出陣の準備
ガン!
王太子の執務机が蹴られた。
「シルビア落ち着いて」
ユークリッドが言うが、シルビアに睨まれるだけである。
「それを手をこまねいて見ていたと?」
机を蹴ったのはシルビアだ。
「シルビア、淑女のすることではない」
シルビアが部屋を見渡すのを、ロイスが笑う。
「やっと気づいたか。
いくら王の権力と言っても、言いなりになりはしない。
メイヤーと数名が事務官として、入り込んでいる」
メイヤー・シュテフの姿が執務室にないことを説明する。
「それで、辺境伯には私設軍の他に第1部隊長はどれぐらい引き連れていったのだ?」
王太子の部屋の警備の近衛兵の殺害未遂は、犯人の自供でトニー・ガイメルを捕まえるには辺境伯の力は強すぎた。
辺境伯が兵をあげ、元第2部隊長トニー・ガイメルの保護に乗り出したのだ。
それを擁護に付いたのが、王と第1部隊長。
「第1部隊は王太子が司令官だろう、どうして部隊長が裏切るのだ?」
しばらく国を空けていたいた為に、シルビアには状況がわからない。
「王族の司令官は飾りだ。
実権は部隊長が持っていた。
それが、シルビアが第2部隊長に赴任すると、王太子の婚約者ということで第1部隊のチェックもいれただろう?
第1部隊長にすれば、おもしろくなかったということだ。
王という旗印があれば、正当性を言えるからね。
第1部隊は半分ぐらいが、辺境伯に付いた」
「探れば痛い腹がある人間ということだったんだな?」
ガイメル辺境伯と繋がりがあった、と考えるべきか。
「王も王太子が譲位を進めているのに気がついた」
ロイスが、王対王太子だという。
「直ぐにでも軍を率いて辺境伯爵領に向かいたいが、王都を開けるのも不安だったんだ。
シルビア、丁度良かったよ」
ニッコリ笑うロイス。
「わかりました、私が辺境伯爵領に向かえばいいのでしょう?」
シルビアが部屋の外に出ると、人払いされた執務室の外で待機しているヒューマが従う。
「近衛は王宮の警備に必要だから、第1と第3部隊を集合させる。
第3部隊長を呼んで欲しい」
「はい」
第2部隊司令官室に向かうシルビアから、ヒューマが離れる。
シルビアは、人のいない第1司令官室に向かうと、第1部隊に集合をかける。
第1部隊は、訓練中であったが、部隊長の不在は王太子から説明を受けているらしく、シルビアの指示に不満はでない。
「我々は、軍の精鋭と自負しております。
部隊長の事に、不信のある者がここに残っております」
第1部隊を代表して一人が、シルビアに膝をつく。
「既に説明を受けていたか。
これからガイメル辺境伯爵領に向かう。
軍備を急いで欲しい」
シルビアの言葉が終わる前に、ヒューマに案内されて第3部隊長が到着した。




