レーベンズベルク家の朝食
レーベンズベルク公爵家では、今朝も公爵が食後の胃薬を飲んでいた。
朝一番に報告を受けた公爵は、食堂で向かいの席に座っている娘を見る。
「死刑囚を内密に我が領地に運んだと?!」
胃がキリキリ痛んできた。
「もちろん、ワイズバーンでは既に死亡扱いになってます」
それが何か? とシルビアは食事を続ける。
胃が痛い。
公爵は胃に穴が開くかもしれない。
反対にロイスは笑いをこらえてお腹が痛い。
「どれ程の悪行で死刑なのだ?」
耐えきれず、笑いながらロイスが聞く。
ロイスは隣国に間諜を入れている。
内密に処刑された為にその情報はまだ来ていないが、王宮の王家私室で侍女が亡くなり、情報確認中の連絡は受けている。
「私を殺そうとしたら、そこに王太子殿下もいたので王太子の殺害未遂。
それと巻き込まれて侍女が一人亡くなりました。
可哀想なことをしました」
シルビアの言葉は正しく伝わったのだろう、公爵が胃の辺りを押さえて丸くなっている。
「フローレンスが危ない!
そんな危険な男を預けるなんて」
それなのに、妻の事が心配で声をあげる。
「父上違います。令嬢です」
シルビアの指摘は公爵を怒らすだけである。
「つまりは、シルビアはその令嬢を気に入ったのだね?」
ロイスは、やはりな、と思いながら確認する。
ユークリッドとの婚約だって、ユークリッドの顔が好きだから続いていたのだ。
きっと美しい令嬢なのだろう。
「兄上に劣らずといえる美女です。
服毒して意識朦朧でありながら、シルビア様ごめんなさい、と涙していたのです。
残念ながら、もう私を狙う事はないようです」
娘の言う残念の意味が理解できない公爵だが、ロイスは違うようだ。
「もうちょっと頑張ればいいのにね」
それは、ロイスのシルビアに対する信頼だが、公爵の胃を圧迫する。
キリキリ、公爵の胃の痛みの音が聞こえるようだ。
「ゾフィは私が憎いのではなく、王家と実家に絶望したのです」
シルビアは、ゾフィの事情を話した。
いくら理由があっても他人の命を奪うことは許されることではない。
ゾフィもよく分かっているはずだ。
だからこそ教会にいたのだろう。
そして、一番常識的な公爵の胃が傷んでいく。
「ところで兄上、部隊長はどうしました?」
「処分した」
はいお終い、とばかりに端的にロイスが言う。
「まさか、家を潰して終わり、ではありませんよね?
あいつには情状酌量などと、ありませんから」
「それは、執務室でつめよう。楽しい事態になっている」
コーヒーのお代わりを受けながら、ロイスがシルビアに目配せする。
二人が食事を終え、食堂を出ると公爵は溜め息をつく。
「二人とも、可愛い子供なのだが」
と言葉が続かない。
家令を呼ぶと、家の指示をする。
「私は、フローレンスが心配だから領地に行ってくる。
ロイスには手紙を出しておくから、後はロイスに従うように」
そうして登城の準備を始める。
公爵は王弟として、王の補佐の仕事をしているが、今の王はいささか王道を外れていると思っている。
子供達の事は理解出来ないが、王は許容範囲を越えている。
何度も王を諌めてきたが、補佐を辞して領地に帰ろう。
子供達のする事が想像出来るだけに、胃を守ってもいいだろう。
レーベンズベルク公爵は、王に病気療養の為に職を降りる事と領地に戻る事を告げ、許可が降りるとそのまま領地に向かった。
悪役令嬢がいっぱいです。ソーニャ、ゾフィ、大ボスのシルビア。
シルビアは正義を貫いているのに、誰よりも悪役・・・
これから元第2部隊長への断罪が始まります、楽しんでいただけると嬉しいです。




