十二話
氷の様だったさえの体は一転して高い熱を持ち始めた。
意識が朦朧とするさえの耳に、荒れ狂う風の音が聞こえた。
「また吹雪か…」
隙間から吹き込んだ風雪が囲炉裏の炎を揺らしている。
「…『黒鉄』は生きているんだな。」
さえは目を閉じたまま、黒鬼に事実を確かめた。
黒鬼はさえの額の汗を拭って肯定する。
「奴はおまえと共に激流に飲まれて行ったが、深手を負えど、死んではいないだろうな。」
「…奴が里を襲うのは、いつだと思う?」
「奴の負った傷の程度にもよるが、少なくとも、この吹雪が止むまでは襲っては来まい。」
「そうか…」
「ああ、だからおまえも今はゆっくり体を休めるが良い。」
黒鬼の手がさえの頬を撫でた。
その温かさを感じたまま、さえの意識はそこで途絶えた。
さえが目を覚ましたのは翌日の昼を過ぎた頃だった。
暫く続くと思われた吹雪は幾分か落ち着き、雪は吹いているものの外を出歩けない程のものでもない。
「熱もある、まだここで休んでいた方が良い。」
「馬鹿を言うな、吹雪は止んでいるんだ。急いで里に戻らねば。」
黒鬼の手を払い、さえは囲炉裏の火で乾いた着物を羽織った。
そうして、狩猟小屋に予備として置かれていた弓を選び、箙を背負う。
手早く支度を済ませたさえに、黒鬼は何度目か分からぬ溜息を吐くと、無言でさえの体を持ち上げた。
「!何をする!?降ろせ!」
「どうせ言っても聞く耳を持たぬだろう、かと言って、その体で山を降りる程の体力もあるまい?ならば、我が抱えて行こう。」
「要らぬ世話だ!降ろせ!」
「強情を張るものではない。疾く里へ戻りたいのであろう?」
その言葉に、さえはぐっと押し黙った。
確かに、傷だらけで体調の悪いさえの足では里に戻る頃には、陽が沈んでいても可笑しくはない。
さえは渋々と黒鬼の肩に手を乗せた。
狩猟小屋を出て雪の吹く中、さえを抱えた黒鬼は出来るだけ振動を抑えて走っていた。それでもかなりの速度で走るので、さえの手は縋りつく様に黒鬼の首へと回された。
雪を駆け、さえの里が一望出来る場所へと差し掛かった時、黒鬼の足がピタリと止まった。
訝しく思い、さえは黒鬼の眼差しを辿った。
目に飛び込んだのは幾つもの黒煙。
「そんなっ…」
雪の吹く中、炎に揺れる里の姿がそこにはあった。




