シルビアの戦い
たくさんのギャラリーがいる為に、マーベリックとシルビアの手合わせは後日となった。
マーベリックはダンディオンを連れ、シルビアはヒューマを連れて、それは目立つ一群であった。
なにより王太子であるマーベリックの言葉はすぐに広まった。
男装の婚約者、その言葉だけが広がっていく。
マーベリックと共に向かったのは王家のサロン。
婚約者としての紹介があるという。
そこには、王様と王妃、とても分かりやすい表情の王女がいた。
口に出さなくとも、聞こえてきそうだ。
『なに、あの姿。
こんな人がお兄様の妃になるなんて』
ええ、とても分かりますよ。
シルビアも口には出さない。
「父上、母上、この度は婚約の許可をいただきありがとうございます」
マーベリックも分かっているが、あえて無視する。
「シルビア・レーベンズベルク公爵令嬢です」
マーベリックはシルビアを紹介した後に、シルビアにも紹介する。
「シルビア、父と母と妹のソーニャだ」
シルビアは立ち上がり、騎士としての礼を取る。
「シルビア・レーベンズベルクです。どうぞ、シルビアとお呼びください」
「貴方が自分から望んだ令嬢ですから、反対することはありませんが、驚きました」
王妃がシルビアに微笑む。
こんな公爵令嬢見たことないよね、それでも理解しようとして大変だね、と何故か他人事のシルビア。
「シルビアはしばらく我が国に滞在してくれるそうなので、母上にお願いしたい」
マーベリックは執務があるので、シルビアに付き添う事ができないから、王妃に預けると言っているのだ。
条件だけでいえば、王妃教育を終えているシルビアは、マーベリックの婚約者として問題はない。
だが、国内にこそ問題がある。
「ええ、もちろんです。
お茶にお呼びしてもいいから?
シルビア」
「もちろんです」
シルビアにしても、義母になる人とはもめたくない。
だが、妹の方は暇つぶしに付き合ってもらおうか。
とんぼ返りのつもりだっただけに、この国ですることがない。
外国人のシルビアが、王太子の婚約者とはいえ、自由に動くのは支障がでるだろう。
シルビアは、その日の午後にお茶会に招待された。
元々予定していたお茶会に招待されたらしく、多くの夫人達が集まっていた。
「王妃様、お招きありがとうございます」
シルビアは、王妃に挨拶すると膝をおる。
背後には警護のヒューマを連れており、招待客の注目を集める。
シルビアを噂で知っている夫人も知らない夫人も、姿を見るのは初めてである。
驚きを隠せない夫人ばかりだ。
そんな中で、チラチラ見ている令嬢に気が付いた。
「王妃様、あちらのご令嬢は?」
シルビアは隣に座っている王妃に尋ねる。
「モーリアス侯爵のご令嬢エミー様よ」
「少し席を立っても?」
「ええ、もちろんよ」
王妃の返答を待って、シルビアはエミーの所に歩いて行く。
「ご令嬢、何か?」
ニッコリ微笑んでシルビアが声をかける。
「シルビア様」
頬を染めてエミーがシルビアを見上げる。
「ネイデール王国の従姉から、シルビア様の自慢話を聞かされてましたの。
剣がお強くて、優しくて立派な方だと。
お会いできて夢のようです」
「それは光栄だ。
期待外れにならなければいいけど」
クスリと笑みを浮かべてシルビアが言うと、エミーだけでなく周りの夫人達の雰囲気が変わる。
「シルビア様。
剣の練習をされるなら、見に行っていいでしょうか?
従姉が素晴らしいと言っていたので」
エミーが立ちあがり淑女の礼をする。
「許可があれば、剣の練習と乗馬をしたいな」
皆の注目を集めている会話である。
エミーの他にも、シルビアの事を知っている夫人もいるようだ。
「王妃様、シルビア様はネイデール王国はとても人気の騎士様ですの。
御存知でしたか?」
王妃の友人だろう貴婦人が説明をする。
「私も見に行きたいわ」
王妃まで言い出すと、夫人や令嬢達が次々と見に行くと声を挙げてピクニックに行くかのような騒ぎになった。
ソーニャ王女は、周囲の騒ぎにイラついていた。
あんな人のどこがいいの、膝に置いた拳を握りしめた。
隣のテーブルでも高位貴族であろう令嬢が、シルビアを睨みつけていた。




