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魔導士物語  作者: 湖南 恵
第七章 辺境伯の息子
254/359

二十 黒幕

 辺境伯が霧谷屋敷に帰ってきたのは、当初の予定どおりの一週間後であった。

 セドリックやシルヴィア、そして使用人たちが出迎える前で、馬車から降りてきたのは伯爵とミーナだけである。

 家の者たちに対し、伯爵はイレーネが家庭教師として復帰すること、それが五日後であると宣言した。


 イレーネを敬愛していたセドリックは、父親に抱きついて喜びを爆発させた。

「僕は信じていました! 父上なら、必ず先生を連れ戻してくれるって!!」


 使用人たちも皆イレーネを好いていたので、笑顔で父子の抱擁を見守っている。

 シルヴィアも同様だったが、どこか〝蚊帳かやの外〟の気分を味わっていた。

 ともあれ、これで家庭教師の後継者問題も無事解決され、彼女も安心して通常業務に戻れるというものである。


 この日を境に、霧谷屋敷の雰囲気は一変した。

 誰もが晴れやかな表情で、欠けていた家族の一員を迎える準備にいそしんでいた。

 中でもセドリックのはしゃぎようは、見ていて微笑ましいものだった。


 伯爵に随行したミーナが、使用人仲間から注目を浴びたのは当然である。

 彼女はメイドとしての仕事に戻ると、さっそく先輩に腕を掴まれ、メイドたちが集結していた小部屋に連れ込まれた。

 そして、半年以上ぎくしゃくしていた伯爵とイレーネの仲が、どうやって元の鞘に収まったのかを説明させられたのだ。


「伯爵様からは口止めされていたのですが……、仕方ありませんね。

 いいですか、ここだけの話ですよ」

 ミーナの前置きに、年上のメイドたちが一斉にうなずいた。


 もちろん、その〝ここだけの話〟は、あっという間に男性使用人たちにも伝わり、誰もが知るところとなった。

 特に、伯爵が巨大な薔薇の花束を抱え、イレーネのアパートに向かうくだりは大いに受け、しばらくお茶うけ話として楽しまれることとなった。


 その一方、シルヴィアはまだ〝お客様〟扱いだったので、メイドたちも噂話を洩らすような無作法をしなかった。


 シルヴィアはイレーネが使っていた部屋を明け渡し、客用寝室の一つ(小さい方)に移っていた。

 屋敷内の各部屋は伯爵の書斎を除き、朝のうちにメイドが掃除をする。

 掃除は体力がある若手のメイドの担当で、三日後にミーナがシルヴィアの部屋の当番となった。


 その日の朝、ミーナがノックをして扉を開けると、いきなり腕を掴まれて引っ張り込まれた。シルヴィアが待ち構えていたのだ。

 シルヴィアは悪役顔でにやりと笑い、後ろ手に扉を閉めて鍵をかけた。


『若いメイドが手籠めにされるって、こんな感じなのかしら?』

 そんな不謹慎なことを思いながらも、ミーナは慌てなかった。これはもう帰ってきた当日に経験したことである。

 それよりも、客室の様子に驚いた。


 シルヴィアは大雑把な性格で、部屋を散らかしていることが多い。

 世話をされることに慣れている貴族には、そう珍しいことではない。

 ところが今日に限っては、掃除したてのようにきれいに片づいていたのだ。


 シルヴィア得意げに説明する。

「どうかしら、今日は早起きして自分で掃除をしたの。カー君の抜け毛一本たりとも落ちていないわよ」

「お掃除されたのは、見れば分かります。

 でもシルヴィア様、どうやって起きたのですか?」


 シルヴィアの朝寝坊は、すでに屋敷内で有名であった。

 彼女は朝食に遅刻するぎりぎりまで寝ていて、特別腕っぷしの強いメイドが専属係となって、叩き起こすのが日常となっていたのだ。

 自分から早起きしたと言われても、とても信じられない。


「ふふふ、あたしに抜かりはないわ。今朝はカー君に起こしてもらったのよ」


 ミーナはその苦労を想像し、カー君に心から同情した。

「ええと、まぁ、早起きなのはよいことでございますが……それでは、私の仕事はないということですね?」

「まさか! 何のために私が痛い目にあったと思っているの?

