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悪役令嬢は男装の麗人  作者: violet
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盗賊と王太子

視察の町に立ち寄って、それが盗賊の被害を受けた直後だとわかった。

本来ならば、小麦の視察だったのだが、町はそれどころではなかった。

貯蔵庫が狙われて燃えているのだ。


この地方は山の尾根で国境となっている。

谷間の平地に隣国へ続く道が走っており、高い尾根だけでなく、山中の低い所も国境線となっている。

そこを盗賊達は往来しているようだ。根城は山中の何処かにあるのだろう。

そこまで、調べはついているのに捕縛が出来ない。

ネイデールもワイズバーンも国境という線で、苦い思いを何度もした。



盗賊は小麦粉や売上金を盗んで、逃げ足は鈍っているにちがいない。

シルビアは予定を早め、視察に同行した騎士を王太子の護衛と、盗賊討伐班に分け、ワイズバーンの討伐隊がいる場所に伝令を送った。

ネイデール側とワイズバーン側両方から山に入り、盗賊団を追い込む作戦である。



「殿下、これより討伐隊は盗賊を追い、山狩りに入ります」

シルビアは、ユークリッドに報告をする。

シルビアが第2部隊司令官、ユークリッドが第1部隊司令官、軍では地位に大差はないが、ユークリッドは王太子だ。

シルビアにしてみれば、出発前に盗賊退治はすでに打ち合わせが終わっているものという扱いだが、ユークリッドは、出立には自分に許可を取るべきだと思っている。


「第2部隊司令官、殿下からお言葉があります」

二人の意識の食い違いを埋めるように、ロイスが言葉をかける。


先に気が付いたのは、シルビアだ。

左手を胸にあて、王太子に礼を取る。

「長く逃げ回っている盗賊だ。

ワイズバーン側に引けを取らぬよう、ネイデール王国の力を見せよ」

ユークリッドの言葉に、ロイスが横目で睨む。


シルビアに駆け寄り、そっと手を添える。

「怪我に気を付けて」

軍服の妹を心配するドレス姿の兄は、シルビアの後ろに控えているヒューマとメイヤーに目配せする。


必ず守り抜きなさい。




ヒューマもメイヤーも言葉にしないが、心に染みが生まれていた。

王太子は自分の婚約者の心配をしない。

自分が忠誠を誓ったのは、王家ではなくシルビア自身であると自覚していた。


僅かな装備を持って山に入る。

馬でどこまで進めるかはわからないが、盗賊が通った(わだち)を追う。

いくばくもしないうちに、盗賊達の声が聞こえるぐらい近寄ることが出来た。

想像していたより、大人数で簡単にはいかないだろうと思えた。

それでも躊躇する余裕はない、山中に散らかって逃げられてしまえば、捕縛が難しくなる。


シルビアが剣を抜いて振り上げれば、それが合図となり、全員が突入を始めた。

軍馬に乗った騎士は、すぐに盗賊に追いつき乱闘が始まった。


先頭を走っているシルビアが盗賊に斬りかかるが、盗賊達も反撃に出て、打ち合う刀音が辺りに響く。

剣技は騎士に適わないが、山中では盗賊が有利だった。


足場が悪い山の中、地の利は盗賊にあり、苦戦する状態が続く。



ヒューマもメイヤーもシルビアを守るように戦うのだが、シルビア自身が守らせてはくれない。

先頭に飛び出していく。


シルビアの細身の剣が、舞うように宙に振り上げられる。

ブロンドが(ひるがえ)り、シルビアの身体が舞い出る。

ザン!

シルビアの軍服に返り血が飛び、剣が血に染まっていく。


シルビアに見とれたのはヒューマだけではない。

剣技も腕力も体力も騎士達の方が上だが、シルビアはスピードを重視して最初の一撃で決着をつける。



「綺麗だな」

聞きなれない声が聞こえた時には、シルビアの前に立つ盗賊にナイフが刺さっていた。


ナイフを投げたのは、林の中から飛び出してきた一群の一人だった。

「ワイズバーン王国軍、参上した!」

大きな喚声と共に、盗賊に斬りかかっていく。


一人も逃すまいと、ワイズバーンとネイデールの騎士達が盗賊を取り囲む。



神出鬼没で、国境を越えて逃げ、何度討伐隊を組んでも探し出すことができなかった盗賊団がとうとう討伐された。

盗品を積んだ荷車も血で染まり、死体が折り重なるように累々と転がっていた。


「治療兵、ケガした騎士はどれぐらいいる?

メイヤー、このままアジトを襲撃する。元気な者を集めてくれ」

シルビアは休む間もなく指示を出していく。


ガサ、落ち葉を踏む音に振り返ると、ワイズバーンの軍服を着た指揮官がいた。


「挨拶が遅れました。

私はネイデール王国第2部隊司令官レーベンズベルクです」

シルビアが握手の手を出すと、男は跪き、握手に出したシルビアの手の指先を持つと唇を付けた。

慌ててシルビアが手を引こうとしたが、男がシルビアの手を握って離さなかった。

ヒューマが飛び出そうとして止めたのは、男が名乗ったからだ。


「私は、ワイズバーン王国王太子、マーベリック・セド・ワイズバーン」

マーベリックが立ち上がると、シルビアの手を離す。

「美しき戦姫、貴女を有するネイデール王国が羨ましい」


「王太子殿下直々(じきじき)とは失礼いたしました。

御無礼は承知しておりますが、今盗賊のアジトは手薄になっているはず。

このまま突入したく思います」

「それは、賛成だ」

マーベリックが指示を言葉にする前に、ワイズバーン軍が盗賊が向かっていた方向に走り出した。


「ネイデール軍が突入して血路を開いてくれた。

今度は我が軍が先行します」

マーベリックはシルビアが反論する間もなく続ける。

「貴公達は姫の守りとみた。

今しばらく、姫を預ける」

ヒューマとメイヤーを見る事もなく声をかけると、マーベリックもワイズバーン軍を追って馬にかけ乗った。


「治療兵、ケガ人以外は私に続け!」

シルビアが騎乗すると、ネイデール軍もワイバーン軍に遅れることなく山奥に向かい駆けて行く。




王太子マーベリック登場です。

出会いが盗賊退治というのもシルビアらしいというか・・・

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分で前線に出るぐらいだからマーベリック殿下も腕に覚えアリなんだろう。 その殿下が見惚れる剣技かー。 すごいな。
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