表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

手がかり

 同僚三人と社長が帰ってから二時間。僕はいつものように残業をしていた。とっくにゲームは買ったけど、文字を打つだけでお金が貰えることが楽しくなってきていた。今日も終電ぎりぎりまで頑張ろう。

 途中経過を保存しようとすると突然、僕のデスクの電話が鳴った。こんな時間に誰だろう。不思議に思いながら僕は受話器を取った。


「……はい、有限会社タカモリコーポレーションです」

「あ、よかった、まだいた。もしもし、M君?」


 この声……Ⅲさんか。ということは。


「Ⅲさん?」

「うん、ごめんね。Nがさ、S君の会社の番号しか知らなかったから」


 なるほど。無事にNさんに引き取ってもらえたのか。Hが来たのが一週間前だから再会からちょうど二週間……。そんなに時間がかかるのか、あの暗号は。


「暗号解けた?」

「一応ね。Nにパソコン買ってもらってたから時間かかっちゃった」

「解くのにパソコンがいるの?」

「いや、ネットの人たちに解いてもらってたんだ。ネットの悪い人たちにね」


 そうか、“あそこ”ってのはネットのことだったのか。ってかやばい。あれ社外秘なんだけど。


「あの暗号、誰かに教えちゃったの」

「え? ああ、漏らすなって言われてるんでしょ。大丈夫、あそこは見つからないから。それで、本題なんだけど……」


 Ⅲさんは一呼吸おいて話し始めた。


「この暗号、世界中で話題になってるみたい。M君らみたいな未成年……、正確には十六から十八までの所謂高校生と呼ばれる人たちが、国からの指示で暗号を打たされてるらしいよ。しかも情報漏洩にすごく敏感で、知恵袋なんかに書こうものなら一発逮捕だって」

「ええ……。なんでそこまで」

「内容が問題なんだよ。この暗号、一見難しそうに見えるけどめちゃくちゃ簡単なんだ。この暗号が初めて送られてきたときには、すでに悪い人たちに解かれてたよ。送信者以外はね」


 Ⅲさんの声がいきなり低くなった。背筋に悪寒が走り、僕は暖房を入れた。


「なんで送信者がわかんないの?」

「さあね。どこの誰の文書なのかがまったく特定できない。匿名化ソフトを何十、何百と重ねて完全に秘匿にしてるんだ」


 謎だ。必死に隠れて意味不明な文を送っている謎の人物。


「で、さっそく解き方を教えよう。この暗号はヴィジュネル暗号を応用したものだ」

「ヴィジュ……、え?」

「まずAからZまでのアルファベットを縦と横に並べる。座標みたいな感じでね。次に、縦のAと横のAが交わるところにa、縦のAと横のBが交わるところにb……って感じで並べて表を作るんだ。縦の文字がBのときはbから始めてaで終わる。縦の文字がCのときはcから。ここまでわかる?」

「いや、全然わかんない」

「まあ詳しいことはヴィジュネル方陣って調べれば出るから。それで、前貰った暗号文なんだけど、今から言うからメモして。いくよ」


 僕は急いでメモ帳を取り出してペンを持った。


「6、A、U、B、B、C、K、B、A、A、C、F、I、S、G、D、I、N、B。書いた?」

「うん」

「よし。この文の最初の数字の六は、文字を何個ずらすかを表してる。シーザー暗号みたいにね」

「あ、それ知ってる」

「ああ、この紙に書いてあるしね、六個ずらしたやつ。でもずらすのはそこじゃなくて、縦と横が交わってる部分だ。つまり――」


 と、そこまで言ったところで電話が切られた。「え? もしもし?」と声をかけるが反応がない。

 電話線が抜けたのだろうかと、僕は電話本体を持ち上げたりひっくり返したりしてみた。そして見つけてしまった。


「……なにこれ」


 電話の裏側に取り付けられた小さな機械。前までこんなのはなかった。そして、それがどういう用途で使われるのかも僕はすぐにわかった。

 僕は機械を取り外して叩き潰した。誰かに聞かれていたんだ。僕への警告で電話を切った。一体誰が……?


 僕は一瞬であいつの顔が思い浮かんだ。そして、あいつが来たときに僕のデスクを触っていたことも思い出した。


 僕は暖房を消してすぐに家に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