辺境伯
残酷な表現があるので、お気を付けください。
シルビア自身の手で復讐の第2弾は過激になっています。
第3部隊長の言葉通り、第3部隊の活躍は目を見張るものであった。
第1部隊が精鋭であることは間違いないが、第3部隊も引けを取っていなかった。第3部隊から第1部隊に昇格するには貴族が有利であった。平民であるが為に第1部隊に昇格できない精鋭が数多くいるのだ。
メイヤーは頭の中に入れた城の地図を頼りに、辺境伯の居場所を確認していく。戦闘準備に入っているからには、ゆっくり寝室にいるとは考えにくい。
まさか、こちらがこれ程早く反撃体制になっているとは、思っていなかったろう。
あちらこちらで討ち合いの音が聞こえる。
辺境伯の私設軍も国境の緊張が無くなって等しく、盗賊退治にも参加しなかった。 実践がないように思えたが傭兵が多く、国軍も苦戦せざるをえなかった。
「シルビア様」
呼ばれた方を見ると、廊下の扉を確認していた兵士達が一つの扉を包囲している。その兵をかきわけてシルビアが部屋の中に入って行くと、男を取り囲むように数人の騎士がいる。
小さな灯りの薄暗い部屋には、見慣れた顔があった。 元第2部隊長トニー・ガイメル、探し求めていた人物である。
「久しいな。髪は少し伸びたか」
剃髪され、街の柱に全裸で縛り付けられたことを、シルビアは思い出させるように言う。
暗闇の中から飛び掛かって来たのは第1部隊の兵士なのだろう。シルビアと同行していた第1部隊の兵士が顔をゆがめながら剣を討ち止める。
「私はシルビア・レーベンズベルク第2司令官だ。貴君達に命令した王は幽閉となった。王太子殿下が即位され、我々が正規軍となった。投降せよ!」
シルビアが声をあげる。
「嘘だ! そいつの言葉を信じるな!」
元とはいえ、部隊長でありながら兵士の後ろに隠れるようにして叫ぶトニー・ガイメル。
近衛隊長の美しい顔は、暗い欲望で醜く歪んでいる。
「投降しないものは、賊軍として討ち取る」
シルビアが片手を挙げると、背後から数人の兵士が前に出る。
その顔を見て、投降する騎士が剣を降ろす。同じ第1部隊の騎士を見て、シルビアの言葉を真実と悟ったのだろう。
王の命令を受け、国の為に辺境伯領に来た騎士達だ。シルビアとて忠義の騎士を失くしたくはない。
それでも抵抗する騎士と、シルビア側の騎士との討ち合いが始まる。
そしてシルビアが目指すのは、トニー・ガイメル。シルビアの細い剣がトニー・ガイメルの頬をかすめる。
「逃がすわけないだろう?」
ニヤリと笑うシルビアは、残酷な笑みを浮かべる。
「辺境伯はどこだ?」
シルビアの剣は、深くない傷を腕につける。足に腰に顔に、傷が増えていく。まるでネズミを甚振る猫のように。
「2階の正面玄関の上の部屋だ」
身体中が傷だらけになって、元第2部隊長ははいた。
「一番高い塔から逆さに吊り下げろ」
シルビアが部下に、連れていけと命じる。引きずられていく男に最終宣告をする。
「生きていなくとも、3日後には引き上げてあげるよ」
正面玄関の上の部屋で辺境伯が待っていた。それは覚悟を決めた者の顔をしており、息子のトニー・ガイメルと比べようもない風格があった。
このような人物でも、家名を守る為に息子の罪を隠蔽するような過ちを犯すのだ。
第3部隊長イーサン・ナダルがシルビアの前に進み出る。
「どうか、ここは俺に指示を」
シルビアは頷くと、第3部隊長は剣を振り上げ、突進した。
シルビアは先攻で突入し、トニー・ガイメルの一戦で疲労していると第3部隊長は確信していたのだ。 辺境伯は老齢とはいえ、剣技で名を馳せた人物である。
老いたとはいえ、辺境伯の腕を見くびってはならない。
ヒューマがシルビアの元に戻った時には、全てが終わっていた。
シルビアは新王に急使を送る。
『ガイメル辺境伯、討ち取る』