 あなたの代わりに掃除をしたんだから、その時間で白城市のことを話してもらうわ」


 シルヴィアはミーナの腕を掴み、無理やり豪華な客用椅子に座らせた。

 そしてメイドが逃亡しないよう前に立ち、腕組みをして彼女を見下ろした。


「あの、お話しするのは構いませんが、これでは落ち着きません。

 どうかシルヴィア様もお座りください」

「あたしはこれでいいの! いいから話して」


 シルヴィアが立ったままなのは、座ると痛いからである。

 ミーナは知らないが、彼女のお尻にはカー君の歯形がついていて、血が滲んでいたのだ。

 幻獣は「絶対に起こして!」という主人の命令を、忠実に遵守したのである。


      *       *


 イレーネは五日後、伯爵が差し向けた馬車に乗ってやってきた。

 シルヴィアはイレーネに紹介され、初対面の挨拶を交わしたが、ゆっくりと話をする時間は取れなかった。

 イレーネは荷物の片付けで忙しく、シルヴィアにはセドリックの授業があった。

 夜は夜で、伯爵が彼女を独占したので、その邪魔はできなかったのだ。


 数日が経ち、シルヴィアは家庭教師の引継ぎを名目に、午前の授業を自習にした。

 そして、ようやく二人きりになって話すことができた(場所はイレーネの部屋)。

 イレーネは女性としては低く落ち着いた声をしており、話し方も穏やかだった。

 シルヴィアは彼女を堅苦しい人物だと想像していたが、実際には見た目も物腰も柔らかく、とても女らしい美人であった。


 シルヴィアは、イレーネがいない間にセドリックがこなしていた自習ノートや、その後の授業の成果を持ち込み、少年の驚くべき進歩を称賛を込めて説明した。

 イレーネはノートの頁をめくっていたが、しばらくして上げた顔には、満足の色が浮かんでいた。


「伯爵様から聞いていたのですが、シルヴィアさんは本当に優秀な方でしたのね。安心しましたわ」

「お褒めにあずかって恐縮です。

 私の方こそ、イレーネさんが残された自習用の教材には感心しました。

 でも、あなたが辞めて出ていかれたのは、突然だったと聞いています。

 よくあれだけの量が用意できましたね?」


 イレーネは辞職のことを持ち出され、恥ずかしさに頬を染めた。

「あの時は気が動転していて……セドリックに渡せたのも、ほんのわずかでした。

 白城市に帰ってからは後悔の日々で、しばらくはひたすら教材づくりに没頭していました。それができるたびに、霧谷屋敷へ送っていたのです。

 お恥ずかしい限りですわ」


「それで、例の事件のことは、伯爵様からお聞き及びでしょうけど、セドリックの魔力の話も?」

「ええ、聞いておりますし、驚きもしました。

 それで短い期間ですが、私なりに魔法について調べてみました。

 その中には、魔導師の適性について書かれた論文もあったのですが、何から何まで思い当たることばかりです。

 あの子のことだから、きっと夢中になるのでしょうね……」


「それは伯爵様も予想されていましたね。

 実際、最近は授業の合間の休憩で、セドリックから魔法について質問攻めにあっていて、少々閉口しております」

「もし彼が魔導士を目指すと言い始めたら、多分誰にも止められないでしょう。

 そうなると、十二歳で魔導院に行ってしまうということになりますね。正直、寂しいです」


 シルヴィアは、うつむくイレーネの肩を優しく撫でた。

「そうだとしても、まだ五年もありますもの。

 その間に、思い切り可愛がってあげればいいじゃないですか」


      *       *


 いよいよシルヴィアが屋敷を去る日を前日に控えた午後、彼女の最後の授業が行われた。

 しかし、午前中に教えたことの確認が終わると、シルヴィアは教科書を閉じてしまった。


「さて、あたしの授業はこれで終わりです。

 最後ですから、少しお話をしましょう」


 別れの儀式だと察したのか、セドリックも何も言わずにノートを閉じた。


