幕間の出来事
やっと気づいたのか、クララが部屋の中を見渡す。
ヒューマとダンディオンの他にもう一人の存在を認めたようだ。
綻ばせた表情が一瞬で凍てつく。
男性と思ったのが、よく見ると女性とわかったようである。この場にそのような女性がいるのが不思議であったが、ヒューマの興味をひくことを優先させたようである。ヒューマから離れたが、側に居座る。
「アステル伯爵令嬢、そろそろ幕が開きます。お席に戻られた方がよろしいかと」
ダンディオンがクララを下げようとするが、ヒューマが止める。
ヒューマは、何も言わずともシルビアの意向を汲んでいた。
クララは、ヒューマがダンディオンを止めるのを見て、益々ヒューマに権力があると思い、見たことのない顔なので、他国の高位貴族であろうと確信する。それならば、ダンディオンが案内するのも道理であろう。
「ご令嬢は、王太子殿下の側妃になられるとお聞きしましたが?」
ヒューマの問いかけにに、クララは悲しげな表情をする。
「決して望んでなどいません。正妃様が嫁いで来られるのに。噂には迷惑しているのです」
肩を震わせ、頼りなげな仕草である。
「お慕い申し上げた方ですが、諦めようとしているのに、つらいです」
うまい、思わずシルビアがうなる。
クララのように可愛い顔で言われると、力になりましょうという男性が多かろう。
「長くおじゃまいたしました。私は席に戻ります。
とても素敵なお話ですので、どうぞお楽しみくださいね」
そう言ってクララは、ボックスを出て行った。
「どう思う?」
口を開いたのはシルビアだ。
「たおやかな普通のご令嬢という感じです。俺の名前を尋ねなかったのは、多分、内密に来ている国の要人と思ったのでしょう」
ヒューマの感想は、シルビアも同じである。
「ええ、とても頭の回転のいいご令嬢です。男性関係の多い方ですが。」
ダンディオンが、説明する。
「シルビア様もご存知の噂を調査するために、こちらに来たのです」
「そして、噂ぐらいでは処分するわけにいくまい。」
さて、彼女は何を引き出すために、こんな噂をながしたのだろう。
「噂自身が彼女によるものだろうか?」
ダンディオンがシルビアの言葉にはっとする。
「こんな噂になるほど、彼女は殿下を好いていたのだのろうか?」
舞台も終わり、クララが伯爵家の馬車で戻るのを確認して、シルビア達も王宮に向かう。
「シルビア!」
突然王宮の王太子執務室に現れたシルビアに、マーベリックが抱きつかんとばかりに突進してくる。
ガン!
マーベリックはシルビアに頬を殴られた。
「街でお前の噂を聞いた。婚約前の事をとやかく言うつもりはないが、まさか側妃にしたい女がいるとはな」
シルビアも噂に過ぎないとわかっていても、言いたくなるのだ。
「違う、シルビアだけだ」
焦るようにマーベリックは答える。
「シルビア、ここでは何だから庭を案内しよう」
王太子の執務室でする話ではない、とマーベリックがシルビアを誘う。
事務官達に、少し席を外す、と告げてマーベリックはシルビアと部屋を出て行く。
「ヒューマ殿は、着いていかれないのですか?」
居残るヒューマにダンディオンが確認する。
「お二人にした方がいいかと。それに少し調べたい事がありますので、お手伝い願えないでしょうか?
シルビア様から頼まれた事があるのです」
ヒューマが声を潜めれば、ダンディオンの顔付きも変わる。




