其の2 混乱と希望と石積みの塔
其の2 混乱と希望と石積みの塔
四季の島の真ん中辺りにある 小高い丘には 大きくて立派な お城がありました
この島を治める王様は そこに暮らしていて 島の人達を見守っていました
今の王様は 王様のお父さんから王様を引き継ぎました
王様のお父さんは お爺さんから王様を引き継ぎました
そのお爺さんの王様は ひいお爺さんから王様を引き継ぎました
ひいお爺さんの王様は ひいひいお爺さんから王様を引き継ぎました
そしてさらには・・・と さかのぼって数えると 今の王様は8人目にもなるのでした
そうして この島の王様は ずっと引き継がれてきました
これ迄の王様達は いつも島の事を考えてくれていたので 島の人達は安心して暮らしてきました
遠い昔にいた 『一人の王様』を除いては・・・
お城から山の方を見ると ずっと遠くに霞んで見える大きな丘の頂きがありました
なんとそこには 石を積み上げられて作られた お城よりも遥かに高くて とても大きな塔が 建っていたのでした
この立派で とても大きな塔は 人々からは 四季の塔 と 呼ばれていました
塔は 遠い昔から この島にありました
それは 王様が暮らすお城よりも ずっと・・・ずっとずっと昔から ここに建っていたのでした
お城だけではありません 島に誰も住んでいない頃から・・・虫や 鳥や 動物しか この島にいなかった頃から この塔は ここに建っていました
この塔は 人が建てたものでは無いのです
では 誰が建てたものなのでしょう?
それは 誰にもわかりませんでした
そうして この塔は遥に長い時間 誰にも知られる事も無く
ただただ ここに建っていたのでした
やがて この島にも人が移り住んできました
島と言っても この島はかなり大きいので 人々は長い間この塔を見つけることは ありませんでした
そんなある日 丘にそびえ立つ この塔を見た人達は とても驚きました
それは こんな高い建物を 今まで誰も見た事は無かったのと
塔の周りに 人が住んで居ないだけでは無く 人が住んで居た『あと』さえも どこにも 見当たらなかったからでした
どうしてこの塔は ここに在るのか?
人々はとても不思議がって 色々と調べましたが 入り口の扉があること以外は 何も解りませんでした
そして この入り口が大問題でした
それは どんな事をしても開けることができなかったからでした
力持ちが扉の取っ手を掴んで グッと引いても 押しても ビクともしませんでした
取っ手にロープを縛り付けて 馬で引いても 大勢の人達で引っ張っても 全くダメでした
「なんて不思議な扉だろう」と、人々は言いました
「なんて不思議な塔だろう」と、人々は言いました
それから人々は この塔のことを 色々と噂しました
「こんなものは 人には作れるワケはない」
「きっと 神様が作って この高い塔の上から 島の人達のことを 見守っているのだ」
そうしている内に 人々は あまりにも不可思議なこの塔のことを 『神様が住む塔』 と言い始めました
それから 100年経ちました
島には もっと多くの人が住む様になりました
人が多くなるにつれて 島には色々な問題が起こるようになりました
「僕が畑にすると言ってあった場所が 隣の牧場主に勝手に取られてしまったよ」
「隣町へ渡る橋は いつになったら直るのかしら? だれか暇な人は居ないの?」
「海に海賊が現れて 船が通れなくなってしまった だれか海賊退治をしてよ」
皆んな口々に勝手なこと言い合い 勝手なことをし始めたのでした
やがて 島の人々の間で 争いが起こりました
その争いは さらに大きくなっていって 村々の間でも 町と町の間でも起こりました
島は 人々の争いが絶えなくなり やがて 島を出て 他の島へと行く人達も 現れました
島は 段々と 暮らしにくくなってしまいました・・・。
「こんなことでは 島で安心して暮らせない」
「きっと皆んな こんな島から 出て行ってしまう」
人々は思いました
『誰か 島の皆んなのことを考えてくれる 立派な人は 居ないだろうか?』
人々は言い始めました
「他の島には 王様が居て 皆んなのことを考えて 皆んなのために 島の人々に役目を与えて 仕事を分担するんだ」
「それは良い 皆んなをまとめてくれる 立派な人が居ないだろうか?」
「誰か 立派な人が この島の王様になってくれないだろうか・・・」
やがて 人々の話を聴いてくれて 皆んなのために 皆んなを導いてくれる
優しくて 頼りになる 立派な人が現れました
人々は 彼に「島の皆んなの 王様になって下さい」と お願いしました
すると彼は「本当に 私で良いのですか? 私が王様になって大丈夫とは 私には思えません」と言って 断りました
すると人々は 彼でなければ誰も王様はできないと思っていたので とても残念な気持ちになりました
「あの人ができないのなら 他の誰にも この島の王様になれる人はいない」
「もう こんな島には住みたくない この島を出ていこう」
そう人々は言い いよいよ この島で平和に暮らすことを あきらめようとしました
すると そんなある日 一人の男が あの彼のもとを訪ねて来て言いました
「あなたは 自分は王様になれないと言いました でも 島の人々は あなたに王様になって欲しいと願っています」
すると彼は「皆んなに頼れましても 今の島の人々の争いを収めることは 私にはできません・・・」と言いました
「それなら 塔に住んで居いると言う この島の神様に 会ってみてはくれませんか?」
彼は 男のその言葉にとても驚きました
なぜなら あの不思議な塔に 神様が住んで居るところなど 誰も見た事は無かったからでした
彼は訊きました
「あの神様の塔には 本当に神様が住んで居るのですか?」
すると男は 黙ったままうなずきました
「私のために 神様が声を掛けてくれるでしょうか?」彼は 男に訊きました
「きっと大丈夫ですよ 神様も この島の人々のことを とても心配しているのですから」
男はそう言って「私も行きますから どうか一緒に来て下さい」と 彼にお願いしました
彼は 男の熱心さに負けて 神様に会えなかったとしてもいいと思い 一緒に塔まで行くことにしたのでした
そして二人は十日掛けて 丘の上にそびえ立つ不思議な塔の下へと たどり着いたのでした
彼はどうしたら中に入れるのかと思いながらも 入り口の扉に手を掛けようとしました
すると彼を連れて一緒にやって来た男は 彼を止めて「いまご案内致しますので おまかせ下さい」と言いました
それから男は 扉に手を当てながら 知らない言葉で扉にむかって話し掛け始めました
それは とてもとても長い言葉を 扉に向かって並べ立てているようでした
すると今迄 誰も開けることができなかった塔の扉が 音もなくすんなりと内側へ開いたのでした
男は「さあどうぞ ここからは神様に会うために あなた独りで中にお入り下さい」と言いました
そう言われた彼は この不思議な塔の開かない扉を開いた この不思議な男の言うことを信じて 中に入ることにしました
塔の中には 直ぐに石の階段が上に向かって 続いていました
外からは穴もなく 明り取りが無いように見えた塔ですが 中には陽の光はないものの 壁に備え付けられたロウソクの明かりで照らさせて よく見えました
彼は このロウソクが不思議でした いったい誰が いつから火を灯しているのだろうと思いました
それで つい近くに寄って そのロウソクをよく見てみました
彼は 驚きました その火の付いたロウソクは 全く溶けていないのです・・・
「なんてことだろう このロウソクは いったい いつから火を灯していたのだろうか・・・」
彼が見ている間 火のついたロウソクは 少しも短くなる様子はありませんでした
「いつ迄も 消えないロウソクだ・・・」
彼は このロウソクには 特別な魔法が掛かっていると思いました・・・