伯爵令嬢の陰謀
前回、投稿のおりに完結設定になっていたようで、申し訳ありませんでした。
スマホからの投稿で触れたことに気が付かず、そのまま投稿してしまったようです。
今後、気を付けます。
王都とはいえ、街にいるシルビアが伯爵令嬢と接点を持つのは不可能に近い。
反対を言えば、王太子の恋人だとか、貴族の情報を平民がよく知っているというのが不審なのである。
街に噂を流している者がいる。
煽っている誰かがいる。
目的は何だ、と考えて単純に浮かぶのは、王太子の結婚式。
マーベリックが惚れただけでは済まない状態になっている。ネイデールは王の交代と内政改革で、一時的とはいえ弱体化しており、ワイズバーンとの友好は絶対必要なのである。
国境を接する旧ガイメル辺境伯領地は不安定で、メイヤー・シュテフが統括するまで、時間が必要であろう。
近いうちに、ウーシュデルタも王太子が王位継承となるであろう。それは、近隣諸国が若い世代に交代していく過程であるが、政情不安な時期である。
ワイズバーンは、ザンド侯爵の処罰で不安要素を取り除いたはずだった。
それが、ここで結婚間近の王太子に不義の噂。
王太子の結婚式となると経済効果は大きく、ましてや他国の姫君だ、普通は歓迎一色なのに、結婚前から側妃など姫君の国を冒涜していると思われても仕方ない。
王都を歩き回ったが、噂はあちらこちらで聞かれた。
マーベリックは、何をしている!
噂を知らないはずはあるまい。
「シルビア様。嫁いで来ても、夫になる王太子には恋人がいる哀れなお姫様だそうですよ」
笑いをこらえて、ヒューマが数軒の店から集めた情報を伝える。
「私がか?
哀れなのは、不貞をする夫だろうに。」
なあ? とシルビアが返すと、たしかに、とヒューマも頷く。
「半殺し程度で済ませてくださいよ。治せない傷は国際問題になります。
第一、王太子殿下はそんな事されてませんよ」
ヒューマがマーベリックの肩を持つのを、面白くなさそうにシルビアが聞いている。
「それでも、私にこの噂を知られた時点で、マーベリックには処罰が必要だな」
どうしてやろう、と楽しそうなシルビアである。
「シルビア様」
ヒューマの声色が変わった。
「かの伯爵令嬢には、懇意にしている役者がいるようです」
「ふーん、そこなら令嬢に会えるかな。
王太子という恋人がいるのに、その役者は男なんだろう?」
ゾフィなら伯爵令嬢の事を知っているだろうが、今から手紙を書いても調べた方が早いだろう。
ユークリッドの時は相手の令嬢に忠告する程度だったが、マーベリックとなると叩き潰そうと思っている自分に、シルビアは苦笑いする。
もちろん、その役者も調べてあり、午後から舞台があるとヒューマは報告する。
劇場は装飾の凝った建造物で、たくさんの貴族達が観覧に来ており、バルコニーやギャラリーの個室は貴族に独占されていた。人気の劇団であることが窺える。
ボックス席を購入に行ったヒューマが連れてきたのは、ダンディオンであった。
「シルビア様、どうしてここに? いや、アエルマイア殿がいらっしゃることで覚悟はしてましたとも」
会場に入る人込みの中に、ダンディオンを見つけたヒューマが凄いというべきだろう。
当然、シルビアとヒューマはダンディオンが用意していたギャラリーに潜り込んだ。伯爵令嬢の予約したバルコニーが観察できる位置にある。
バルコニーの伯爵令嬢を確認しながら、シルビアはダンディオンに追及の手を休めない。
「街で、王太子殿下が側妃を娶ると聞いたが?」
「とんでもありません! そんなことはありえません」
慌てるダンディオンは否定するが、シルビアが許すはずもない。
そしてとうとう吐いた。
「王太子殿下もいい年の男性です。それなりにお付き合いのあった女性もいました。遊びと割り切れる奔放な女性達で。婚約者を決めない為に、そういう女性を選んでいたはずですが・・」
「なるほど、そのうちの一人があの伯爵令嬢か。顔だけは清純そうなのにな。
おおかた相手の姫君に、あることないこと暴露するとでも言って側妃を要求しているということか?」
「遠からずということです。殿下はきっぱり却下されてますが、民の間に、隣国の姫との結婚が決まって、妃にするという約束を破って捨てられそう、と噂をながしているのです」
妃にするからと関係を迫った王太子が、隣国の姫と結婚すると噂を流せば、国民感情は自国の令嬢を庇うということか。
「今の殿下はシルビア様お一人です、どうかお見捨てなさらないでください」
ダンディオンが這いつくばらんばかりに、シルビアに訴える。
シルビアの処刑リストに、マーベリックの名前が追加された。




