ティーパーティー
スカラー伯爵邸では、ガーデンティーパーティーが催されていた。
壮絶な勝ち抜き戦、もとい招待状の争奪戦に勝ち残った令嬢達が、色とりどりのドレスで着飾って、主催のスカラー伯爵令嬢ではなく、招待客のシルビアに挨拶に訪れていた。
王太子の地方視察から戻ったシルビアが、パーティーの招待を受けたのだ。
たくさんの招待状の来る公爵家であるが、昼間は任務がある為、シルビアが招待を受けることはない。
シルビアがティーパーティーに参加するという話は、直ぐに令嬢達の間に広がり、いろんな権力を使って招待状をもぎ取っていくことになった。
シルビアは、バラのアーチから庭園に入って来るスカラー伯爵令嬢を見つけると歩み寄り、手を差し出した。
一瞬躊躇した令嬢は、頬を染めてシルビアの手に手を乗せた。
「きゃあああ!」
あちらこちらからあがる悲鳴ともいえる声に庭が騒然となる。
パーティーでのシルビアは軍服、タキシード、それに準ずる衣装で、兄のロイスをエスコートするか一人であった。
それが、今回は一人で来て、主催の令嬢をエスコートだ。
「本日は、お招きありがとうございます。」
シルビアの微笑み付きである。
令嬢達もシルビアも遊びと分かっている。
ただ、熱心な令嬢や夫人が多いというだけだ。
スカラー伯爵令嬢が羨望の目で見られる。
次回は、是非我が家のパーティーにも来て欲しい、熱烈な視線が送られる。
視察の護衛から戻ると、頭の痛いことになっていた。
ワイズバーン王国から縁談が申し込まれていたのだ。
父親である公爵は乗り気で、国王は渋っているようだった。
シルビアを嫁に出したくないというわけではなく、シルビアが持っているだろう情報を懸念しているようである。
それらが、当事者のシルビアを除いて話が進んでいる。
バカらしい。
率直にいえば、それに尽きる。
勝手にしていればいい、決めるのは自分なのだから。
もう子供ではない。
生まれて直ぐに婚約したユークリッドの時とは違う。
思い出して笑顔が浮かぶシルビアに、令嬢達が勘違いしたようだ。
「シルビア様、ご機嫌でいらっしゃるのね?」
「わかりましたわ。婚約がなくなったことでしょう?」
令嬢達の情報網は、恐ろしいものがある。
まれに、とんでもない真実がるので、侮れない。
「王太子殿下の新しいお相手は、子爵令嬢だそうよ。
新しく婚約者になられる方はお気の毒だわ。
殿下は何人も側室を持ちそうですもの」
「嫁いでも、他にもお子がいようなら国内不安になるとお父様も言ってられたわ」
侯爵令嬢が言えば、他の令嬢も頷く。
「あら、他国の姫君を次の婚約者に考えていると聞いたわ」
シルビアは椅子に座り、面白そうに話を聞いている。
子爵令嬢なら王太子妃は望めないだろう。
ましてや、王妃殿下の教育に着いていけまい。
ユークリッドも困ったものだが、だからといっても他の者にというのも難しい。
公爵嫡男である、我が兄も婚約者がいない。
自分より綺麗な女装の夫、嫌だろうな。
シルビアが席から立つと、皆の視線が集まる。
「お天気もいいし、素晴らしい花々が咲き乱れています。
私と庭園を散歩してくださるお嬢様はいませんか?」
シルビアを囲むように、令嬢達の輪が出来る。
あれはハナミズキ、あれはジンチョウゲ、あれはヤマブキ、あれはミモザ、あれはモクレン、と令嬢達が花の説明をしてくれる。
シルビアに話しかけられて、嬉しそうな令嬢達の笑顔にシルビアもつられる。
盗賊征伐や、近衛の任務、第2部隊長の反乱と疲れた身体が癒されていく。
穏やかな陽だまりに、明るい笑い声が響き、ひと時の気分転換だ。
だが、盗賊の尋問も途中であるし、第2部隊長の処分もしなければならない。
屋敷に戻れば、ワイズバーンの王太子だけでなく、縁談は他にも来ている。
考えなければいけない事ばかりだ。
僅かな時間でも、仕事から離れて気力が充実したのがわかる。
いくら政略とはいえ、自分の婚約者が他の女性を連れて婚約破棄を言う、悲しくないはずがない。
ユークリッドには、後悔させてやる、とは思っているが直ぐには無理だろう。
だが、ここはシルビアを嫌う人間はいない。
それが、安心させてくれ、リラックスできる。
有意義なティーパーティーであったと、シルビアは令嬢達に別れを告げる。
「まだ、任務が残っているのです。
また、訓練を見に来てください」
手を振りシルビアが庭を出て行く。
「私達もとても楽しかったですわ」
「必ず訓練場に応援に行きますわ」
シルビアの姿が見えなくなるまで、令嬢達が見送っていた。




