ロイスの思惑
シルビアはロイスからの連絡を受け、王都に戻って来ていた。
もう王太子の婚約者ではないけれど、軍の司令官としてシルビアに会議の出席要請が来たのである。
中断された会議が再開されるのだ。
軍の総司令官は王であるが、形式だけで部隊長が実質の権力者である。戦争から遠ざかっていた為に、3部隊をまとめる総司令官が必要なかったのだ。そして現在司令官はシルビアだけで、部隊長は第3部隊長だけである。
受け取った手紙には、詳細は書かれていなかったので、会議の前にロイスから話を聞くべく、王宮にあるロイスの部屋に向かっているのだった。
いったい、どうなっているんだ。ユークリッドが王になり、前王の死去。順番が逆である、これでは王位簒奪のようではないか。
ユークリッドは王太子として優秀だが、きっとロイスが裏で糸を引いていると確信していた。
それに、ガイメル辺境伯領地での処理を報告せねばならない。
コンコン。「兄上」
部屋をノックすると、確かめる事もなく扉が開かれた。
「あー、シルビア良かった。後ろのボタンが留まらないのよ、お願い」
ロイスはシルビアの前に立ち、背中を向ける。いつもの侍女達はどこにいったんだ?
「わかりましたから、ともかく部屋にいれてください。」
そう言いながら、シルビアはロイスを中に押し込むと、自分も後に続く。
「侍女はどこにやったのです?」
シルビアがボタンを留めながら確認すると、ここもとロイスが他のボタンも指す。
「シルビアが王都に着いたと報告受けてたから、来ると思って人払いしてあったの」
完全に女言葉のロイスに、機嫌は良くないと悟る。
「はい、兄上。お綺麗ですよ」
そう?とロイスの機嫌が少し良くなったようである。
「もうねー、手間取っちゃって大変」
ロイスが姿見で確認しながら、ドレスの裾をはらう。
「強硬手段だけではダメなのだ。これからユークの時世を安定させる為に、融和も必要なのだ。その為の会議である。最終的には思い通りに進めるが、説明や確認は必要だろう?」
前王までは、王の権力は絶対であり、大臣達も王の部下にすぎなかった。ロイスは、少しづつ変えていこうとしているのだろう。
「それで?」
それはユークリッドの思い通りではなく、兄上の思い通りですよね?と確認したいシルビアである。
「今の軍の最高権力者は、残念ながらユークリッドではなくシルビア、お前だ。名ばかりの総司令官より、共に戦闘した司令官が信頼あるのは当然だ。ヒューマ・アエルマイアは置いていけ。軍の中でヒューマ・アエルマイアが一番信頼されている。誰もが納得のできる剣技で、飛び抜けているからな」
「嫁ぎ先に勝手に着いて来ますよ」
シルビアが鼻で笑うように言うが、そうだろうな、とロイスも相槌を打つ。
「メイヤーは家族のいる領地がある。兄上に預ける」
それでもメイヤーの忠義は、ユークリッドにない。永遠にシルビアに捧げられているのを、ロイスには分かっている。
シルビアのエスコートでロイスが会議室に入る。そこだけが優雅な演舞会場のようだ。
堂々とする様は、周りの目を惹きつける。
シルビアとロイスに導かれるように、王ユークリッドが歩み出る。ユークリッドが着席すると、レーベンズベルク宰相とレーベンズベルク司令官は王の両隣に座る。ネイデール王家の血筋の結束は、会議に招集された人々に強い印象を与える。
ユークリッドが立ち上がり、会議の始まりを告げる。
それは同時に、新しい国の始まりでもあった。




