自白
もう確定かな。
王女の部屋を出てきたシルビアは、先ほどの王女との会話を思い出して笑いをこらえた。
マーベリックの過去に付き合った女性を言っていたが、自分で蛙や虫を入れて虐めて追い出したくせに。
私が認めた女しか兄に相応しくない、とでも思っているのか。
都合の悪いことは忘れるのだろう。
ならば、忘れることが出来ないようにしてやろう。
翌朝は久しぶりに練習場に出た。
「侍女の時は違う名前を名乗っていたからか、この姿の方がシルビアって気がするよな」
マーベリックが可笑しそうに言う。
「侍女も私好みで綺麗だったけどね」
話しながらも、マーベリックの打ち振う剣の力は落ちない。
ザン!
横に一振りした刃を、僅かに逸らしてシルビアがマーベリックに打ち込む。
マーベリックは返す刃でそれを打ち落とす。
マーベリックとシルビアの手合わせは早朝に1時間程していたが、どちらともなく剣を降ろす。
「早いな、動きが視覚から一瞬消える時がある」
「さすがに力では敵わないから、スピード優先だ」
流れる汗を拭いながら、シルビアが答える。
「午後から忘れるなよ?」
シルビアがマーベリックを見れば、頷いて応える。
「悪いな、忙しいのは分かっているんだが」
「いや、それはなんとかする。
シルビア」
マーベリックがそっとシルビアの髪に手を伸ばす。
「お前、私の髪が好きだな?」
マーベリックのアプローチはシルビアに届かない。
午後からは、庭園でお茶会が開かれていた。
主催はシルビアで、王妃と王女が招待されているが、侍女や警護を含めると庭園にはかなりの人数がいる。
レースのブラウスに黒のトラウザーズ。
慣れた手つきでお茶を淹れ、王妃の前に置く。
うっとりと見た後で、王妃がシルビアの淹れたお茶のカップを手に取る。
「シルビア、体調を崩していたと聞きましたが、どうですの?」
「ご心配ありがとうございます。大したことありません」
シルビアがニッコリ微笑み付きで答える。
「1週間も寝込むのが、大した事ないのかしら?」
「ソーニャ」
シルビアに突っかかった王女を、王妃が諫めるが、効果はない。
「そんな軟な身体で王妃の公務をこなせると思っているのかしら?」
さらに、嫌みを続ける。
「体力には自信があったのですが、疲れが出たのかもしれません。
強行日程で、動いていたので」
そう言いながら、シルビアはソーニャの前にもカップを置く。
「王女殿下から頂いた茶葉だとお聞きしました。
お礼が遅くなり申し訳ありません。」
シルビアの言葉にソーニャの心臓がドクンとする。
そんなはずない、一回分だけ侍女に持たせたのだ。
残りのお茶は、部屋に保管してあるはず。
ソーニャは、思考がシルビアに飲ませたお茶でいっぱいになっている。
侍女は何も知らずに持って行ったはずだ。請われて残りを渡したのか?
「濃い目に淹れました。
その方が香りが良いお茶なので」
言われて見れば、香りも色も濃い。
「まあ、ソーニャのお勧めなのね」
王妃はそう言ってカップを口に運んだ。
ガチャン!
ソーニャは無意識に、王妃が手に持つカップを叩き落としていた。
一瞬、軍人の体力があるシルビアでさえ1週間寝込んだのだ、普通の人間ならばと考えてしまった。
「あら、もう一度淹れ直しましょう」
シルビアが新しいカップを用意するのに、ソーニャは叫んでしまった。
「お母様飲んじゃダメ!」
「どういうこと?」
驚いていた王妃がソーニャに問いただす。
そこで、ソーニャは驚いたように挙動不審になる。
「お茶に毒が入っているとでも?」
シルビアがソーニャに威圧をかけるように言う。
「毒じゃないわ!少しお腹が痛くなるだけと聞いたわ」
ビクリと肩を振るわせて、ソーニャはポツリと言う。
「それを毒というのだ!」
シルビアの声が響いた庭園に、物陰にいたマーベリックが姿を見せた。




