転生悪役は贖罪を望む
はじめての作品です。楽しんでいただけたら幸いです。
目の前で少女が笑ってる。私にはそれが眩しくて愛しくて、それでいて何より美しかった。
「おい、バリオン。また考え事か?」
親友のジャックがこっちを見ないで聞いてきた。ジャックはたまに私のことをなんでもわかっているような雰囲気を出してくるから腹立たしい。
「何を馬鹿なことを言うのよ。大切な姫さまを守るのに考え事なんかできるもんですか。」
隣にいるジャックを一睨みするとジャックはチラリとこちらを向いて
「それもそうか。」
と一言だけ言い向こうを向いた。
私も喋るのをやめもう一度姫さまの方を向いた。
何度見ても、何度出会ってもあの子は綺麗で美しい。目見だけじゃない、性根が美しいのだ。あの子の存在は必ず「正」の存在だろう。何も間違いも歪みもない正しい存在。みんなを幸せにして、何より幸せに生きることのできるまるで聖女のような存在。
前世、私はそんな彼女を殺そうとした。どんなに努力しても私は愛されなかったのに、あの子は私が愛されたかった人に愛されそして、私に愛を与えようとした。私は憐れみなんか欲しくなかった。そんなことをされたら私のプライドが、守ってきたものが壊れてしまうと思った。
だから、全部バラバラにしてしまおうとした。白昼堂々とあの子にナイフを振りかざした。近くにいた人たちがすぐに止めたからあの子には傷一つつかなかった。でも、あの子は私の婚約者の王子に愛されていた。私が彼女を害そうとしたことを知って、鬼の形相で私を罰することを決めた。
私はすぐに牢屋に入れられた。私はその後、私のことを嫌う人たちに罪をどんどん被せられて処刑されることが決まった。 特に何も感じなかった。もう全てを諦めていた。死ぬことへの恐怖心なんてこれっぽっちもなかった。でも、少しだけ後悔していた。あの子に怖い思いをさせてしまったことを悔やんだ。私はあの子が憎いけど、でも私のことを見てくれたのは彼女だけだったから。
「お願い!ここから逃げて!死なないで!」
柵の向こう側で彼女が私に言う。死なないでと、逃げてと、生きて欲しいと。あんな思いをさせたのに彼女は私を生かそうとした。私を救おうとしてくれた。私にそんな価値はないと言うのに。返事をしてと泣く彼女に、私は何も言葉を返せなかった。もう何日も食べていないし飲んでいなかったからだ。それでも頑張って指先を伸ばす。あの子に届くように。
指先が触れようとした瞬間、私を罰するための兵士がやってきた。指先は触れることなく私は腕を掴まれ連行されていく。彼女は、泣きながら私を助けようと手を伸ばしたがその手は兵士についてきた王子によって阻まれた。彼女はずっと叫んでいた。バリオンは悪くない、私が一緒にいたかっただけなのに、なんで連れていくの、どうして殺すの。
その声を聞きながら私は処刑場に向かった。そっと頭に麻袋が被せられる。処刑人は
「お前も可哀想な奴だな。せめて痛みのないようにあの世に送ってやる。何か言い残すことはないか。ものによっちゃ俺が伝えてやるよ。」
と最後に時間をくれた。私は処刑人にあの子に伝えて欲しいことを託し、処刑してもらった。私が今世でもらった愛は私には不相応な愛と、痛みなくあの世に送ってもらうことだった。
「ねえ、バリオン。何を見ているの?」
彼女は、ネフライトは私のそばにやってきて首を傾げながら尋ねた。私はまだ幼い彼女に目線を合わせ自分の持っている最大の愛を込めて微笑んだ。
「可愛らしい姫さまのことを、見ていたのです。」
そう伝えるとネフライトはふっくらとしたほっぺを薔薇色に染めて笑った。
「嬉しいわ!私もバリオンのことを見ていたのよ!あっそうよ!これを見てちょうだいバリオン!」
そう言ってネフライトがみせてくれたものはとても愛らしい二つの四葉のクローバーだった。こっちがバリオンでこっちが私の!とにこにこしている姿はとても愛らしかった。私はそっとクローバーを胸に抱いて喜びを噛み締めていた。誰よりも愛しい人から貰ったものを誰にも奪われないように、こんな幸せな日がいつまでも続くようにーーーーー
でも、幸せな日は長くは続かなかった。私たちの国が隣国から侵略されたのだ。圧倒的な数の敵に我が国はどんどんと追い詰められた。私たちのいる王宮が敵の手に完全に落ちるのも時間の問題だろう。その前に姫さま達を逃さなければならない。姫さまや王達を外へと繋がる地下通路へ連れて行き自分は彼らを逃す時間を稼ぐことにした。姫さまは泣きじゃくりながら私を置いていくことを拒んだ。
「いやよっ。バリオンも一緒に行かないといや!お願いバリオン一緒に逃げましょうよ!」
「姫さま、皆さまが同盟国に着くまでジャックや騎士達が守ってくれます。ですから安心して逃げてください。」
それでも嫌だと泣き私に縋り付いてくる姫さまをジャックに預け、通路の扉を閉める。姫さまの悲痛な叫び声が耳を離れなかった。通路に気づかれないように急いでその場から離れ、敵がいるであろう廊下に武器を持って出る。やはりそこには他国の兵士がいた。しかし、すぐに死ぬわけには行かない。ネフライト達が逃げるための時間をできる限り多く取らなければならない。両手に武器を構え、次々と敵を殲滅していく。50人以上は倒した頃には、立つのもやっとだった。でも次から次へと敵は湧いてくる。ついに敵の刃が私を貫いた。膝から崩れ落ちる。全ての動きがスローモーションに見えた。そろそろネフライト達は国境を越えられるだろか。無事に逃げてくれるだろうか。幸せになってくれるだろうか。 薄れゆく意識の中考えるのは彼女の事だった。
ーーーーーもし、また会えるなら あなたのそばにいられるなら その時はあなたのことをまた守らせてください ーーーーー
読んでくれて本当にありがとうございます!!感謝しかないです。誤字脱字や感想がございましたら教えていただけるととても嬉しいです(*^▽^*)