急襲
王都を軍馬が駆ける。向かうはガイメル辺境伯領地。 それは大軍であった。第1部隊、第3部隊の編制軍である。
指揮を執るのは、レーゼンベルク第2部隊司令官。
軍馬のあげる土煙が延々と続く。
王都に残る第2部隊の指揮はユークリッドに預けてきた。
隣国にはシルビアが嫁ぐのだ。今の時点で国境強化をする必要はない。そこを武装するのは、王家への謀反と取られても仕方ない。
前王が庇護することが間違いなのだ。
辺境伯の城壁が見えて来て、シルビアは馬を止める。要塞のような城の中は戦闘準備が出来ているはずだ。仕掛けるタイミングは夜に決めている。
それまで気取られないように、離れた場所に軍を隠す。
夜の闇にまみれて奇襲するのだ。
「司令官が先頭とは危険すぎます」
第3部隊長が止めに入るが、周りも無駄だと諦めている。
シルビア、ヒューマ、メイヤー、第1、第3部隊の選抜者が黒衣に身を包み、闇の中を足音を忍ばせて駆けて行く。
城壁に楔を打ち、よじ登っていく。ひらりと内側に降りると、打ち合う音が聞こえ、しばらくすると門が開けられた。
先発隊が開けた門から本体が突入する。
城内の地図は頭に入っている。
シルビアは迷いもなく、行く手を阻む相手兵士を斬っていく。
「許せ、同じ国の兵士なのに」
シルビアは走る。
第2部隊長だけではなく、第1部隊長も討ち取らねばならない。第1部隊は剣技で選別された部隊。その部隊長だ。
シルビアが敵う相手ではない。
ザン!
シルビアの前に飛び出したヒューマがシルビアを止める。
「ここは、俺に任せてください」
ヒューマの刀を持つ手に力が入っている。
「メイヤー、シルビア様を守れ」
ヒューマの横をメイヤーが駆けて行く。
シルビア達が遠ざかったのを確認して、ヒューマは暗闇に声をかける。
「第1部隊長殿、お久しぶりでございます」
ガザガサ、闇から出てきたのは大柄な男。
「久しぶりだな」
「何故にガイメルなどと引っ付いたのですか?」
カン!
剣と剣がぶつかり、一歩を引かない両者。
「王命であったからだ」
王が道を外せば、こうなるのだ。
シルビアが第1部隊まで管理することに、苛立ちを感じていたのだろう。そこに、王からの指令。
「ユークリッド王太子殿下が、王となられた」
ヒューマの言葉に、第1部隊長は目を見開く。
「そうか」
正規軍であった自分達が、賊軍となったと分かったのだろう。
「兵士達は、王と第1部隊長である自分の命令で派兵されているのだ」
第1部隊の兵士達を庇う姿は、立派な男である。
「貴方が投降すれば、兵士達も続くだろう」
ヒューマは、同じ国軍で争う必要はないと言っている。
「分かっていたのだ。 ガイメル第2部隊長が司令官を殺害しようとした事を。それは自分の不正を隠す為のものであった事も。だが、例え王が間違っていると分かっていても、王に捧げた剣を翻す事は出来ない」
かかって来いとばかりに、第1部隊長が剣をかまえる。
シルビアに与えたお飾りの司令官職で、シルビアが不正を暴くなどの予想外の有能さを発揮するまでは、長き間良き王であったのだ。
シルビアが赴任するまで不正が多かった。それをシルビアは叩きつけたのだ。
ヒューマが踏み出す一歩は速い。
かろうじて避けた第1部隊長は、その足でヒューマを蹴りにかかる。
シルビアの副官として第2部隊に配属される前は、ヒューマも第1部隊だったのだ。訓練とはいえ、何度も手合わせた相手。かつての上官だ。
「第2部隊に行って、俺の腕が怠けたと思っていたら大間違いだ。シルビア様の剣は速いだけではない、空気まで斬るんだ!」
第1部隊長の蹴りをかわして、ヒューマがさらに斬り込む。
カン!
剣が交じる音が響く。
普通に優秀な王である時代もあったのであろう。
騎士は王に忠誠を誓い、補佐である公爵も王の為に尽力をつくし、国を豊かにしたのだろうが、どこで王は道を違えたのか。
レーベンズベルク公爵は兄弟だからこそ見限り、騎士はそれでも忠臣であろうとした。




