処刑
ゾフィは、軍施設にある牢に捕らわれていた。
出された食事にも手をつけず、泣きわめくこともない。
「サンド侯爵令嬢」
呼ばれて顔をあげれば、牢の外に王太子マーベリック。
ゾフィは立ち上がり、優雅なカーテシーをする。
ゾフィは父親の関与について、話さなかった。
マーベリックは、サンド侯爵が侍女役を指示したのは別人ではないかと思っている。
商人に蛇を注文した女と、ゾフィは別人であるからだ。
父親の陰謀を知ったゾフィが、密かに成り代わったと考えている。
ゾフィが捕まれば、サンド侯爵家は知らぬを通せない。
それこそが、ゾフィの王家とサンド侯爵家に対しての復讐だったのではないか。
『やっと、終わることができるのですね』
ゾフィがそう言ったと、シルビアから聞いたマーベリックだ。
王家もサンド侯爵に期待を持たせて、ゾフィを縛り付けていた。
「サンド侯爵令嬢、明日の朝に決まった。
何か希望があれば、用意するが?」
マーベリックが言うのは、刑の実行の日にちだと、ゾフィは察した。
「いいえ、欲しい物も会いたい人もいないのです」
シルビアを狙ったことは、その時王太子が部屋に居た為に、王太子も狙ったことになる。
ゾフィは極刑、家は断絶を免れないだろう。
「そうか」
マーベリックは、牢番に丁重に扱うように指示をして牢を後にした。
その足は、シルビアの新しい部屋に向かう。
コンコン。
来たな、とシルビアが立ち上がり、扉を開ける。
「護衛と侍女がいないが?」
部屋に入って来たマーベックが、不審に思いシルビアに聞く。
「お前が来ると思っていたからな。
さげさせた。
お茶でいいだろう?」
シルビアは用意してあったティーセットをテーブルに置く。
「明日、国に帰ろうと思う。
国でも気になる事が残っているから。長居し過ぎたぐらいだ」
シルビアの気になることは、部隊長の事だ。
ロイスが処理しているが、シルビアが当事者である。
「そうか、私は簡単には国を開けられない。
サンド侯爵の後始末もしなければならない。
しばらく会えないのは寂しいな」
マーベリックがシルビアがお茶を淹れるのを見ながら呟く。
シルビアはお茶のカップをテーブルに置くと、マーベリックの横に座る。
「シルビア?」
「泣いてもいいんだぞ?
ゾフィ嬢は、長らく王太子妃候補だったんだろう?
お前だって、父親に信用があればそうしていたんだろう?」
「泣くはずないじゃないか」
バカだな、とばかりにマーベリックが苦笑いする。
「でも、ゾフィ嬢を追い詰めた一因が王家にもあると、分かっているんだろう?」
ポンポンとシルビアがマーベリックの肩を叩く。
ゾフィは22歳だと言った。
貴族令嬢で、22歳は婚期を逃している。
父親には、王太子を篭絡するように言われていたに違いないが、王太子は婚約者を決めないまま年月が過ぎたのであろう。
だが、王太子は自分で婚約者を見つけた。
王太子妃となるのに、問題ない家格の娘。
ソーニャに弱い毒を渡したのは、ゾフィの願いだったのかもしれない。
これで国に帰ってくれれば、と。
焦るサンド侯爵は、シルビアが帰国してしまえば手を出すのが難しくなると、凶行におよんだ。
どこかでゾフィは実行犯の侍女と入れ替わり、サンド侯爵家を道連れに破滅することを選んだのだろう。
成功しても、あの教会で命を絶つつもりだった。
ゾフィがいなくなれば、侯爵の野望も潰える。
ゾフィが選んだ選択だったのだろう。
「ほら、肩貸してやるから、少し休めよ」
シルビアがマーベリックの頭を引き寄せる。
「せっかくのチャンスだ。借りようかな」
わざとらしく笑ってマーベリックが、シルビアの肩に頭を乗せる。
マーベリックの立ち合いの元、ゾフィの牢に1杯のグラスが置かれた。
ゾフィは少し微笑んで、震える手でそのグラスを手に取った。
ガチャン。
空になったグラスが床に落ちると、ゾフィの身体が力なく倒れ落ちた。
王宮を後にしたシルビアは、後ろを振り返らない。
ネイデールに戻れば、処理しなければいけないことが山積みだろう。
シルビアを乗せた馬車は、スピードをあげてネイデールに向かう。