「明日からは、またイレーネさんが教えることになるのだけど、満足?」

「それは嬉しいですけど、シルヴィア先生とお別れするのも残念です。

 先生だって十分〝よい先生〟でしたよ?」


「それはどうも。七歳の男の子にそう言われるのって、複雑な気分だわ。

 でもその中身は、十七歳でもおかしくないものね。

 あなたは子どもじゃないと思うから聞くけど、イレーネさんとお父様の仲は、この後どうなると思う?」

「そうですね、僕は新年の舞踏会が鍵だと思っています。

 そこで父上は、イレーネ先生に求婚するのではないでしょうか?」


「やっぱり、あなたもそう思う?」

「はい。メイドたちも皆、同じ意見でした。

 ミーナの話では、白城市を出発する前の日に、父上は半日外出されたそうです。

 行く先も言わず、馬車にも乗らずにです。

 ミーナは不思議がっていましたが、僕は父上が宝飾店で指輪を発注したのではないか――そう推測しています」


「ありえるわね。

 でも、そうなるとイレーネさんは、あなたのお母様になるのよ?」

「いいじゃないですか。父上はまだまだ若いですし、いいかげん結婚すべきです。

 イレーネ先生が母上となるなら、僕は大歓迎ですよ」


「なるほどね。それですべてはあなたの思惑どおり、めでたしめでたし……ってわけね」

「はて、何の話でしょう?」


とぼけないでいいわ。

 一連の妖精事件、あの脚本はセドリック、あなたが書いたんでしょう?」


 セドリックはしばらく黙っていたが、やがて諦めたように肩をすくめた。

「いつ気づいたんですか?」

「確信を持ったのは、ミラージュの告白を聞いた夜よ。

 もっとも、その前から疑ってはいたけどね」


「後学のためです。詳しく教えていただけますか?」

「その代わり、あなたも正直に話すのよ」


 セドリックは子どもらしい、無邪気な笑顔を見せた。

「ええ、約束しますとも」


      *       *


「決定的だったのは、脅迫状の件よ。

 あなたが三度目の儀式を受けている間、あたしは王都に戻ったでしょう?

 実はあの時、伯爵様から脅迫状の一通を借りていったの。

 王都であたしが下宿している家主は、超がつくほど有能な女性なのよ。それを渡したら、半日で調べ上げてくれたわ。

 あの封筒と便箋は、白城市の老舗文具店のオリジナルで、その店でしか買うことができないってね」


「手紙と便箋は、街道を通りかかった行商人から盗んだ――ミラージュはそう説明したわよね?

 そして、手紙の文字はミラージュが見せた幻影だったことにして、手品まで見せてくれた。

 いくら辻褄を合わせるためとしても、あれはやり過ぎだったわ」


「幻の文面を見せる。確かに一時的には可能だろうけど、それが何日も続くと思う?

 あの夜に行われた種明かしは、あらかじめ白紙の手紙とすり替えた、二重のトリックだったのよ。

 ミラージュが捕らえられている以上、それができるのはあなたしかいないわ。

 脅迫状を書いたのもあなた。

 あなたは伯爵に連れられて、何度か白城市に行っているはずだけど、便箋と封筒はその時、自分のお小遣いで買ったんじゃないの?

 あなた、文具を集めるのが好きだものね」


「王都には、ミラージュを従えている召喚士もいてね。あたしはその人にも会ってきたの。

 ミラージュを含めた妖精族が服を着ていないのは、自分の姿は隠せても、身に着けた物までは消せないからだって教えてもらったわ。

 つまり、あなたが持ち帰った証拠の品を、もしあのミラージュが持ち出したのだとしたら、空中をふわふわ浮いていったことになるわ。

 妖精は飛べるけど、それはせいぜい人の背丈程度、速度もゆっくりなんですって。

 屋敷内にはメイドさんがいるし、外は村人たちが昼夜警戒している。見つからない方がおかしいわ。

 あれも、セドリックが自分で持ち出したんでしょう?」


「それから、あなたは試練の岩の上で、ミラージュに後ろから抱きしめられたのよね?

