ロイスの報復
軍指令部には、ロイスだけでなくユークリッドも来た。
ロイスは一つの考えがあった。
何故にユークリッドを狙うのか。
王の子供はユークリッドだけだ。
第2位は王弟レーベンズベルク公爵、第3位はロイスであるが、女装の自分を王と認めない者もいるだろう。
女性に継承権はないのでシルビア自身はないが、男児が生まれれば継承権が発生する。
第4位は不明と言ってもいい程たくさんいるのである。
先代の王には、たくさんの兄弟姉妹がいた。
彼らは既に亡くなっているが、その子供、孫がいる。
誰もが狙える王座。
ガイメル辺境伯も低い継承権を持っている。
先代王の姉が嫁いでいるからだ。
「男を連れて来てくれ」
メイヤーの先導で牢のある軍司令部に来たユークリッドが言う。
ユークリッドの後ろには、軍には不似合いなドレス姿で優美に歩く令嬢が続いている。
下級騎士などは、初めて見るロイスの姿に貴族令嬢と信じて疑わない。
ユークリッドとロイスに椅子を勧めて、メイヤーは横に立つ。
先日まで第2部隊長の居た牢から、男が連れてこられた。
メイヤーが一歩前に出て、尋問を担当する騎士に指示を出す。
「まーたく、簡単に吐くんだもん」
文句を言っているのはロイスだ。
男はすぐに知っていることを話した。
「あれで王宮に入り込むなんて、考えが甘すぎ」
「秘書官、良かったではないですか。時間がかからなくって」
書類を作りながらメイヤーが言うが、ロイスの機嫌は良くならない。
男の他にも2人の男が雇われていたという。
見慣れぬ近衛の制服を着た男の捜索ははすぐに始められ、時間をかけずに捕まえる事が出来た。
男は雇われた時に、使いの者の後をつけ、貴族の屋敷に入るのを見ていた。
その屋敷は、ガイメル辺境伯の屋敷だった。
牢に繋げたことの報復か、王位を狙ったものかは分からないが、お粗末というしかないだろう。
準備をしていたが、街の支柱に括りつけられて急遽実行したということかもしれない。
「いらないな」
ロイスが言うことに、ユークリッドも反対はしない。
「そうだな」
メイヤーをはじめ、執務室の中にいる者は黙って聞いている。
「シュテフ、喜べ。領地が増えるぞ」
ロイスがガイメル辺境伯を取り潰して近隣に配分すると言っているように、メイヤーには聞こえる。
「秘書官、実行犯の証言とはいえ、確証とした証拠ではありません」
「あら、シュテフは真面目ね。
そんなもの簡単に作れてよ」
ロイスが女言葉で恐ろしい事を言う。
メイヤーは王太子を見るが、止めようとしないどころか、バレるなよ、と言う始末。
「シルビアを殺そうとしたうえに、王太子まで狙うとはバカ過ぎて、平和ボケしているんじゃない?」
ねー、とクスクス笑うロイス。
「他国と内通、この罪がいいかしら?」
「ロイス、陛下は完璧な証拠であっても簡単に認めないぞ」
ユークリッドは王の拒否で、廃案になるのを何度も見ている。
「直ぐには無理だと分かってるわよ。
それに、ガイメル辺境伯の協力者も探さないとね」
メイヤーはロイスが女言葉を使う時は、怒りを隠している時と分かった。
だから、王太子はこういう時は逆らわないのだな、と二人を見る。
そして自分は、この二人から離れることが出来ない立場になったのだ、と悟った。




