中村警部の事件簿 三 「スマホ」
パトカーが道路脇に停車し、中から中村警部、山下が出てきた。
「警部、確かこのビルですよね。」
「ああ。そうだ。」
中村警部、山下は八階建てのビルに入っていった。
「中田弁護士事務所は五階だな。」
中村警部、山下はエレベーターに乗り、五階へ上がった。五階の事務所ではすでに鑑識が現場検証を開始していた。中村警部、山下は事務所に入り、鑑識官に警察手帳を見せた。
「警視庁の中村です。」
「同じく山下です。」
「お疲れ様です。被害者はここの事務所の事務員を務める南山幸子さん二十九歳。南山さんのものとみられるイヤホンのコードで首を締められたようです。凶器からは南山さん以外の指紋は検出されませんでした。死亡推定時刻は昨日の夜の九時から十時までの間です。」
「なるほど。」
「後、現場から気になるものが発見されています。」
「気になるもの?」
「はい。遺体のすぐそばにこちらが落ちていました。」
鑑識官は中村警部に、証拠品用のビニール袋に入った傷だらけのスマホを見せた。画面は粉々に割れていて、一部、中の機会が露出していた。
「これは被害者のものか?」
「はい。ちなみに、調査してみたところ、機種はiphoneで最新型だと言うことが分かりました。」
「なるほど。それで、内部データの状態は?」
「データ自体は一切破損していませんでした。しかし、これといって犯人に繋がりそうなものはありませんでした。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「いえいえ。」
中村警部は遺体に近付き、遺体を観察した。遺体を観察している中村警部の背中にいきなり誰かの手がしがみついた。
「わあ!」
「驚きました?」
中村警部は胸に手を当て、呼吸を整えた。
「死ぬかっと思った。心臓に悪いから今後はやめてくれ、山下。」
「仕方ないですねえ〜。警部をびっくりさせるの面白かったんですけど・・・」
中村警部は事務所の窓から外を眺めた。
(この高さだと地上からは見えないな。)
中村警部は再び鑑識官のところへ行き、鑑識官に声をかけた。
「そういえば、遺体の第一発見者を聞き忘れていたが。」
「それなんですが、わからないんです。」
「わからない?」
「ええ。通報はあったんですが、警察が駆けつけた時に、通報者がいなかったんです。」
「なるほど。声紋鑑定とかで割り出せないか?」
「それが、声が鼻を摘んで出したような声で、正確な声を鑑定することができないんです。」
「なるほど、つまり、被害者以外に事件の鍵を握る人物が今のところ分からないということですか。」
「はい。」
中村警部は鑑識官に一礼し、現場を観察しはじめた。現場を観察しはじめてから五分ほど経った頃、一人の女性が事務所に入ってきた。中村警部は女性に声をかけた。
「この事務所の方ですか?」
「はい。弁護士の中田早紀と申します。ここは私の事務所なのですが、何かあったんですか?」
「ええ。事務員の南山さんが絞殺体となって発見されました。死亡推定時刻は昨日の夜九時から十時までの間なのですが、その間、どこで何をしていましたか?」
「え、私を疑っているんですか?」
「とんでもありません。捜査の参考にさせていただくだけです。」
「その時間なら自宅にいました。」
「それを証明してくれる人や物はありますか?」
「一人暮らしですし、何もありませんよ。」
「そうですか。話を変えますが、被害者を恨んでいる人などはいませんでしたか?」
「さあ、私の知っている範囲であれば特にいなかったと思いますよ。」
「そうですか。ご協力ありがとうございました。」
中村警部は中田のある点に気がついた。そして、鑑識官に声をかけた。
「中田さんのズボンのところに何か光るものが付いていたのですが、もしかしたらすまほの画面のガラスの破片かも知れないので、一応証拠品としてとっておいてくれませんか?」