 あたしも王都で、実際にミラージュを抱いてみたわ。

 それで分かったんだけど、妖精の肌ざわりっていうか、触れた感触は独特のものだったわ。

 どこか現実感が薄いって言ったらいいの? 固い物質じゃなくて、質感のある煙に触るような感じなのよ。

 あなたみたいに頭のいい子が、そんな違和感に気づかないはずないわ。

 でも、あなたはそんな疑問は口にしなかった」


「他にも、ミラージュが素直に捕まったこととか、肖像画そっくりの女の話とか、いろいろ不審な点があったわ。

 でも、どれもこれもセドリックが協力者――いいえ、首謀者だったとしたら、全てが説明できるのよ」


「でも、どうしても分からなかったのが動機よ。

 一体、こんな面倒くさいお芝居をして、あなたに何の得があるのか――それがあたしには理解できなかった。

 でも、こうして事件が丸く収まってみて、初めて気づいたわ。

 すべてはイレーネさんと伯爵様を仲直りさせること。ううん、それ以上に二人の関係を進展させるための、荒療治だったんだって」


      *       *


 シルヴィアの話が終わると、セドリックは小さな拍手を贈った。

「すごいです、シルヴィア先生。よくそこまで分かりましたね!」

「お褒めいただいて恐縮の限りだわ。

 そんなことより約束でしょう? どうしてこんなことを思いついたのか、説明してちょうだい」


「もちろんそのつもりですが、このことは――」

「ええ、分かってる。誰にも喋るつもりはないわ。グレンダモア伯爵家の名誉にかけて誓うわ。

 もっとも、あたしの上司は別よ。

 まぁ、軍としては、このまま丸く収まれば、レテイシア陛下にも影響力を持つ辺境伯に、貸しを作ったことになるわ。

 あなたという、有望な魔導士候補も見つけたしね。

 これはあくまで家族間の問題。軍が関与する性格のものじゃないわ」


「了解です。ことのきっかけは、極めて単純でした。

 霧谷は僕の小さい時からの遊び場です。その日も、ごく普通に谷に降りて歩きながら、父上とイレーネ先生を仲直りさせる方法を考えていました。

 気がつくと二重岩のあたりまで来ていて、そこに妖精が現れたのです」


「彼女は僕の頭の中に語りかけてきました。

 自分の意思とは無関係に、この世界に飛ばされたこと。

 どうにかして帰りたいと、必死にその方法を探ったこと。

 月に一度の朔日だけ、生まれ故郷と連絡が取れ、緑龍と交渉ができたこと。

 人間の魔力を龍に捧げることで、帰還の手助けを約束してもらったこと。

 そして、時々谷に遊びにくる人間の少年――僕が偶然にも、大きな魔力を持っていると知ったことをです」


「ミラージュは僕に懇願しました。

 自分が帰るために、どうか魔力を分けて欲しいと」


「僕はもちろん、承知しました。

 困っている人を助けるのは、貴族の子として当然の行為ですから。

 でも、よくよく聞いてみると、それはかなり難しいことだったのです」


「妖精の話では、緑龍が満足するだけの魔力を捧げるには、僕の魔力の全量ではとても足りないということでした。

 全魔力を奪ったら人間は死んでしまうので、そのぎりぎりまで吸った場合、僕の保有魔力でも十二回分が必要なんだそうです。

 でも、それだけの魔力を吸われると、人間は極端に消耗するし、完全な回復まで一か月はかかるというのです」


「それでは父上や、屋敷の者に秘密でというわけにはいきません。

 最初は単なる親切心でしたが、これは父上とイレーネ先生の件に利用できるんじゃないか――そうひらめいたんです」


「よくよく話してみると、ミラージュは複雑なことを考えるのが得意じゃないようでした。

 それで、僕は二か月近くかけて脚本を書きあげ、彼女の役割をじっくりと説明したんです。それはもう、大変でしたよ。

