第七話【兄の過去】
――素敵な優しいお友達だな。
「はい。本当に彼が居なければあなたと再会出来ていませんでした」
――敬語はやめてくれないか?
仕方のないことなんだけど、距離を感じて辛い。
君とやり取りをした後、全てを思い出したんだ。
過去のこと、全てを。
「えっ?六歳から一年間の記憶がないって言ってたよね?
その時の事も思い出したの?」
――あぁ。それも思い出した。
「聞いてもいい?親は俺を一人っ子として通したがってるんだ。
兄貴のことを隠している理由が知りたいんだ。」
――話してもいいが、内容的にお前も辛くなると思う。
それでもお前は耐えられるのか?
「俺は真実が知りたいんだ。
俺は昔、兄貴と遊んでいて凄く楽しかったし、大切な思い出。
一人っ子として育ったから夢を見て兄貴のことを
思い出した時は本当に驚いたけど、同時に自分には兄がいるっていう
事実が何よりも嬉しかった。
なのにその事を親は隠している。
そんなものは幻想だと言ってくる。それに腹が立ってたんだ。」
――あの二人は相変わらずのようだな。
俺は確かに五歳まで四人家族として過ごしていた。
お前といつも一緒で仲の良い兄弟だった。
他所様が見てもそう思っていただろう。
五歳を過ぎた頃、一度だけお前と喧嘩をした事があっただろう?
あの時、母親は俺にめちゃくちゃ怒ってた。
それからあの二人は俺に対して当たりが強くなった。
二人はよく俺に
「お前は元々、望んだ子供じゃない」
そう言っていた。
また親父は
「お前が身籠らなければ慰謝料なんて払わなくて済んだのに」
とも言っていた。
その頃の俺は小さかったから何のこっちゃ分からなかったけど
今ならその意味がどういうことなのか、お前にでも分かるんじゃないか?
「二人は不倫していて、その時に腹に宿ったのが兄貴で
慰謝料を払うきっかけになった兄貴のことを二人は嫌っていたってこと?」
―あぁ、そういうことだ。
そしてあの喧嘩をした日に二人は俺に言ったんだ。
「私たちの可愛い可愛い息子をいじめるな!」ってね。
お前は二人に望まれて生まれてきたんだよ。
でも、俺は違う。
だから俺の存在を消したかったんだと思う。
六歳になった頃に事件は起きた。
その日は何故か二人とも俺に優しかった。
新しい服も買ってくれて、その後、三人でドライブをした。
久しぶりに楽しかった。
でも途中で俺は車から降ろされたんだ。
降ろされたその場所にあった建物が俺の育った施設だったんだ。
俺はすぐに迎えに来てくれると思ってずっとその場所に居た。
でも二人は迎えに来なかったんだ。
俺は二人に捨てられた。
お腹も空いて倒れそうになってた時、施設の中から職員が出てきて
俺は保護された。
俺は当時、名前しか覚えていなかったから
警察もあの二人を見つけることが出来なかったらしい。
俺もお前と一緒で一人っ子として施設で育ってきた。
だから戸籍謄本を見てお前の名前を見た時は本当に驚いたよ。
でもおかげで弟っていう存在を思い出すことが出来た。
あの二人のことはめちゃくちゃ恨んでるけど、お前のことは全く恨んでない。
むしろ大切な存在だよ。
俺は望まれずにこの世に生を受けた。
でもお前は、俺を兄としてずっと側にくっついていた。
可愛くて仕方なかったもんな(笑)
だからお前をずっと探していた。
何十年と会えずにいたのに変わらず、兄貴って呼んでくれているのが
本当に嬉しい。探すのを諦めなくて良かった。