100 決起集会
今年最後の更新となります。
今年はお世話になりました。
良いお年をお迎え下さい。
100 決起集会
ヌルたちは爆発の直後、
転移魔法で急ぎ避難した。
ヌルたちが帰還した後、
一頭の、銀色に輝く竜が
爆心地に颯爽と現われ
天空から落ちる
光輝くアイテムを咥え飛び去った。
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避難直後、ヌルたちが沖津鏡を覗くと
映像は舞い上がる粉塵で真っ黒であった。
帰還したヌル、こまちゅ、ヘンゼル、
アローヒを迎えるエミー。
エミーは慌てた様子で報告をする。
エミー「ついに完成したんだよ!
イムの御石鉢が!
だけどね、ムラが応援に呼んだ
魔法具職人のグアン・ダムマン様が
危篤なんだよ! すぐに来ておくれ!」
エミーの話によると高齢に加えて持病を
押して活動に参加してくれたようだ。
ヌルたちはドワーフ国の施療院へと駆けつける。
病室から溢れる人をかきわけ、
ヌルとこまちゅが入室した。
そこにはベッドに横たわる
レッサーパンダの獣人の姿があった。
女神像の記憶で見た、イムに瓜二つの姿だ。
瀕死のグアン・ダムマンが
見知った顔の者に話しかける。
ダムマン「あのときのパンダの小僧か。
約束は忘れてないようだな。
嬢ちゃんも元気そうだな。」
マーボー「まだ小僧扱いかよ。
この槍で必ず、闇を祓うぜ。
安心してくれや。
ていうか、何見えてんだよ。
嫉妬しちまうぜ。」
ダムマン「燃える剣が欲しいと言った
嬢ちゃんだな。
相変わらずデケェな。
目標見つかったみたいでよかったぜ。」
スプライト「デカいは余計だ。
最高の剣だ。感謝している。」
ダムマン「嬢ちゃん、重いぜ。
元気そうで何よりだ。長生きしろよ。
活躍は聞いてる。頑張れよ。」
グアン・ダムマンの布団に貼り付いている
ちまき。
泣いているようだ。
ちまき「おじいちゃん、まだ死なないでよ。
アタシまだまだ活躍できてないでし。
もっと生きるでし!!!」
グアン・ダムマンは人形を抱く
うまーるをジッと見つめた。
ダムマン「そうか。大事にしてくれる人に
巡り会えたか。
嬢ちゃん、そいつをヨロシクな。」
うまーる「あんみつを作ってくれたんだね。
ありがとうなんだよ。
ずっと大事にするんだよ。」
うまーるが、みるみるやつれていく。
あんみつの目が光り、
あんみつの目から涙が溢れる。
ムラ「見てくれ。
これが完成した【イムの御石鉢】だ。
神々しい光を放っている。
ダムマンが命を削って協力してくれたんだ。」
ヌルはイムの御石鉢を手に取り眺める。
美しい輝きを放つ内側を覗き込むと、
まるで夜空のような輝きを放っていた。
見る角度によって別の顔を見せる
不思議な塗装である。
じっと見つめていると
吸い込まれてしまいそうな
不思議なチカラを感じる。
底面には薄い銀細工の皿のような物が
取り付けられている。
ヌル「なんだこれは!?
写真でしか見た事ないけど、まるで
【曜変天目茶碗】のようだ。」
グアン・ダムマンの顔から血の気が引いていく。
ヌルは、グアンダムマンに大声で呼びかける。
ヌル「イムの御石鉢をありがとうございます!