 まぁ、おかげで多少の誤差はありましたが、おおむね僕の想定どおり、ことが運びました。

 驚いたのは、シルヴィア先生が予想以上に働いてくれたことですよ。

 解決まで二、三か月と踏んでいたのですが、まさか半月足らずとは……。

 ちょっと悔しい気もしますが、僕としては感謝でしかありません」


 少年の賛辞に対し、シルヴィアは肩をすくめるしかなかった。

「それは光栄の極みだわ」


      *       *


 偶然とは恐ろしいもので、その日の夕方にケイト少佐が霧谷屋敷を訪ねてきた。

 彼女はセドリックに対して型通りの検査を行ったが、そんなことをするまでもなく、少年の魔力を認めていたようだった。

 検査後、伯爵親子とイレーネに対し、セドリックの優れた能力について、丁寧な説明が行われた。

 その上でケイトは、国家と軍としては、魔導院への進学を強く推奨すると明言した。


 ケイトの手ほどきで魔力を引き出され、実際に魔法(指先に炎を灯す初級魔術)を体験したセドリックは興奮の極みで、今すぐにでも魔導院に入りたいと熱望した。

 ケイトは苦笑いを浮かべ、十二歳になるまでにまでに学ぶべき項目と、それに必要な参考書のリストを与え、家族でよくよく話し合うようにと告げた。


 ケイトは忙しい身だったので、翌日には王都に戻ることになっていた。

 それがシルヴィアの帰還と重なると知ると、彼女は一緒に飛んで帰ると言い出した。

 乗ってきた馬は、伯爵家から軍に返してもらえばいい。カー君に乗った方が、丸々二日以上の時間と経費が節約できるからだ。


 シルヴィアとしては、上官の要請は拒否できない。

 カー君に積む予定だった荷物は陸送することにして、ケイトと二人で飛ぶことになった。

 いい迷惑だったのはカー君である。シルヴィアの荷物は三十キロほどだったから、人間二人の方が負担増となるのだ。


 シルヴィアが飛行服を着こんでいる間、すでに準備を終えたケイトは、同じく庭で待っているカー君の愚痴の相手になっていた。


「聞いてくださいよ少佐、僕はもともと飛行に適した形態じゃないんです。

 シルヴィア一人でも持て余しているのに、二人も乗せて飛ぶなんて、動物虐待だと思いませんか?」

「ごめんなさいね、私が無理を言って……」


「いえいえ、少佐はいいんです。あんまり重くないし。

 悪いのはシルヴィアです。

 この屋敷の人たちはみんな働き者で、伯爵やセドリックだって朝から武術の稽古をしてるんですよ。

 それなのにシルヴィアったら、メイドさんにお尻が腫れあがるまで叩かれないと起きないんです。

 そのお陰で、ただでさえ大きなお尻が、ますます逞しく育ってしまいました。想像するだけでも恐ろしいでしょう?」

「えと、あの……カー君?」


「いいえ、この際だから言わせてください!

 彼女、自分は家庭教師で働いているって言ってますけど、座っているだけで全然動いていませんから。

 僕の体感では、シルヴィアはこの屋敷に来てから、二キロは太ったと踏んでいますね」

「あの、あなたの後ろ……」


「後ろがどうかしたんですか?」

 憤然としたカー君が振り返ると、そこには引きった笑いを浮かべたシルヴィアが立っていた。

 彼女の握りしめた拳が、ぷるぷると震えている。


 霧谷屋敷の平和な庭にカーバンクルの絶叫が響き、木立から一斉に小鳥が飛び立っていった。

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動物虐待 そうかな.......?いやでも動物は喋らないしな.......
カー君、女性に体重の話はタブーなのじゃよ(一人一)
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