先ずは目の前の敵か。
竜人とは
やり合いたくなかったんだがな。」
最強の冒険者魔道士、ちまきが
蝋燭のように指先に炎を灯す。
ちまき「甘いでし。敵は丸焼きでしよ。
私を謀った味方も丸焼きでし。
とりあえず邪魔くさい飛竜は焼き鳥でし。」
ドワーフの拡声魔道具により、
上空の部隊の声は地上に届く。
ヌル「なんで……? みんなが……??」
クルム「わかりやすいのよ。アンタは。」
レスベラ「姉さんの根性焼き、怖えな。」
うまーる「わたしも一緒に怒られるんだよ。
大丈夫なんだよ。」
ヌルの頭に、またしても懐かしい声が響く。
(((案ずるな。身を任せよ。
今宵は其方の味方だ。仲間にも伝えよ。)))
キイイイイイイイイイイン
風を切る音が聴こえる。
ヌルはこの音に聴き覚えがあった。
火山で死を覚悟し走馬灯まで見た、
トラウマ級の音であった。
ヌル「みんな。また俺の友達みたいだ。
信じて体を預けてくれ。
銀の竜に乗る飛行ツアーだ。」
ヌル達4人をやさしく足の爪で掴み、
空へと連れ去る四頭の銀竜。
どんどん高度を上げる。その先には飛竜軍団が。
(((耳を塞げ)))
ヌル「みんな! 耳を塞ぐんだ!!」
「コアアアアアアアアアアアアアアアアア」
銀竜のスキル【空の王者】が発動し、
飛竜たちは銀竜を避け、空が割れて道ができる。
ヌル「あのときの銀竜なんだよな?」
リュウ(((我のことはリュウと呼んでくれ。
後ろにいるのは私の子の
コンギ、ドラキ、ダイシだ。
我ら親子が今こうしていられるのは、
あの時お主らが解放してくれたからだ。
女神が知らせてくれた。
お主らの危機と恩返しの機会を。
魔王の城の最上階まで
命に代えても送り届ける。)))
レスベラ「いやー、驚いた。コレってアレか。
昔、戦ったっていう銀竜か。」
クルム「間違いなく世界最強のお人よしね。
何をしたら野生の竜に恩を売れるのよ。
信じられないわ。」
うまーる「すごいんだよ!
地上の人たちが、あんな小さいんだよ。」
地上から見上げる、エルフたち。
レイカ「すんごいお友達いるんだね。
あとで紹介してもらお⭐︎」
こまちゅ「はぁ……。
まさか人外にまで
世話を焼いておるとはな。」
空から見ていた者達も驚きの声を上げる。
マーボー「あのときの銀竜と仔竜なのか?
大きくなったなぁ。ピュイ♪」
ムラ「なんだあれは!?
手懐けたのか!?
気球で世界を驚かせるはずが、
霞んでしまうではないか!」
リュウ(((火山の件でも世話になったようだな。
あの異形の物には手を焼いていた。
コレはあの物の体内から
出てきたものだ。受け取れ。)))
ヌルは銀竜から小さな丸い円盤を受け取った。
ヌル「これは……!
反魔の鏡じゃないか!!
そうか、これがウランゴーレムの核に
使われていたのか。
ありがとう!
これは皆で作った、大事なものだったんだ!」
ヌルは考えた。
反魔の鏡を1番使いこなせるのは誰か。
間違いなくクルムであると。
リュウ(((気をつけろ! 攻撃が来るぞ!)))
ヌルが正面を見ると、
空中に巨大な岩が浮かんでいる。
ヌル「高度な魔法! ギリーか!」
魔王城の最上階テラスに立つ
細身で長身のハーフエルフがいた。
ギリー「まさかな。3匹の仔竜はこのときのために。
女神はお見通しというわけか。
だが知っているぞ。
魔法が効かないといわれている銀竜だが、
魔法で操作した岩の打撃なら
効くということを。」
ギリーは岩を操作し、銀竜にぶつけようとする。
銀竜たちは燕のような急旋回で
ソレを難なく躱す。
ヌルは岩の動きを目で追っていた。
複数の巨大な岩が
ヌルたちの頭上に集められている。
ヌル「上から来るぞ!」
巨大な岩はヌルたちの頭上で衝突し、
細かくなった破片が散弾のように降り注ぐ。
リュウ(((人間を守れ!!
テラスまで持ち堪えろ!!!
すまない、ここまでのようだ。)))
リュウたちは背中に散弾のような
岩の弾丸を浴びて
急降下しながら最上階テラスに突っ込んだ。
銀竜たちは重傷であったが、
幸いヌルたちは無傷であった。
銀竜たちが最後のチカラをふり絞り、
最小限の衝撃で降ろしてくれたのだ。
クルム、レスベラ、うまーるの足元に
光の魔法陣が浮かび上がる。
ヌル「転移トラップか!! 受け取れクルム!
魔法反射の鏡だ!!」
ヌルはクルムに鏡を投げつける。
クルムは鏡を受け取る。
3人が光の中に消えた。
ギリー「お前たちのことは調べさせてもらった。
相応しい相手を用意しておいたぞ。
間合いが届かぬ者。
魔法が効かぬ者。
雷が効かぬ者。
魔王の手先が効かぬ者。
そして地上を埋め尽くすのは
魔法耐性を持つ強化生物の大軍勢。
そして蟻の将たちは、オーリヤマの聖騎士を
はじめ、人間の強者を餌にした
特別兵たちだ。」
ギリーが新たに魔法陣を作り出した。
魔法陣から召喚されたのは
5体のアンデッドであった。
そのアンデッドは
ヌルには見覚えがあった。
それは、あの日ケンチョーの地下室で
殺された5人であった。
ヌル「ナーガ、オニオ、オレダ王、タスク大臣、
ロカフィルさん……。」
ギリー「失敗作だが、こんな使い道があるとはな。
廃棄しなくてよかった。」
ヌル「あああああああああああ!!!
