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悪役令嬢は男装の麗人  作者: violet
35/70

土産

シルビアは帰路の途中に、領地にいる母親に婚約の報告に寄っていた。

シルビアもロイスも、母親には心労をかけている自覚があるので、時々領地に顔を出している。


久しぶりの母親との対面ということで、ヒューマは別室で待機している。

休憩なしでワイズバーンから駆けてきたのだ。

シルビアは馬車だが、馭者と騎乗のヒューマは一睡もしていない。

馬も休ます必要があった。

領地の屋敷に着いて荷物を運び入れると、シルビアから休養を言い渡された。

それほど急いで領地に来たのだった。



ワイズバーンからの土産(みやげ)の中に大きな衣装箱があった。


「母上、客間を用意していただきたい」

そう言ってシルビアが箱から取り出したのは、大きな人形。


「シルビア?」

シルビアが抱き上げた人形をよく見ると、人形ではなく人間だとわかる。

ぐったりとして動かない様子に、公爵夫人フローレンスが駆け寄る。

(さら)ってきたのですか!?

熱があるではありませんか!」

箱の中に入れられて運ばれるのは、隠密に運ばないといけないからだ。

フローレンスは娘が誘拐してきたとしか思えない。

シルビアを客間に誘導しながら、人形に見えた人間の様子を伺う。


通された客間のベッドに寝かすと、黒髪がシーツに広がる。

熱が高いのだろう、白い肌は紅潮し、息はあらい。


「誘拐したのではなく、(もら)ってきました」

重かったとばかりに、シルビアが肩を回す。

「王太子殿下と私の暗殺未遂で毒を飲まされましたが、死体になる手前で貰い、解毒薬を飲ませました」

箱に入っていた人間は、ゾフィ・サンド元侯爵令嬢。

「盗んだわけではありませんよ。王太子殿下の許可も得てます。

死体を遺棄するのを、死体になるちょっと手前で処分されただけです。

飲ませた毒の解毒薬を与えたのですが、本人に生きる意志がないので回復が遅れてます」

マーベリックは、解毒薬で助かる見込みは五分五分だろうと言っていた。

服毒させる毒は、それほど猛毒なのである。


「シルビア!」

娘の言葉に信じられないとばかりに、フローレンスが悲鳴をあげる。

それには驚きもせず、シルビアがにっこり笑う。

「母上へのお土産です。

いつも可愛い娘が欲しい、と言っていたではありませんか」

それは、シルビアへの愚痴だ。


犯罪者を連れて来られて困るが、意識のない若い娘を放り出すことも出来ない。

それを分かっていてシルビアは連れて来たのだ。


普通の貴族夫人ならば、箱から人が出てきた時点で卒倒していたかもしれない。

だが、フローレンスは、常識を逸脱した娘と息子のせいで、耐性が出来ている。


「罪を犯し、侍女が一人亡くなりましたが、彼女も哀れな令嬢なのです」

シルビアは、ゾフィの事情をフローレンスに話す。

「もう今さら、返せませんから」


ゾフィの話に思うところがあったらしく、フローレンスの瞳は濡れている。

フローレンス自身が、第2王子の婚約者であったのだ。

どこの国も、婚約を決めるには簡単にいかない。


「わかりました。シルビアが私を頼ってくれたのですから、預かりましょう」

フローレンスも、結婚前に王子妃教育を受けた。

今、ゾフィを王都に連れていけないぐらい分かる。


「婚約おめでとう。

婚約者の王太子殿下はどのような方ですか?」

婚約の報告に来たはずが、とんでもない土産が先になり、このまま帰るつもりの娘にフローレンスが問いただす。


「私を妃にと望むぐらいの変人かな」

シルビアが一瞬戸惑ったのを気が付かないふりをするフローレンス。

「よかった、望まれて嫁ぐのですね」

フローレンスは嬉しそうに言うが、念を押すことを忘れない。

「ロイスが付いていくと言っても、拒否するのですよ」

「当たり前です!

兄上は、この国に必要です」

答えながらも、ありうる、と思ってしまうシルビアだった。



シルビアは馬車をワイズバーンに帰し、ヒューマを伴い騎乗で王都に向かった。

フローレンスはそれを確認してから、医者と侍女を呼んだ。

「この令嬢を着替えさせてちょうだいな」

ベッドに眠るゾフィは、教会にいた時のままである。

蛇を投げ込んだ侍女に扮したままなのだ。

教会から牢に連行され、尋問、服毒、ネイデール王国のレーベンズベルク領まで輸送、着替えることなどない。

薄汚れた姿で髪の艶も無くなっている。


お湯で髪と身体を拭かれ、薄い寝着に着替えさせたら、見違えるように美しくなったゾフィは、フローレンスのお気に入りになった。

「早く起きないかしら。

寝ていても奇麗な顔だから、目が開くのが楽しみだわ」

元気になったら、娘とは出来なかった刺繍をしながらお茶をしたり、歌会、花摘み、あれもこれもと夢が膨らんでいく。



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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、こんな展開になるとは。 でも、娘を殺害しようと人を預かるなんて、普通の神経では出来ないよね。 今後、身分とかどうするんだろう。 結婚とかも視野にいれるだろうし。
[一言] やった!ゾフィ生きてた! やったね!お兄様! 結婚出来るよ!(笑)
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