其の7 春の女王と冬の女王
其の7 春の女王と冬の女王
それからしばらくして この島の最初の冬は 終わろうとしていました
この島に 二度目の春が訪れようとしているのです
寒さは段々と和らいでいき 空から降る雪も日増しに少なくなっていました
すると 春の女王が暮らす 雪が積もった小さなお城の門の扉が ゴゴゴンと跳ね上げられ 開かれました
春の女王が 塔に向かって旅立つ日が来たのです
春を待ち侘わびていた人達は 春の女王の出発に 大喜びでした
そして 冬の女王にしてあげたように この年老いた女王を助けようと 何人かの人達が一緒に 春の女王と 塔を目指し歩き始めました
春の女王は 年老いていたので 雪を越こえて塔までたどり着くのは 大変そうでした
そこで島の人達は 春の女王の道を作るために 雪を掻分けたり 踏み固めたりしてあげました
春の女王は 暖かな春風を体にまとわせて 積もっていた雪を少しだけ湿らせ解かしながら 雪の中の道を歩いて行きました
そうして いく日も掛かって 春の女王と 一緒に来た島の人達は やっと塔にたどり着いたのでした
春の女王は 塔の扉を軽く押し開いて 中に入りました
そして 長い螺旋階段をグルグルと上って行き 塔の一番上にある広間へ着きました
そこには 人ならば小さな5歳くらいの女の子にしか見えない冬の女王が 石の床に片ヒザをついて冬のお祈りを捧げて居ました
春の女王はその姿を見た時 何とも言えない気持ちになり その場で静かに冬の女王の祈る姿を見つめて居ました
そうして 少しの時間 冬の女王は 春の女王が自分を見ている事に気付かずに 静かに祈りの言葉を口にして居ました
やがて塔の頂上で冬の祈りを終えた幼い冬の女王が 年老いた春の女王を見つけた時には 口をギュッと結んだまま春の女王に抱きついたのでした
「おやおや・・・ずっと独人で寂しかったろう・・・ もう大丈夫だよ よくがんばったね」
春の女王は しわがれ声でそう言って 小さな冬の女王を抱きしめてあげました
「とっても長かったの・・・・ずっと・・・ずっと誰も来ないかと思ったの・・・・」
冬の女王の目には 涙がいっぱい溢れ出しました
「大丈夫・・・もう大丈夫」春の女王は 抱え込んだ腕の中で震えて泣いている冬の女王に 優しく言いました
幼い冬の女王は ここに閉じ込められるようにして過ごした長い祈りの日々が とても寂しくて 悲しかったのです・・・
それでも役目を果たそうと 今まで 涙を流さないよう ジッと我慢していたのでした・・・
「誰も遊んでくれない・・・・誰も話し相手も居ない・・・誰も見ていてくれない・・・・それでも毎日お祈りをしてくれて居たんだね・・・」
春の女王は まだ小さな女の子の冬の女王の 銀色の髪の毛を 優しく撫でてあげました
すると すっかりと安心した冬の女王は 今まで我慢していた気持ちがワッと溢れ出してしまい もう涙も 泣き声も 止まらなくなってしまったのでした
それは 季節の女王と言っても 小さな女の子である冬の女王には 本当に辛いお仕事だったからなのです・・・
それでも 幼い冬の女王は 毎日毎日寂しさにこぼれそうな涙をこらえて 一生懸命に 冬のお祈りを独人で してきたのです
でも今 目の前に春の女王が迎えに来てくれたことで ずっと我慢して張り詰めていた気持ちが緩んでしまい
ジッと抑え込んでいた寂しい気持ちが 次々と溢れ出してしまうのでした
春の女王は石の床に両膝をついて いつ迄も泣き止まない冬の女王を ずっと抱きしめながら優しく言いました「ああ・・・今日まで よくがんばったね・・・・偉いね・・・」
春の女王は 冬の女王を優しくなだめていました
「寂しかった・・・・ ずっと! ずっと一人っきりで寂しかったよ!!」
冬の女王は 春の女王にしがみついて 震えながら泣きじゃくりました
春の女王は「うん・・・うん・・・」と何度もうなずいて 冬の女王の言葉を聞いていました
二人は長い間 そうしていました・・・
すると冬の女王は 少しずつ落ち着いてきたのでした
春の女王は 冬の女王の耳元で穏やかに言いました
「さぁ もう安心だよ・・・・みんなお前さんに ありがとうって言ってるよ」
冬の女王は やっと少しづつ泣き止みました
そして「ほんとう?・・・・みんな ありがとうって言ってるの?」と 不安そうに訊きました
すると春の女王は 優しい笑顔を冬の女王に向けて「ほんとうだよ・・・・冬の寒さも 雪も これから春になる島には とっても大切なものなんだよ お前さんが祈ってくれたおかげで 豊かで素晴らしい春になるんだよ」と言いました
冬の女王は 涙の残った白い頬を薄っすらと赤く染めて「ほんとう! よかったぁ! 寂しかったけど わたし ずっと毎日お祈りしてよかったよ!」と言いました
それから冬の女王は 嬉しそうに笑いました
春の女王はシワのある手で 冬の女王の頬に残る涙を優しく拭いてあげました
こうして 島の最初の四季は一巡ひとめぐりしたのでした・・・