ギリイイイイイイイイ!!!」
ヌルは剣を抜き、ギリーに斬りかかろうとする。
武王、オレダ王が巨大な剣を抜き、
ギリーの前に割って入り、
ヌルの剣を受け止める。
ヌル「高齢なのになんて膂力だ!
オレダ王、噂に違わぬ武王はマジだった!」
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ーー地上ーー
地表を埋め尽くす蟻のキメラ兵。
その蟻の軍勢が割れて道を作る。
できた道を闊歩する8体の巨大な蟻のキメラ。
その蟻たちは異様なオーラを放つ。
レイカ「なにこの魔力。虫でしょ?
ありえなくない?」
こまちゅ「ありえなくないとは、
どっちの意味だバカ者。
やるしかないであろう。
アローヒよ空間分断は5までいけるな?
1番デカいのは私と黒。
次に強い蟻4体と、
ウ●コ蠅とその仲間たち。
よいな?」
アローヒ「空間魔法解除の条件は、
どちらかが絶命。
もしくは50分経過だよ。」
レイカは悲壮な顔で
十字騎士の4人の顔を見て話す。
レイカ「私からの命令よ。死ぬな。
勝てなくてもイイから、死ぬな。
逃げていいから。
時間を稼ぐだけでイイから。」
フレゴリ「達成できたらご褒美頼みますよ。」
ヘンゼル「承知しました。」
アカマル「御意。」
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ーー上空ーー
スプライト「一番乗りといくか。
剣技・【神界の燈〈ともしび〉】」
スプライトは大剣を鞘から高速で抜く。
大剣が火花を散らせ燃え上がる。
燃える大剣を薙ぎ払うと、
夜空に輝く滝、花火ナイアガラのような
炎が多くの飛竜キメラに向けて放たれ、
キメラたちが焼き払われた。
ちまき「負けないでし。
火竜魔法【どらごんぱんち】」
ちまきは全身に炎を纏う。
右腕に炎を集中すると、
龍のような造形を創り出す。
右拳を正拳突きのように突き出すと、
火炎放射器のように炎が噴き出し、
多くの飛竜キメラが焼かれた。
マーボーが伸びた槍を使い、
飛竜の群れを薙ぎ払う。
マーボー「ん? なんだあの燃える鳥は?」
マーボーはスプライトが乗る気球の前に、
火の鳥のようなモノが立ち塞がるのを見つける。
「フェッフェッフェッフェッ!
なかなか美味い炎だ。もっと出してくれや。」
巨大な火の鳥の形をした炎の怪物が
スプライトと、ちまきの前に現れた。
スプライト「炎を食うか。生物ではないな。
噂の魔法ゴーレム兵か。」
ちまき「これは参ったでしね。
攻撃すればするほど
相手にチカラを与えるパターンでし。」
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ーー魔王大陸沖合ーー
人魚軍と魔王海軍はそれぞれ後退し、
中央の広場で対峙するヨーリーとリヴァイアサン。
ヨーリーが神楽笛を吹くと、広場が巨大な泡に包まれる。
ヨーリー「タフなんだって聞いてるワ。
すぐに果てちゃイヤヨ♪」
リヴァイ「楽に死なせてやろうと思っていたが、
嬲られたいのか。
望み通り、たっぷり可愛がってやろうぞ。」
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ーーレスベラが飛ばされた空間ーー
だだっ広いドームのような場所。
天井もかなりの高さだ。
魔王軍幹部の女とレスベラが対峙する。
派手な毛皮のドレスを着た、
首に毛皮のストールを巻いた
狐耳の女が宙に浮いている。
女「私の名はマハルポージャ様直属
守護四天王の1人、キボンヌよん。
活きが良い肉。蟻が喜びそうね。」
レスベラ「うわっ。女かよ。
しかも弱そうだしよー。
……ツマンネーなオイ。
チェンジで。」
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ーークルムが飛ばされた空間ーー
とても静かで広い空間。
天井が高いチャペルのようだ。
巨大なパイプオルガンがあり、
教会のような調度品が並ぶ。
魔王軍幹部の男とクルムが対峙する。
黒服の牧師風の男は宙に浮いている。
男「ボナセーラ!
……よかった。
キミの美しさは今日、
死と共に永遠のものとなる。」
クルム「何言ってんのよ。
私が美しいのは当たり前じゃないの。
てか失礼ね。今日からじゃないわよ。
生まれた時からよ。
私急いでるの。
早くここから出しなさい。
それとも、死んどく?」
クルムは扇を取り出し、開き構える。
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ーーうまーるが飛ばされた空間ーー
サッカーコートほどもある、
巨大な鉄格子の檻の中。
巨大な黒毛の獅子が
うまーるの前に立ちはだかる。
よだれを垂らし、無気味な唸り声を上げる。
「グルルルルルルルルルルルルルル」
うまーる「早くみんなと合流しないと
いけないんだよ。
ライオンさん、ごめんね。
少しだけ寝てもらうんだよ。」
うまーるは帯電し、火雷を握り締め構える。