「え、犯人は彼女なんですか?」
「いえいえ。まだ決まっては無いのですが、犯人割り出しの参考のためにもそのような資料があると良いかと。」
「分かりました。」
鑑識官が中田に付着していたガラス片を取りにいくのを見届けると、中村警部は山下に声をかけた。
「今回の犯人は割と簡単に割り出せそうだ。」
「え、もう犯人が分かったんですか?」
「今依頼した鑑定結果の結果次第で犯人が判明する。」
「そうなんですか。相変わらずすごいですね、警部は。」
「大したことないさ。」
しばらくして、鑑識官が鑑定結果を持って事務所に入ってきた。
「中村警部、結果が出ました。中村警部の思ったとうりでした。中田さんのズボンに付いているガラス片は被害者のスマホの画面の破片でした。」
「ありがとう。」
中村警部は結果の書かれた紙を受け取ると、中田さんのそばへ行った。
「いきなりで申し訳ないのですが、南山さんを殺したのは中田さん、あなたですね。」
「い、いきなり何を行っているんですか!」
「あなたのズボンに付いていたガラス片は被害者、南山さんのスマホのガラス片でした。なぜ、あなたズボンに南山さんのスマホのガラス片が付いていたのでしょうか?答えは一つしかありません。あなたがスマホの画面を何かしらの方法で割ったからです。そして、その時にたまたまガラス片が付着した。そして、スマホの画面を割ったのは状況的に見て、犯人以外に考えにくい。となると、あなた意外に犯人になり得る人はいないんです。違いますか?中田さん。」
「ふん、そんなのたまたまでしょ、何かのタイミングで付着したかも知れないじゃない。」
「いえ、それは考えられません。先ほど、鑑識が発見したのですが、被害者が倒れていたそばにもいくつかガラス片が存在しました。もし、画面が割れてからかなり経っているとすれば、そんな細かい破片はもうとっくにどこかへ行ってしまうと思います。つまり、状況敵に見て、スマホが割れたのはつい最近で、その破片があなたについているということは、状況てきにあなたが犯人だと物語っているのです。もう一度聞きます。南山さんを殺したのはあなたですね。」
「ええ。そうよ。」
「お認めになりますね。」
「ええ。私は、悔しかった。ずっと悔しかった。あいつの方がスマホの操作に慣れてた。写真、メール、メモ機能、スケジュウール機能、何から何まで私はあいつに負けてた。別にその事について何か言われた若じゃないけど、なんだか悔しくて。気がついたらあいつの首を締めてた。馬鹿だな、私。」
中村警部は中田に手錠をかけた。
中村警部は中田に声をかけた。
「そういえば、なぜ、わざわざ警察に通報したんですか?警察に声を変えて通報したの、あなたですよね。」
「多分、私なりに、後悔して、自首しようと思ったんじゃないかな。でも、結局怖くてできなかったんだと思う。本当、馬鹿だね、私。」
犯人を送り届け、中村警部、山下はデスクに戻ろうとしていた。
「そういえば、警部はスマホの便利な機能とか使ってますか?」
「いやいや。全然使ってない。」
「そうなんですか。なんか意外です。」
「そうか?」
「いや、なんとなく、僕の勝手なイメージなんですけど、中村警部は、スマホの機能とかものすごく使いこんなしてそうだな〜なんて思いまして。」
「そんなふうに見えるか?」
「僕には見えましたよ。」
「そうか・・・山下の方がそう見えるけどな。」
「そうですか?僕も全然ですよ。」
「まあ、お互いにもっと頭よくならないといけないのかもな。」
「え、どういう事ですか?」
「え、スマホはスマートホンの略称だろ、頭がいいを英語にするとスマート。つまり、スマートホンを使いこなせる人はみんな頭がスマート。なんちゃって。」
「・・・・・・・・」
「おい、山下、固まってるけど、大丈夫か?聞こえるか?」
「・・・・・・・・」
「はぁ。駄目だこりゃ。俺のギャグが寒すぎて凍りついてる。」
完