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其の6 驚きの白銀世界と幼き冬の女王


 其の6 驚きの白銀世界と幼き冬の女王




 十日(とうか)を掛けて冬の女王が塔にたどり着いた時 一緒に来た人達は そこで別れました


冬の女王は 何度も何度もこの人達に ちょこんと小さくお辞儀をして お礼を言いました


それから 一人になった冬の女王は小さな手を塔の扉に押し当てました


すると とても小さな女の子が簡単には動かすことはできないはずの重い扉は いとも簡単に開いたのでした


中に入った冬の女王は 長い長い螺旋階段(らせんかいだん)をゆっくりと上って行きました


そうしてやっと 頂上の広間にたどり着きました


そこには 秋の女王が待って居ました



秋の女王は 冬の女王が少し薄汚れていたのと 体のアチコチに擦り傷や切り傷があるのを見て 少し悲しそうに言いました 

「まだ幼き冬の女王よ・・・ その産まれたての小さな体では ここ迄の旅は大変だったでしょ?」


小さな冬の女王は そう言われて少し悲しくなって涙ぐみましたが 直ぐに凛とした顔をして言いました

「大変なのは あなたの方ですよ 秋の女王」


そして次は ニッコリと秋の女王に笑いかけて「ゆっくりと歩いて戻られるのでしたら 白い雪に足を取られて戻れなくなりますから 急がれた方が良いですよ」と 言いました


そうして自分を見上げている 気丈で小さな冬の女王を見つめていた秋の女王は

「あらあら 小さな冬の女王様は どうやら大丈夫みたいですね・・・それは安心安心・・・」

と言って 小さな冬の女王の頭を撫でていました



冬の女王は頭を撫でられながらも 得意気(とくいげ)に胸を張って秋の女王を見上げていました


そんな冬の女王の姿を確かめた秋の女王は 今は小さな女の子にしか見えない冬の女王も 自分と同じ季節の女王としての役目を果たそうとしていると思いました


「それでは 後は冬の女王にお(まか)せして帰らせてもらいますよ」と言って 丁重(ていちょう)なお辞儀を冬の女王にしました



冬の女王も秋の女王に向かって 小さな体を目一杯使って丁重なお辞儀を返しました  


そして二人は 互いに向かい合い 季節の引き継ぎをしました




秋の女王は言いました


「今ここに 秋の終わりを告げます」




冬の女王は言いました 


「今ここに 冬の始まりを告げます 冬の風を!」



役目を引き継いだ 幼い冬の女王のしっかりとしている姿を見た秋の女王は これなら大丈夫とうなずくと お婆さんとはとても思えない軽い足取りで とても楽しそうにハミングしながら歩くと その先の長い螺旋階段を まるでスキップするかのように下りていきました




 秋の女王を見送って独りになった冬の女王は 辺りを見渡しました


すると誰も居なくなった屋上の広間は とても広くて寂しい感じがしました 


幼い冬の女王は一度目をつぶって 白い小さな顔にある赤い小さな唇をキュッと閉じました


それから 冷たい石の床に片ヒザをつき 両手を顔の前で組み 空に向かって静かに祈りの言葉を(つむぎ)始めました


すると 冬の女王の周りには 光の粒のように見えるダイヤモンド・ダストが キラキラと光りだしました




 そうしていよいよ この島に初めての冬が始まったのでした




塔の周りからは 冷たい北風が吹き下ろし 辺りに雪をチラつかせました


これまで冬を知らないシカやウサギなどの動物達は 寒さに震え居場所を探し回りました


リスやネズミ達は まるで昔から冬の寒さを知っていたかのように 木の根元や枯れ草の下に穴をって その中に枯れ草のベッドを作り 木の実を溜め込んで 冬眠の用意をしていました


虫達も木の皮の隙間や 枯れ葉の下に潜り込んで動かなくなり 春が来るのをジッと待ち始めました   


秋の内に すっかり太ったカエルやクマも 土に掘った穴の中に入り 春までの長い眠りに付きました 




それから島は日増しに寒くなっていき 小さな水溜まりは 薄い氷が張りました


やがて島は 高い山々の頂上から白く染まっていきました 




島の人達は 氷も雪も始めて見ました


それは 他の三つの季節とは比べられない とても不思議な光景でした


毎日変わっていく景色に 島の人達は 子どもだけでなく 大人もワクワクとしていました


水溜りに張った氷は 自然が作ったスリガラスのようでした


屋根から下るツララは まるで動物の(つの)のようでしたが 透き通っていたので どんな動物にも無いモノでした 


島の人達は それらを手に持って その不思議な形や冷たさに 驚きました


そして 最後にやって来た雪の美しさには 目を疑いました


それは 一夜で島全体を どこまでも白く覆いましたので 島の人達は まるで空から白いレースが落ちてきて 敷き詰められたかのように思いました  


そうして ついには島全体が白い雪に(おおわ)れた時 


島の人達は 寒さも忘れて とても喜びました




この年の冬は 常夏の島で暮らしてきた人達にとっては とても寒かったのですが


家の中に居る時も 作って置いた毛糸のセーターや 厚手のズボンやスカートを身に着けて過ごし


外に出る時は 毛糸のマフラーを首に巻き 毛糸や厚手の革でできた手袋をはめて 体を冷やさないようにしました  


それでも島の人達は やはり冬と言う季節は なんて寒いのだろうと思いました


しかし この島に始めての訪れた最初の冬は 本当はそんなには寒さも厳しくはなく 雪も少なかったのでした・・・


ですから 島の人達が用意していた食べ物や 家を暖めるためのまきも 十分に足りそうでした


そうして島の人達は これなら なんとか冬を乗り越えることが できそうだと思いました 


それは 冬の女王は まだ幼かったので 冬の季節を呼び寄せる力も まだまだ弱かったからなのです


島の冬の季節は これから年々と冬の女王が育っていくほどに 少しづつ少しづつ (きび)しくなっていくことになるのです・・・




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