マーベリックの策略
マーベリックとシルビア、二人の足音だけが響く王宮裏手の庭園には、静かで夕陽が二人を包む。
「そりゃ、不安になるよな。悪かった」
まるで、女心を見透かしたようにマーベリックが言うのが、癪に障る。まるで嫉妬しているみたいではないか。
シルビアは前を歩くマーベリックに、次は蹴りだと考えていた。だが、実行する気にはならなかった。
所詮、出会う前の事だ。噂はマーベリックのせいではない、噂の回収を下手しているのが問題なのだ。
ガゼボに案内したマーベリックは、シルビアに席を勧める。シルビアの目の前には爽やかな緑が広がり、夕陽が葉を照らす。
「綺麗だな」
シルビアの言葉に、マーベリックが笑みを浮かべる。
「ここは王宮の奥深く、花の少ない庭園で人が少なく、お気に入りの場所なのだ」
木々の足元に花が咲いているが、庭園というより林といえる木の量である。
「劇場でダンディオンと会ったのだって? ダンディオンには時々調べに行かせている。
問題は噂ではないのだ、噂を広める必要のある人間」
クララの様子を見れば、か弱い素振りをしているようにしか見えない。そして思慮深いようにも思えない。
「伯爵令嬢には会ったぞ?」
「彼女ではない。彼女に噂を広めるように指示しただろう人間。令嬢と懇意にしている役者。彼は他国の諜報だ」
思わぬ方向に話が進み、役者はよく見なかったと後悔するシルビア。
「彼女と付き合っている時に、偽情報を伝えたら、他国に伝わった確認が取れたぞ」
え?
まさか?
「お前、自分で囮になったのか?」
シルビアが、クララと付き合ったのは諜報を謀る為か、とマーベリックを睨む。
「ダンディオンも言っていたろう?
王太子殿下も若い男。サンド侯爵家の手前、特定な女性を作らないが、一時的に遊びはあるようだ」
「自分で言うな!」
シルビアが、マーベリックの足を踏む。
「痛い、シルビア、話は最後まで聞けって」
マーベリックがシルビアの足を、自分の足の上からどかす。
「そういう事にしておくと、動きやすかったんだ」
ごめん、とシルビアに断ってから、マーベリックは続ける続ける。
「誰かを好きになる気持ちを知らなかったから、そんな事が出来たんだ。
今は、シルビアに嫌われるのではないか、とビクビクしている。だから、全部話すよ」
それで、さっきのごめん、なのかとシルビアは溜息をつきたくなる。
「戦争をしかける要因を探す、とかではないようなんだ。ただの情報収集なんだろう。
ただ、その方法が伯爵令嬢を対象者に近づける事なんだ」
「どうして令嬢は、そんな事に協力するのだ?国を裏切る行為だぞ」
シルビアには、クララが理解できない。
「今になって、私は少し理解出来るよ。許される事ではないけれどね」
マーベックは視線を、シルビアからガゼボの外の景色に移す。シルビアも、マーベリックの視線を追いかけて1本の古い木を見た。
「好きな人を喜ばせたい、役に立ちたい。ごく当然の行為だが、限度がある」
マーベリックがシルビアの指をなでる。
出会い頭に、理由も聞かず殴った負い目があるシルビアは、好きなようにさせている。
「シルビアは何をして貰いたい?欲しい物はあるか?」
シルビアが、マーベックの手を払いのける。
「今は私の事は、関係ない」
「残念、落ちるかと思ったのに」
真剣な話をしていたはずのマーベリックが、失敗したとばかりに言う。
「諜報とか、嘘か?」
シルビアが、怒り心頭でマーベックに聞く。
「本当の事だ。ただ、いい雰囲気になったからシルビアが頷いてくれないかと」
何を頷くのだ!? 言葉になる前に、シルビアの足はマーベリックを蹴っていた。
残念マーベリック・・・
シルビア、お手柔らかに。




