返り討ち
うっすら暗さを感じる部屋に、茶会から時間が経ったのだと思う。
クララはベッドに身体を起こし、周りを見た。
そこに、シルビアがいるのを見つけると、自分が王女のお茶会で体調を崩し、客室に通されたのだと思い出した。
「お前、お茶に何を淹れたの!」
ベッドボードに身体を預け、シルビアを睨み付ける。
「殿下のお茶会で粗相をするなんて、お前のせいよ!」
文句を言う顔も可愛いが、中身は可愛くないようだ。
「私は何もしてません。元々体調が悪かったのでは?」
言いがかりも甚だしいと、シルビアが眉をあげる。
話を聞こうと待っていたが、王女の前の楚々とした様子は演技だとわかった。
「言葉」
クララがシルビアに強い口調で言う。
「私は伯爵令嬢よ。王宮の侍女のくせに、言葉の使い方もわからないの」
ああ、そうか、とクララが意地悪そうに笑う。
「王女殿下のお世話も大変ね。男の服を着せられて、侍従ごっこかしら。お茶会の余興にしては、令嬢達には受けていたようね」
クララはシルビアが侍女で、身分も低いのだと決めつけている。
絨毯は足音を消し、シルビアが動いても足音はしない。
椅子に腰かけると、ゆっくりと足を組む。その仕草は優雅で、クララでさえ見とれるほどだ。
我にかえったクララが、シルビアを睨み付ける。
「誰が座ることを許可しましたか!
図々しい、王女の客である私が許可してません」
「横暴だな」
シルビアが、椅子のひじ掛けに置いた片手にあごを乗せて言う。
「初対面の男にはしなだれかかる様だったというのに」
それは、劇場のことだ。
「私は侍女ではないし、ましてや王女に男装を指示されたのではない」
シルビアの言葉に、やっと自分の過ちを悟った表情をするクララ。
「私は公爵令嬢だ」
ひっ、とクララが息を飲む音が部屋に響く。
「王太子の客である」
シルビアが指をならすと、隣の部屋に待機していたヒューマが現れ出た。
「ユークリッド様~」
声に甘味を乗せてクララが呼び掛ける。
ヒューマの方は、クララを一瞥した後は目もくれないが、クララはそんな事を気にしていないようだ。
「そこの男女が、苛めるの。私は体調がよくないのに」
「おとこおんな?」
ヒューマがクララの言葉を反芻する。
「シルビア様は、我が剣をささげた方。そのような言われ方をされるべきお方ではない!」
ヒューマの憤りに、クララはヒューマにすがるように仰ぎ見る。
「やめておけ」
シルビアがヒューマを止める言葉を口にすると、ヒューマもそれ以上は言わない。
「男には媚を売り、女ならば身分で威圧的になる。なるほどな」
シルビアは死刑判決のように言う。
「私の嫌いなタイプだな」
ヒューマはシルビアの後ろに立つと、無言でクララを見下す。
今までクララがすり寄れば、男達は甘い顔をしたのかもしれない。
そういう事があるからこそ、クララはヒューマが自分を助けると思ったのであろう。
「アステル伯爵令嬢、貴女の好きな権力をかさに、というやつをしてみようか?」
シルビアが微笑んでいる。