俺が必ず、封印の勇者として
この世界を建て直すと約束します!!」
ダムマン「そうか。お前が。あとは頼んだぜ。」
グアンダムマンは静かに息を引き取った。
ちまきの泣き叫ぶ声がいつまでも響く。
関係者の嗚咽をかき消すように。
ムラの話によると、ちまきは改造人間である
という話だ。
ちまきは生まれつき心臓が弱かったという。
ちまきが生まれた村を偶然訪れた
グアン・ダムマンが火竜の卵から生成した魔石を
ちまきの体内に埋め込んだところ、
火竜の魔力を宿す強靭な人間になったという。
ちまきはグアン・ダムマンに誓ったという。
弱き者のために戦うことを。
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最後の会議が開かれた。
こまちゅ「これを見て欲しい。」
こまちゅが持つ沖津鏡は
魔王が統治する大陸の様子を映し出す。
魔王城からほど近い海岸、港には
おびただしい数のゴーレム兵が配置されている。
城下町の外れには工場や農園があり、
さまざまな人達が働いている。
工場からはドス黒い煙や
緑色の排水が垂れ流し状態であった。
また、農園の脇には不気味な土の建築物がある。
こまちゅ「はぁ……。何故わらわが説明しなければ
ならぬのだ。
見ての通り、攻め込むには
海岸から一直線で魔王城まで
行くしかない。
また範囲攻撃に気をつけなければ
捕虜である民間人を巻き込む。
また映像では見えないが、
敵には海軍と空軍がある。
こちらも戦力を3つに分ける必要がある。
突入は3日後とする。
作戦としては、まず魔王の首を獲る
ヌルを魔王の元に
送り込まなければならぬ。
サポートに付けるのは
共に旅した3人娘が最適であろう。
魔王海軍の相手に最適なのは人魚族。
やってくれるな?」
ヨーリー「任せて。対策はできてるわ。」
こまちゅ「敵の空軍の相手だが、発情豚よ
準備はできておろうな?」
こまちゅはムラを睨みつける。
ムラ「若え頃の過ちだよ。もうしねえよ。
飛竜対策は大丈夫だ。
魔王が欲した
ドワーフ国の技術力を見せつけてやるぜ。」
こまちゅ「うむ。
地上のゴーレム兵は、エルフ、スカディ、
セイレーン、オーリヤマ率いる人間軍で
対処とする。これでよいかの?」
ヌル「ゴーレム兵は俺が魔法で一掃できます。
聖杯を預けてはもらえませんか?」
こまちゅ「策があるのだな?
わかった。任せよう。
聖杯に貯める作業を急がせよう。」
ヌル(あと3日……。
とうとうナナの復活方法は
見つけられなかった。
俺は道を間違ったのか。
自分の命を惜しんで回り道したつもりは
無いのだけど、どこかで間違ったのか。
ソナさんの予知を
聞かなければ間違えなかったのか。
それでもソナさんを責めるわけにはいかない。
何度も仲間を危険な目に合わせてしまった。
ゴーレム兵はなんとかできる。
しかしどんなキメラ兵が出てくるか。
あの土の建築物は蟻塚に似ている。
おそらく死を恐れず
魔王に忠実な生物兵を作り上げているはずだ。
竜王も気になるし、
武の四天王も1人残ってる。
ギリーの本体もおそらく出てくる。
まともにぶつかれば、
大勢の犠牲は避けられない。
1番犠牲を抑えられる方法は……。
俺が単独で潜入して魔王を暗殺、
というか封印して人質に取る。
これしかない。
皆を裏切ることになるけど。
命には代えられないんだ。)
「皆さん、明日の夜に決起集会しませんか?
前日ではさすがに、お酒飲めないし。」
こまちゅ「はぁ……。頭の中お花畑かよ。」
レイカ「いいね! やっちゃお〜か⭐︎」
ヨーリー「あら、いいわね。」
ムラ「よし、早速準備するか!」
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決起集会の夜
セイレーンとナミノエのメンバーだけ
特訓で留守にしており欠席となった。
決起集会はビュッフェ形式となった。
テーブルに並ぶ豪華な料理。
レスベラとクルムが、
とんでもない勢いで酒を呑み干している。
ヌル(大丈夫か? 少し飲み過ぎじゃないのか!?
まぁ、急性アル中とかの心配はないだろうな。
2人とも強いし。)
ヌルは盟友たちに酒を注いで回る。
ヌルは飲み物に
ほんの僅かだが自分の魔力を注いでいた。
珍しく酔った、こまちゅが話しかけてきた。
こまちゅ「忘れておるまいな?」
アローヒ「はい、これ。聖杯満タンだよ!」
アローヒはヌルに聖杯を渡す。
こまちゅ「魔法に疎い者まで
協力してくれたのだぞ。
大事に……。」
こまちゅは突然、ガクッと意識を失う。
アローヒ「あらら。
普段飲まないのに、飲むから。」
アローヒがこまちゅの車椅子を押して立ち去る。
深夜となり皆眠くなったのか、
会場の人はまばらになっていた。
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ヌルは睡眠魔法を発動した。
ヌルが注いだドリンクを呑んだ者達が
魔法で深い眠りにつく。
ヌルは走り出した。
港まで走り出したヌルは持ち物を確認する。
アリエスの聖杯、イムの御石鉢。
そして青薔薇の縛鎖。
ヌル(よし、行くぞ。
みんな、ごめん。
殴られるのはいいけど、
いつか許してもらえるだろうか……。)
ヌルは1人、船に乗り込んだ。