布告
会議に王太子が王として着席し、大臣と高位役職の貴族がざわめく。
会議の始まる前に王太子が即位したことを告げられた時には、怒声のごとく声があがった。
やはり、軍事クーデターか、と口々にする。
王は幽閉されて数日立っているとか。
騒ぎにならないのは大臣達は了承していると、思わざるをえない。
なかには、間違った噂も回っている。王太子が婚約破棄した時に連れていた女性の言うがままに決行したらしい。
不確実な噂は流れていたが、箝口令が敷かれているかのように、真実と決定づけるものは何もなかった。
そして報告されるのは、辺境伯領地の没収。
それは、多くの貴族達に驚きをもたらしたが、今更だった。大軍が出兵するのを隠しようもない、それが辺境伯領に向かったのは周知のことだった。
辺境伯といえば、国を守る要の一つである。国王の信頼厚く、息子は近衛の部隊長。しかし、王族の命を狙い、謀反を策略したというのだ。
蜂起の準備の為に兵士を集結させている所を、取り押さえられたとあっては言い逃れはできない。辺境伯と嫡男は討ち取られたと報告されても異議を唱える者はいない。
しかも狙われたのが、隣国ワイズバーン王国王太子に嫁ぐレーベンズベルク公爵令嬢とあれば、戦争さえありうる。
それが、王も係わっていた故の王位交代になったという。
中央に座する王からロイス・レーベンズベルクが新たに宰相として就任し、この場にいない数名の大臣の辞職が告げられていた。
誰もが、前王派の大臣が任を解かれたと察していた。
会議室の扉が開き、別室に控えていた事務官が、ロイスに駆け寄り密かに報告をする。
ロイスは一瞬の沈黙ののち、ユークリッドに告げた。
「前王がみまかられました」
聞いた言葉を何度も頭の中で復唱して、ユークリッドが再度ロイスに確認する。
「どういうことだ?」
急に囁き合う二人に、大臣達でさえ、注目して様子を窺う。
「詳しいことはわかりませんが、首を吊ったらしい。幽閉生活がお辛かったのでしょう」
ロイスは、想像ですが、と付け加える。
「そうか。詳細がどうあれ、これは自殺でなければならない」
小さな息を吐き、背もたれに身体を預けたユークリッドは暫く、目をつむる。
新王であるユークリッドの異常な様子に、会議室は静まっていく。ロイスは何も言わない。
ガタン、ユークリッドが席を立つのに合わせて、大臣や出席者が視線でユークリッドを追う。
「先ほど、前王が幽閉先で自害された」
一斉に沸き起こる声に、会議室が騒然となる。
パンパン。ロイスが手を叩くと、一瞬皆の注目が集まる。
「会議は中止とする。先ほど決定した事項は通知とし、新王の布告と共に公表されるだろう。前王のことはこれから確認するが、公表になるまで他言されぬよう。心の弱い方であった、前王の不名誉な形にならない様すべきと思っている」
ユークリッドはロイスを見るが、出たのは違う言葉だ。
「母上にお知らせしてくる。それでなくとも、今回のことで心弱っておられるので心配だ」
緊急招集の会議は中止された。




