狙われたシルビア
「シルビア、私からみてロイス殿は無理だと思うぞ」
マーベリックは王太子としての判断だ。
ソーニャは王女というだけで、それ以上のリスクが多い。
すでに、シルビアとマーベリックが婚約しているから、両国の補強ということも必要ない。
「シルビアの言う通り、もしロイス殿がソーニャに興味を持ったとしても一過性のものだろう。
それもいい意味での興味ではなく、王族の責務を果たせない愚かな王女に対してのものだ」
「そうか、それでは仕方ないな。
私としては、処罰はすでに与えたつもりでいる。
これ以上の謝意は必要ない」
シルビアの言葉があっても、それだけで済まされることではないと分かっている。
王はシルビアに礼を言うと部屋から出て行った。残るはマーベリックのみ。
シルビアに与えられた部屋は、サロンと続き部屋が2つあり、1つは寝室で、1つが執務室である。
執務室には、応接セットと執務机が配置されているので、ここで王と対面していた。
マーベリックはソファに座ったままである。
「しかし、ロイス殿を持ってくるとは驚いたぞ」
マーベリックは、まだ話があるらしい。
「兄の結婚は公爵家の最重要課題だ」
シルビアの意見はごもっともである。
反対に同じ事を言われ続けていたマーベリックは、耳がいたい。
「シルビア様」
声をかけてきたのはヒューマである。
「ソーニャ王女がおみえです」
「ここにいるのは、マーベリックだけだ。
通してくれ」
シルビアの返事を待っていたかのように、侍女を連れたソーニャが部屋に入って来た。
どうやら、サロンで王の話が終わるのを待っていたらしい。
侍女達もサロンで待機しているので、執務室にはシルビアの許可がなければ入れないのだ。
ソーニャは深く頭を下げると、震える声で謝り始めた。
「私、考えて。ちゃんと謝らないといけないと思って。
ごめんなさい」
シルビアと目が合うと、震えあがるのを見ると、シルビアが怖いらしい。
だが、反省して勇気を出して謝罪に来たのだろう。可愛いではないか。
シルビアがそんなことを思っていると、隣のサロンが騒がしい。
ガタン!
キャー!
何かが倒れる音と侍女の叫び声に、ヒューマとマーベリック、シルビアが飛び出した。
シルビアは手に剣を持ち、マーベリックとヒューマは帯剣している。
サロンでは侍女が一人倒れていて、もう一人の侍女が壁に背をつけて震えている。
「どうされたの?」
ソーニャが執務室の扉から出て来た。
「来ちゃだめだ!」
シルビアが駆けより、振った剣は蛇を刺していた。
「戸を閉めて、閉じこもってなさい!」
ソーニャは、恐怖で目を見開いたまま声もなく頷いて、機械人形のような動きで扉を閉めた。
「9、これで最後か?」
シルビアが蛇の死骸をサロンの床に放り投げる。
「わからん、逃げ込んでいるかもしれない。もう少し探そう」
マーベリックが椅子をどかしていると、廊下から扉を叩く音がした。
「王太子殿下」
ドンドン!
外に逃がした侍女が、医者と騎士を呼んで来たのだ。
シルビアがそっと扉を開けながら、騎士を先頭にして入室させる。
「剣を抜け。毒蛇が放たれた。
まだ、隠れているかもしれない。
先生は倒れている侍女を診てほしい。蛇に噛まれた」
さらにもう1匹が見つかり、それ以上はいないようだったが、念のために捜索は続いていた。
家具を動かして隠れていないか調べる。
侍女が言うには、部屋に箱が投げ込まれ、床に落ちた振動で蓋が開き、蛇が飛び出してきたというのだ。
あっという間の事で逃げることも出来なく、近くにいた侍女が噛まれて倒れたらしい。
残念ながら、医者が駆け付けて来た時には、すでに侍女はこときれていた。
「可哀そうに」
シルビアは動かない侍女の手をなでて、胸の前で組んであげる。
「君達、この娘をお願い」
騎士達に声をかけるとソファに寝かした。
ガチャ。
執務室の扉が開く音で、ソーニャがソファから立ち上がった。
「シルビア様」
ソーニャがシルビアに抱きついた。
「助けてくれてありがとう」
さっき扉を開けた時に、向かって来た蛇をソーニャの目の前で斬ったことを言っているのだろう。
「恐かったね。
大丈夫だよ、部屋まで送ろう。
侍女殿も一緒に来なさい」
シルビアが言うと、ますますソーニャはシルビアにしがみ付く。
執務室を出ると、ソーニャの目にたくさんの蛇の死骸が映った。
騎士達も緊張しながら家具を動かしているのがわかる。
そしてソファには横たわって動かない侍女。
「マーベリック、王女を部屋に送ってくる」
シルビアが声をかけると、騎士に指示をしていたマーベリックが顔をあげる。
「ああ、頼む」
王女と王女付きの侍女を連れてシルビアが部屋を出ると、守るようにヒューマが後を付いて行く。
その姿を見送りながら、マーベリックは拳を握りしめる。
「私の婚約者を認めないということか。
シルビアを狙った事を許しはしない。
王宮でこのような事をして逃げれると思うなよ」




