終
「―そう言う訳で、この神社は鬼を神様として祀っているんだよ。ほら、あそこにある細い道、あの道の奥に供養塚がある。興味があれば、行ってみると良いよ。」
宮司が指を差し、手水舎から左へ続く小道を教えてくれた。
「おや、いけない。雪が降って来た。洗濯物を干したままだ。それでは、私は失礼するよ。」
そう言って、静かに降り始めた雪に宮司は慌てて社務所へ戻って行った。
立花は透明なビニール傘を開くと、先程教えられた細道へ足を向けた。
雪がハラハラと傘の上に落ちて来て、寒さもグッと増した気がする。
供養塚に続くその道にも椿が咲いていた。
立花はその椿に導かれる様にして、小道を歩く。
歩いた事も無い道が、胸が痛くなる程に懐かしい。
そして、小道の奥、辿り着いたその場所は一面の赤で…
立花はビニール傘超しに、雪の降る空を仰いだ。
そうしなければ、溢れて来た涙が零れてしまいそうで。
静かに降り続く雪の中、立花は喉から出てきそうになる嗚咽を必死で堪えていた。
どれだけの時をその塚の前で立ち尽くしたのか、背中で鳴いた「オン!」と言うその声に、立花は恐る恐ると振り向いた。
「タロ…?」
振り向いたその先、錆色の犬が椿を咥えて立花を見上げている。
そうして、目を見開いた立花の前で、その犬の体はゆっくりと溶けて形を変えて行き…
錆色の体毛はクセのある長い黒髪へ、両の耳は天を向く様に尖り、頭頂部の右側には白銀の角が生え、瞳は黄金色に輝いて…
立花の瞳からは堪え切れなかった涙が、止めどなく零れて行った。
唇が震える。
何か言わなくては、けれど、何も言葉に出来ない。
そんな立花に、黄金色の瞳を細め、一つ角の黒い鬼は一輪の椿を差し出して問い掛ける。
「我に名を与えてはくれまいか?」
幾千の想いが込められたその椿を、その日、立花は漸く受け取った。




