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悪役令嬢は男装の麗人  作者: violet
49/70

西塔の書庫

暴力的で残酷な表現と、変態を想像させる表現があります。ご注意してお読みください。

 ピクン、とヒューマがもたれていた壁から身を起こし、読んでいた本は閉じられ机の上に置かれた。

 そっと、書架の影に身を隠し、息を潜める。

 

 ヒューマの行動を感じながら、シルビアは何事もないように書庫の中央にある机に本を広げて読んでいる。椅子から立ち上がる気配すらない。


 静寂に包まれ、古い書物を保管している西塔の書庫は少し黴臭(かびくさ)い。訪れる人も少なく、窓から光が射し込むが部屋全体には届かない。昼だというのに薄暗ささえ感じる。


 扉が開かれ、風が流れ込む。

 本から顔をあげたそこには、王が立っていた。王族だけあって、王も整った顔をしている、若い頃は美男子であったのだろう。

 美しい顔の好きなシルビアだが、王の(かも)し出すイメージが嫌いすぎて近寄るのもイヤである。


 


「近くで見ると、ますます美しいな」

 王がシルビアに近寄って顔を見つめる。

「陛下」

 王のにやけた顔が気持ち悪い、殴りたい、ガマンするシルビアが怯えているように見えたのか、王がさらに図に乗った事を言う。

「可愛いな、震えているのか」

 まさか! 声を出さなかったシルビアはガマンした。

「名は何という?」

 シルビアはガマンして答えなかった。

「王ということで恐いのか? 後宮に部屋を用意したからな。まさか、婚約者か夫がいるのか? 心配しなくともいいぞ、私がなんとかするからな」

 シルビアはガマンした。

「抵抗しようなどと思うな。王の力は絶対なのだから、そうすれば可愛がってやる」

 シルビアはガマンした。

「王に愛される栄誉を与える、光栄だろう」

 シルビアは、ガマンした。

「後宮の他の女達は追い出して、お前を1番にしてやるからな」

 シルビアは、ガマン出来なかった。



 ガーン!!

 王の身体が飛ばされ書架に当たると、本が大きな音を立てて雪崩落ちた。

 身体を起こした王が、驚いたようにシルビアを見る。蹴り飛ばされたのに、何が起こったか分からないようだった。

 

 ダン!

 シルビアの足が王の顔を踏みつける。

「王だから、何でも許されると思うな!」

シルビアの靴の下で、王が小さな悲鳴を上げている。大声が出せないようだ。

「誰か・・誰か」

 王の手は震えていて、若い頃は武術の訓練をしただろう王族であっても、それを続けていないと証明している。


「周囲に人を寄せないようにしてから、ここに来たのだろう? 助けが来るかな?」

 楽しそうに言うシルビアは見惚れる程、綺麗だ。


 王の顔から足を降ろしたシルビアは、王の脇腹を蹴る。

 ゴホッ、王の口から息が漏れる。

「これは、女達の無念だ」

 王の腕を踏む。

「これは、恨み」

 王の足を蹴る。

「これは、怒り」

 這いながら逃げようとする王の背後から、尻を蹴ると王の悲鳴が書庫に響いた。

 シルビアは、王が気を失わないように手加減している。

「これは、悲しみ」


「どうだ? 女遊びは好きだろう? 堪能するがいい、楽しいだろう?」

手で触りたくないシルビアは殴らない。足で頭をグリグリする。


「やめてくれ、何でもやろう。金か宝石か? 助けてくれ」

王が(すが)りつくように、シルビアの足にすり寄る。


「女達も助けてくれ、と言っはずだ? お前は許したのか?」

 (すが)りついていた王を振り払い、蹴り上げる。


 

 ガン!!

 壁に激突した王の意識はない。鼻血を流し、顔や手足は腫れて変色している。



「ヒューマ」

 シルビアが呼べば、全てを見ていて、いつでも飛び出せる状態で待機していたヒューマが書架の裏側から出て来る。


「俺の出番はありませんでしたね」

 王を一瞥したヒューマが、顔の腫れぐらいを推し量る。


「いや、これからが出番だよ。私は王に触りたくないからね。手筈(てはず)通りに」

 シルビアは、いやそうな顔をして横を向く。




 王が発見されたのは、西塔と中央を繋ぐ渡り廊下だった。倒れたままで意識は戻ってなかった。


「陛下が乱心ー!」

 王を探していた侍従が発見したのだが、大声をあげて助けを呼びに行った。

 その声で、たくさんの人が集まってきたが、誰もが目を疑うような光景がそこにあった。


 廊下に倒れている王は、意識が戻っていなかった。

 真っ赤なドレスを着ているが、裾は捲くりあげ、下半身は衆人の目の前に露出している。

 顔は腫れあがり異様な姿だが、裸の下半身のインパクトが強すぎて、そこに人の目がいかない。




 人目に付かないように、王を麻袋に入れて運んだのはヒューマである。着替えもヒューマがしたので、ドレスを奇麗に着せ付けられていない。

 (うまや)にヒューマが着くと、先に来ていたシルビアがヒューマを労わる。

 「ありがとう、私では触れないから助かったよ。 さすがにあの状態の王では、すぐに王太子に王位譲渡となるだろうな」


 シルビアとヒューマの馬は、王が見つかり王宮が大騒ぎしている喧噪に紛れ、人目に付くことなく王宮を出て行った。

 

 ヒューマにも聞こえない小さな声でシルビアが、ロイスに謝る。

「豪華なドレスであっても、女装が似合うのは大変だな。兄上はすごいな」



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― 新着の感想 ―
[一言] 「豪華なドレスであっても、女装が似合うのは大変だな。兄上はすごいな」 シルビア...(^ω^) 言わなきゃいけない感想は、多分ソコぢゃない(爆)
[一言] ああ…まぁ手は出してないんで大丈夫ですね!(笑)
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