番外 華麗なる王太子妃3
「さぁて」
王都警備隊の事務室に戻ったシルビアは、隊長の席に座った。
「私はシルビア・ワイズバーン。
この度、王都警備隊の大隊長に就任することになっている。
まずは、ここの改革をする。
8隊が交代勤務で昼夜2隊ずつ王都警備になっているな。それと王都周辺の警備に2隊ずつ。
1隊20名ほどか。
まずは全員に私を超える技量を要求する」
その場にいたのは、先ほどシルビアに叩きのめされた兵や事務官達。
「妃殿下、それは無謀です」
デルタがシルビアに詰め寄る。
「私はここでは実績がない、権力でこの地位にいる。
諸君を叩き上げることが私の実績になり、有事の時はそれが諸君の命を守る」
ぐぅ、とデルタが言葉を止めたのをシルビアが面白そうにする。
「何か言いたそうだな。遠慮なく言えばいい、それで処罰することなどしない」
では、と前置きしてデルタが言葉を紡ぐ。
「妃殿下にとっては足掛かりのためでしょうが、俺らにはここしかないんです。
街の警備なんて、戦争じゃないんですよ」
「それだけの腕を持っているお前が言うか。
警備兵が強ければ、未然に防げる犯罪も多かろう。民の生活の安全に直結する。
街が強ければ、それは他国への牽制ともなる」
それに、とシルビアは続ける。
「お前達も重臣達も間違っている。
王都警備隊の認識が低いようだ。もっと誇っていい軍である。
王太子妃の指揮下の軍だ、王太子指揮軍と対比する軍と思え。
だが、今の状態では意識が低すぎる。身をもって思い知らせてやろう」
ネイデールでもずいぶん反発があった、ワイズバーンでも覚悟していたシルビアだ。
そのシルビアと、王都警備隊の兵士では迫力が違い過ぎた。
「妃殿下」
報告に来ていたミッシェル・ドリトルが声をかける。
「中隊長は独房に収容しました。王族への侮辱ということで重罰になります」
「ドリトル隊長、王族へのではない、女性への蔑視だ、見せしめにしてやる。
それは任せた。
私は街の警備に出る」
立ち上がるシルビアに、ミッシェルをはじめ全員が止めに入る。
「おやめください!」
「妃殿下!」
「大隊長は指示だけするのが普通です!」
結局、ミッシェル、デルタがシルビアの警備について街で出た。
シルビアの乗る馬は、ネイデールから連れて来た栗毛の軍馬。
豊かなブロンドに美貌、誰もが見惚れる乗馬姿に街の人々の視線が集まる。
だらけてカードをしていた兵までも、緊張をもってシルビアの後をついていく。
王太子妃が単独で警備隊に来るのもありえないのに、そのまま警備に出るなど狙ってくれと言っているようなものだ。
ましてや、街の人々が集まってくると、さらに危険が増す。
兵士達は、コソコソ後ろで話している。
「妃殿下が隊長である限り、俺ら命かかってる気がする」
「もしもなんて、許されないよな」
「この妃殿下、何するかわかんないぜ」
「王太子殿下って勇気あるよ」
自分達の命がかかっているなら、訓練も命がけだ。暴言を吐いた中隊長のようになる可能性だってある。
意図せず兵士のひっ迫感が強くなっていく。
シルビアが大隊長に就いたことで、王都警備隊の練習には令嬢達の見学が増え、増々兵士の士気はあがり、活気が満ちていった。




